いっそ、踊れ
ミウさんパーティと、私たちパーティの対決が終わったと思ったら…さっき巻き添えになった魔公爵アスタロトが出てきた。
魔公爵アスタロト、☆☆☆☆火属性悪魔モンスター。ステータス、288-68-31。性能的に突出したところは…マインドクラッシュが使えること、全属性単体魔法攻撃のメテオ!が使えること、必殺の一撃を覚えることくらいで、そこまで脅威となるものはないのだが…キャラデザの人気が異常に高く、前の世界ではイベントの全国ランキングにアスタロトとその進化前のモンスターでパーティを組んでいる人が何人かいたのを覚えている。まぁたしかに、白とブロンドが混ざったような色の長い髪と、これでもかってくらいのイケメンと、コートのスリットから覗く青い肌にくっきり浮かぶ腹筋と…うん、こりゃ惚れるわ。あ、でも私は惚れないけどね。同じ洗脳持ちならツクヨミしか勝たんから。うひひ~。
閑話休題。
「はー無駄無駄無駄……時間も何もかも超無駄ぁ……」
「…無駄無駄うるさいわね、誰これ?」
「イシスより身分が低い悪魔だよ!」
「扱いが雑すぎるわよ…」
「あ、イシスー、全員蘇生させてー?」
「あとでネロケミちゃんもにもにのご褒美ちょうだいよ!」
…あっ、まずい。もうもにもにできないんだった…
「…まぁいっか!」
「………なにかすごく不穏な空気を感じるのは気のせいよね?ヒビカ?」
「無駄なんだって言ってんのがなんでわかんないかなぁ…!ゴミ虫はさぁ、とっとと消え…」
「蘇生してんだから静かにしなさい!」
メテオを放とうとしたアスタロトに容赦ないマジュラが刺さる。
イシス、なんだかんだ言ってあんたが一番私に似てきてるよ。
「ヒビカ…これ、どういうこと…?」
「…ネロケミちゃん本人の意思だから、私にはどうにも…できまへんでひた…」
軽く状況説明。回生のインアーシュを使おうとしたイシスを止めて、ツクヨミに変化してもらい…全員を蘇生させた。そして、変化を解いて真っ先にネロケミちゃんの所へ飛びつこうとしたイシスが…☆☆☆にクラスチェンジして立派なお姉さんになったネロケミちゃん、改めネロケミストリを見つけて…無言で私をマジュラて拘束して水責め中なのだ。なんでまず私を疑うんだろう。
「あ、あの!イシスお姉さん!」
「なに…?」
「お探しのものはこちらでしょうか?」
「はいそうですっ!!!」
ふとイシスが振り向くと、普段通りのプニプニスライムになったネロケミちゃんがいた。女神の威厳も忘れてネロケミちゃんにダイブするイシス。あのー、マジュラ解いてくれませんかー?
「…戻れるンだ、すご…」
ベルゼブブもびっくりしてる。ネロケミちゃんってやっぱりこの世界では異質な存在なのかな…?
「でもでも、ベルゼブブさんもブブに戻れたりしますよね?」
「…戻りたくないだけ…アレだとちょっと…気味悪がられるから…」
…あっ、なんだ。普通なことなのか…?
と思ったけど、でも待て待て。おしゃべり箱の発言に矛盾してるぞ…
「…あでっ……もうちょっと優しくしてくれない?」
……なんて考えてたら、急にマジュラから解放された。びっくりするじゃないかもう。ぷんぷん。
「いつも乱暴な扱いばっかりのヒビカにはこれで十分じゃな…」
「おっと嬢ちゃん、オレの包丁をこれ以上錆で重くしないでくれるか?」
「………………ハイ、スミマセン」
Sp5とは思えない勢いでイシスに距離を詰めたドクロが首元へ包丁を振りかぶり、寸止め。ちょっと離れてた私でさえマジで怖かったから耳元であんなセリフをささやかれた、イシス……ご愁傷さま……
うん、じゃあ、話を戻すと、魔王とネロケミちゃんが例外なんだ。そういう事にしよう。イレギュラーが多すぎて頭がおかしくなるよ…
「ハイハイ、じゃあみんなでアスタロトちゃちゃっと倒すよー?」
「あの、ヒビカさん?アスタロトってサクラさんの相手なんじゃ…」
「あれ?でも倒したって言ってたよね?」
「倒したことは、倒した。ただ、リザルト画面で、マーリンたちが居なくなって、無かったことになったの」
「「サクラさん?!」」
ふと聞こえた声に振り向くと…いつから居たのか、おうまーりんして貰ってご満悦な顔…いや、大きすぎるVRゴーグルのせいで目は分からないけど…をしてるサクラさんがいた。それ以上に…
「…何食べてるの??」
「マーリンのかみのけ」
そう、マーリンの髪をハムハムしてる。当の本人は慣れたのか何も言わない…いや、あの顔は諦めたのと恥ずかしいのとがまざってる顔だ。ご愁傷さまーりん。
「おいしいんですか?」
「マーリンの味がしておいしい」
どんな味やねん。いや、今優先すべきはそっちじゃなくて…
「サクラさーん、アスタロトがそろそろプッツンしそうだから早めに倒してあげて?」
「ん、でも人が足りない」
「ここにいっぱいいますよ?」
「ううん、私のチーム」
確かにミウさんの言う通り、さっき戦っていたみんなが蘇生させられてここにいる。ドラゴンはサルファだけだ。ヴァンプスは正式にチーム入りしてるけど、連れ歩きは出来ないことになっているので…今はお休み中。
つまり、サクラさんはまだパーティメンバーがマーリンしか居ないことになっている。クロムくらいなら呼べるかもしれないけど…
「でも、マーリンだけでいいや」
「クロムはいいの?」
「クロムより使いたい子がいるから、いい」
クロム、ごめんよ…出番を増やしてあげられなくて…こんどその火属性モンスターに会ったら、バトルシーンあげるからさ…
「じゃあ、マーリン、頑張って倒してきて」
「…まず降りろ」
「えー」
「さすがに……恥ずかしい」
「わかった……」
サクラさんがすごくしょげた。ちなみにこの後ネロケミちゃんをイシスから強奪して渡してあげたら、すごく元気になりました。よかったよかった。
「さて、先ほどの続きだな?」
髪を一度たくし上げ、真剣な顔でアスタロトと対峙するマーリン。
「……………どれもこれも無駄な時間だ、すべて返してもらうからな…」
対して、髪をわしゃわしゃして苛立ちをあらわにするアスタロト。
「何を怒っている?余裕がない輩は嫌われると教えただろう?」
「同じことを、わかりきったことを、2度も言うなんて…!なんて、なんて無駄なんだ…………!!なぜキミたちゴミ虫は……無駄な時間に、それほど執着するんだ………!」
「単純だ。それが私にとっては必要な時間だからさ」
「………理解しようとするだけ無駄………無駄、だったとは………!!」
「わかるまい、魔公爵。よき友であり理解者である者と主従関係を結び、わがままを受け入れることのなんと至福なことか……!」
あっ、なんだ。マーリンらしい言い方だけど、なんだかんだサクラさんと遊ぶの楽しかったんだな。デレデレのデレマーリンとはだれが予想しただろう。あれ?さてはマーリン、ムッツ…ゲフンゲフン
「ただ、無駄な時間をかけるのには私も反対だ。だから…手早く済ませよう!」
「済むならな…………!!」
イライラが天元突破しそうなアスタロトを前に、落ち着いて氷芽の矢を放つマーリン。先ほどよりも出力が上がっているのか、杖を腰に構えてマジモンの機関銃のようにダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!と謎の音を立てながら連射している。この間わずか0.2~0.3秒。そういえば、こんな歌があったような…?
「ハァ…………!!面倒だァ!!」
さて、そんな氷のマシンガンが迫るのを見てため息を一つこぼしたアスタロト、躊躇なく翼を広げ…高速回転。あのモーションは、必殺の一撃だ。そのまま強引にマーリンに間合いを詰める。マシンガンとなった氷芽の矢は、はらり、はらり、乱れてはらり。すべてはじかれてしまう。
「なかなかに大胆だな、魔公爵!」
「さぁ、慈悲深いオレ様が…キサマのようなゴミにも価値を与えてあげよう!ほら、今日からオレ様がご主人だ……………!」
氷芽の矢が止んだ隙に、ビシッ、と、謎のキレキレターン以外に何の無駄もない決めポーズを決め、指をマーリンへ向け、洗脳。マインドクラッシュだ。前にクイズ大会で出したから、覚えている人も多いよね。たぶん。
「ふっ、刃向かう術は無い、まさに閃光、か…歌の通りだな…」
「さぁ、無価値なゴミに仕事をあげてやろう……!さっさと奴らを始末しろァ!!魔公爵様の前で無駄なものばかり見せやがって…………不愉快にさせた罰だァ!!」
「…哀れな魔公爵だ、歌も知らぬとは……」
「!?おかしい………洗脳したはず……!」
「歌を知らないのか?飛び交う視線、
「何をぬかして………!!」
「矢を弾くには無駄がない動きだった。だが……魔法を弾くには無駄があったようだな?」
杖の先をアスタロトへ向け、見下したような冷たい目を向けるマーリン。杖の先には…白い塊。氷華の罠だ。実はマーリン、先ほど氷芽の矢の合間にダークを少しずつ混ぜて、アスタロトを沈黙状態にしていたのだ。なるほど、沈黙状態でも魔法を唱えることはできるのか。そして、技が発動しないだけで技の発動モーションはとれてしまうから…これは、かなりキツい状態異常だな。
さらに、必殺の一撃が届いた場合に備えての氷華の罠ときた。なるほど、マシンガンをアスタロトが防ぐ術は必殺の一撃の特攻しかないと知っていてこの作戦を出したのか。メテオ!でまとめて消し去ろうにも、メテオ!の準備時間がマシンガンより長いためかなりのダメージを許してしまう。なら、ほかの攻撃技…その中でも最高打点である必殺の一撃で手早く済ませたい…というアスタロトの思考を完璧に読んでいたようだ。そして、マインドクラッシュもちゃんと封じられるような完璧な策をこうも手早く立てて、手早く実行。マーリン、本当に強い。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぬかすんじゃねェァァ!!オレ様の…魔公爵様の…完璧な行動に…その、どこに無駄があるってんだァァ!!!」
目をひんむいて、文字通り悪魔の形相で吠えるアスタロト。あまりの剣幕に、私やミウさん、サクラさんも思わずびくついてしまう。そんな中、マーリンは相変わらず視線をそらさず…ふっ、と笑みをこぼす。
「無駄でないなら同じことをすればいいだろう?私が完膚なきまでに倒されれば、無駄がないと示せるだろう?何を躊躇っている?」
「………………………………………………………!!!!」
歯を食いしばり、動かないアスタロト。それもそのはず。必殺の一撃をまた使えば、マーリンの思惑通り、氷華の罠にかかってしまい、先ほどの矢で減らされたHPを一撃で持っていかれてしまう。そんなことをすれば…自分が少しでも無駄なことをしていたと、認めてしまうことになる。そんなアスタロトを見据えたまま、一度ちらりと私たちのほうを見て、微笑むマーリン。すると、サクラさんの隣にEXゲージが。こんなにダメージを受けていないはず…と思ったが、どうやら先の戦いでネロケミちゃんに倒された時のものを取っておいたようだ。ほんとに賢い。
「サクラさん、やり方はご存じですか?」
「………うん、潰すんだよね」
「声めちゃくちゃちっちゃいけどだいじょぶ…?」
「マーリンが……ばりてぇてぇ…」
「「……わかる。」」
うん、しょうがないよ。めちゃくちゃかっこいいもん、しかも最推しだもんね。というか、普通声も出ないで昇天しててもおかしくないよ…よく喋れたよね…
「マーリン、頑張って…!」
小さな掌でがしゃん、とEXゲージを解放してやるサクラさん。緑のエネルギーはマーリンのもとへ向かい、その体に影を落とす。
「ふふっ、期待に応えねばな…」
小声でつぶやくと、アスタロトに向き直り…なにやら、唱え始めた。
「…ひらり、はらりと乱れ舞い…今宵、咲きます一輪の花…」
「…………?寒気が……?」
「…この瞬間を、わが友にして、最愛の主に捧ぐ……」
「……!足元……これは、氷……?!」
「…さぁ、我が手中、氷獄の楽園にて、氷の茨と戯れるがいい!」
マーリンが叫ぶと同時に、杖の端を地面に突き刺す。その振動がトリガーとなり、先端に溜められた氷が一斉に…茨と化してアスタロトにまとわりつく。その様子は、氷属性のサラマンダというべきだろう。意志を持ったような氷の茨が、空中に美しい軌跡を描きながら…文字通り、標的の喉元に喰らいつく。そして、みるみるうちに…アスタロトを、繭のようにして閉じ込めた。
「こんのァ……!!」
「残念ながら、その子らは自分から手を出さない。動いた時がキミの最期だ、魔公爵…!」
「チッ…」
「…ではな。」
事実上詰みとなったアスタロトに背を向け、サクラさんのほうへ向かうマーリン。マーリンがここへ来るまでの間に…氷獄の園は消えた。アスタロトが退場したのだ。
そんなマーリンは、私たちのパーティみんなと、サクラさんに出迎えられたが…
「………なぁ、せめて何か言ってくれ………恥ずかしいじゃないか………」
あんまり誰も何も言わないから、さっきのセリフとかが恥ずかしいのか…顔を赤くしてそっぽを向いた。
結局、我慢ができずにマーリンに飛びついてよしよしをしているサクラさん以外のみんなで、無言のまま拍手をしてあげました。そんなマーリンの顔はさらに赤くなって、小声で「恥ずかしい………こんなことならクロムとゼノビアを呼んでおけば………」とつぶやいて、サクラさんの「でもクロムとゼノビア、絶対おちょくりそう」という冷静なツッコミに絶望したとか。
さて、マーリンとサクラさんが落ち着いて顔を真っ赤にして戻ってきたので…肝心の質問をすることに。
「サクラさん、ほかのパーティメンバーは誰にするの?」
「ん、パンドラにお願いしてある」
「なんだかサンタさんみたいですね!」
ミウさん、あんな口を開けばブラックジョークが飛び出るようなおしゃべり箱にクリスマスの朝に会いたいかい?私は嫌だな。
「…またしれっと頭の上にいるわね…」
「だって、落ち着くから」
「マーリンがどうみても落ち着いてないと思うわよ…?」
「マーリン、慣れて」
「…もう少し時間をくれ」
「やったー」
ほほう、今の質問…「まだおうまーりんしてもいいよ」とマーリンに言わせるのが難しいから、切り口を変えて尋ねたのか。これはあとで言質取られるぞ~…
「ほいほ~い、待たせたな~」
「ハハッ、いつからパンドラは特殊部隊に入ったんだ?」
「おいドクロ、コイツにかぶせる段ボールなんてあんのかよ?」
「…よくわからないけど黙った方がいいわよ二人とも…
…みんななんでこんなにネタに精通してんだろう。
「じゃ、お待ちどうさまのモンスターだぜ~!」
「ん、待ってた」
めちゃくちゃワクワクしてる。誰になるんだろうなぁ…
「まずは火属性から…コイツだっ!」
「……………パンドラ、順番考えろァァァ………!!!」
「「あ。」」
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