Encounter 3

仮面をした人…つまり、プレイヤーだ。

それがたった今、虚空から降ってきたわけで…


「…とりあえず、みんな帰ってていいよ〜」


面倒になると思ったからみんなを帰らせた。メソタニア軍、バビロア騎士団、私とミウさんのパーティメンバー、あとムウス。ムウスはバビロア騎士団についていった。ミウさんのパーティは、私のパーティと交流をするそうで…バビロア王城の広間へ魔法陣で移動。サルファも入るのかなぁ。ちなみにクドラクはファントムが出てきたあたりでもう元の姿に戻っていた。だいぶヘロヘロだったから、すぐに倒れて…寝ていた。クルースニクがおんぶして連れていったのだが…ミウさんが「写真撮りたいよぉぉぉぉ!!!!!」って叫んでたな。うん、あれは私も撮りたかった。おしゃべり箱に撮らせときゃよかったなぁ。後で実は写真見せてくれたり…しないかなぁ?


閑話休題。


さて、この降ってきた人…少し小柄だ。おそらく、女の子。髪色は…薄い桃色だろうか。どことなく、髪は盾使いの後輩マシュ・キリエライトに似ているかも。背丈は私たちより少し低くて、年下感がある。服は、ダボッとして手が袖から出てないようなパーカーに…下の服はパーカーの下に隠れて見えない。多分デニムのショーパンだろうなぁ…脚は黒タイツで覆われている。私たちのスカートと同じくらいの丈までパーカーがあるので、うん、健全。そして…


「何その仮面…」


仮面が…VRゴーグル。すっごく重そう。鼻から下は普通に見えていて…うん、かわいいと思う。かなり現代的な格好だなぁ…


「ヒビカさん、お知り合いですか?」


「んー、VRゴーグルつけた知り合いなんて居ないしなぁ…それにパンドラも何も言わないし…」


「ねぇ」


「は、はいっ!!」


ミウさんの背後に音もなく回り、話しかけるプレイヤーさん。気配を消すのがうまいのか…?


「ここは?」


「えっと…メソタニア王城、です?」


「ですです」


ミウさんが自信なさげだったから、肯定で返す。すると、プレイヤーさんは何か考え込んでるらしく…


「……………」


…黙りこくってしまった。仕方ない、こちらから攻めてみよう。


「あの、私たち別世界から転移してきたんですけど…貴女はどちら様でしょう?お名前伺ってもよろしいですか…?」


「あ…私も、同じ。授業中、眠くなっちゃって…そしたら、落とされた」


「落とされたって…物理的に?」


「そう」


…随分荒っぽいなぁ。


「んー…じゃあ、なんか出てきませんでしたか?ここの世界のモンスターみたいなの…」


「うん、喋ってきた」


…何故それを最初に言わぬ…地球でもないとこから来てるかもしれないと思ってなるべく探り探り話そうとしてたのに、取り越し苦労だった。


「箱みたいなやつとも話してきましたか?」


「パンドラもいた」


パンドラ知ってんのかーい。じゃあもっと楽になるわ、これ。


「誰かと戦いましたか?」


「ん。アスタロト、倒してきた」


「アスタロッ!?!?」


あ、ミウさんそういえばアスタロトも好きなんだった…すっごい羨ましそうに見てる。でも、だとすると少し不自然な気がする…


「倒してきたなら…パーティの子はどこに行ったんですか?」


「……パンドラに、連れてかれた」


おいおしゃべり箱、あとでお話しようじゃないか。どうせその辺で聞いてんだろ?え?なんでせっかく会えた推しを引き離したのか、ねぇ??


「あのっ、なんで連れてかれたんですか…?アスタロト、強いから…倒したら一緒にいられるんじゃ…?」


「…なんか、戦争って言って…ヒュンッて消えた」


……あれ?


「あの、チームメンバーって…」


「マーリンとクロム」


「あっ…さっきいましたよね…」


「ほんと?」


ずいっ、とミウさんにつめよるプレイヤーさん。ごめんなさい…私たちのせいです…


「マーリンどこ?」


「えっと…隣の国のお城に…」


マーリン、実はあの後お城に転移させられたらしい。魔法陣でみんなを転移させた時、向こうの様子が実は少しだけ見えるようになっていて…そこに、エンプレスのお部屋で介抱されるマーリンが居たのが見えたのだ。たぶん、今頃元気になって本でも読んでる事だろう。


「あの、マーリンのいるとこに連れてくので…お名前教えて頂いていいですか…?私がヒビカで、こちらの方がミウさんです」


「ん、私はサクラって呼んで」


うん、これで素性がわかった。

マーリン好きのサクラさん。




バリバリ知り合いだった。
















とりあえずおしゃべり箱を呼んで、バビロア王城まで連れてってもらった。マーリンは自室にいるとの事なので…そこへ連れていくまで、サクラさんからお話を聞くことにした。

それによると…授業中寝てたら、夢の中にアスタロトが出てきて洗脳をかけられそうになったらしい。ただ、なんでアスタロトがいるのか分からなくて混乱していたサクラさんは、洗脳をかけようとするアスタロトを無視して…奥にいたパンドラに話しかけたそう。仕方なくパンドラがこの世界の事情を話して…で、アスタロトが襲ってきて「種族も属性も異なるモンスターを2体用意し挑め」なんて言ってきたものだから、迷わずマーリンとクロムを呼んだんだとか。呼んだ、というより召喚した、が正しいかな。たまたまカードを持っていたらしい。

そして、アスタロトをボコボコにしていたら…突然、マーリンとクロムがシュポッとどこかへ行ってしまったそう。突然のことにアスタロトもサクラさんもぽかーんとしてしまい、パンドラが無理やりアスタロトを退場させて…サクラさんも転移させようとしたんだけど、なんかパンドラ、転移にはインターバルがあるらしくて…連続で使えないからとか言って、しばらく放っておかれたという。たぶん、戦争中だったから終わるまで待ってたんだろうなぁ。ただ、そんなことを知る由もないサクラさんは、いきなりマーリンを連れてかれたのが悲しくて…しゃがんでいじけてたらしい。ごめんよ…私たちが勝手に戦争なんかおっぱじめたせいで…


サクラさんの話が終わったら、私とミウさんでそれぞれの経緯を話した。戦争の顛末までかいつまんで話したら…マーリンのお部屋にちょうど着いた。毎回思うけど、話が終わるタイミングで目的の部屋に着くようになっているこの王城…どんな作りしてるんだろう。ほんと空気読んでくれるよね。


「ここにマーリンがいるの?」


「みたいだね…」


「…開かない」


ドアをガチャガチャするサクラさん。いや、そりゃそうでしょう。だって…


「あの、サクラさん…それ、引き戸ですよ?」


「………不親切」


ほっぺを膨らませながら、ガラガラっと横へスライド。なんで洋式のお城に引き戸があるんだろう?


「マーリン、いる?」


マーリンを呼ぶサクラさん。来てくれるかなぁ…


「マーリーン」


…返事がない。ずかずか部屋の奥に入っていくサクラさん。


「まーり…」


…声が途絶えた。しばらく待つ。何も起こらない。


「…まずくない??」


「ま、まずいです!」


まさか、やられたか…?出てきた回で居なくなるようなキャラじゃ無さそうなんだけど…でも不安だから、私達もずかずか入っていくことに。


「罠にでもかかったんでしょうか…」


「マーリンならやりかねないかも…部屋にトラップ仕掛けてそう…」


なんて物騒な予想をしながら、寝室の方へ向かう。すると…


「…私の角を握るな」


「ヤダ」


「何故だ」


「好きだから」


「………」


「ねぇマーリン、歩いて」


「…何故だ?」


「楽しそうだから」


「……疲れるからダメだ」


「ケチ…」


「…仕方ないな、ほら」


「…マーリン、大好き」


……何このほんわか空間。

本を読むマーリンに肩車してもらったサクラさんが、マーリンの角をハンドルみたいに握ってる。マーリンはうっとうしそうにしながらも、少し頬を朱くしながら肩車のまま歩いてあげている。


「あの、サクラさん?何をなさって…」


「おうまーりん」


「鏖魔……?」


「お馬さんマーリン、略しておうまーりん」


ご満悦そうな表情のサクラさん。マーリンが余計に恥ずかしそうにしている。


「……ま、まぁ……仲良しそうで何より……」


それしか言えなかった。












その後、マーリンと二人でいたいとサクラさんがごねたので…私たちはパーティメンバーの交流会場へ行くことに。広間のはずだけど…何やってるんだろう?


「あ!ひびかさーん!みうさーん!」


ネロケミちゃんが声をかけてくれた。





「あのー…どういう状況なの…?」


「お互いの弱点探しに戦ってたんです!」


そうらしい。ミウさんパーティと、私のパーティが4対4で戦っている。サルファさんはチートなので…ネロケミちゃんとバトンタッチしたようだ。

ドクロとナタタイシは徒党を組んで、ベルゼブブとマルドクを相手している。ベルゼブブが放つ魔力球をナタタイシが乾坤圏の連打で相殺し…その隙をつこうとするマルドクをドクロが冷静に包丁で一閃。マルドクの斬撃によく目視から対応出来るよなぁ…

そして、イシスとネロケミちゃんがクドラクとクルースニクを担当している。ネロケミちゃんは容赦なくエレメントグラスを使って…ホワイトプロテクションで軽減されてはいるが、ダメージ稼ぎに貢献している。あれ?イシスが連携攻撃で集中的に狙われている。苦戦してない?


「すごいです…プニちゃんがうちの2人を…!」


…ミウさん、ネロケミちゃんたちそろそろ止めたげて…ベルゼブブもマルドクもドクロもナタタイシも、かなり本気出してるから…あのままだと誰かがタヒんじゃう…って思ったけど。


「…けど、まぁいっか!蘇生できるし…」


…だんだん自分の中で命が軽くなっていくのを感じる。いいのか…?


「きひひ…ッ!お愉しみの時間が来たぜェ…?ミウぅ!やれぇぇ!!」


……なんて不安は、さっきから聞こえるベルゼブブの気味の悪い笑い声にかき消された。直後、ミウさんの横にEXゲージががしょんっと出てくる。


「え、えと…押せばいいの?ですか?」


「たぶん…?でも…生贄召喚だよね…?」


そう、魔王ベルゼブブ…☆☆☆☆土属性悪魔モンスター。ステータス、294-78-42。EX技が…「蝿王の生贄召喚」。味方一体を退場させる代わりに、任意のモンスターを召喚できる技だ。つまり…


「誰か退場させなきゃいけないんですよね…?」


「そう、だね…でもイシスに蘇生させるから大丈夫だよ!」


「それもそうですね!じゃあ…えいっ!」


ガシャンっ、と一気にEXゲージをケースごと押し潰す。ベルゼブブの瞳に緑のオーラが宿り…


「キヒヒッ!捕まえたァ…!」


……の頭を掴む。


「あれ…?敵を生け贄にしていいんだっけ??」


「ダメですよね?」


「ダメなはずだけど…」


「ハッ、魔王様にルールは無いってか…?なんでもありなんだな、この蝿王…」


捕まえたのに飄々としているドクロ。職業柄退場には慣れてるのだろうか。


「よォし…ッ!オレの為に散れェェェェ!!!」


グシャッ…


ドクロの頭を握りつぶす。瞬間、無数の黒い粒にドクロが変わり…魔法陣が現れた。


「ミウさん、誰呼ぶの?」


「…決めてませんでした…」


「早めにしないとラン…」


ランダムになっちゃうよ、と言い終える前に…召喚が完了したようだ。魔法陣から出てきたのは…


「XYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


ヴァンプスドラゴン。サルファさんが連れてきたドラゴンだけど…ミウさんのパーティに登録されたようだ。そういえばさっきおしゃべり箱から聞いたんだけど…連れ歩きは4体までだが、チーム登録には制限がないらしい。重複は…できるのかな?わからない。


「そ、そういえば…なんか名簿が増えてたんです…まさかヴァンプスドラゴンが来てくれるなんて…!」


吸血鬼関連はみんな大好きなミウさん、大喜び。でも喜び方が控えめなのは…ドクロへの配慮?なのかな?


「ミウさん、うちのドクロは気にしなくてもいいよ?」


「あ…でも、その…不利なんじゃ…」


「ふっふー、うちのパーティを舐めちゃあかんよミウさん!」


「いつから関西人になったんですか?」


「…ごめん、なんとなく」


「でも、勝てるんですか?バフがけが出来ないのに…」


バフがけ…と言ったのは、ドクロのEX技「悪鬼の酬怨」だ。自身を解呪不可能な特殊な呪い状態にする代わり…味方全体のコマンドリールを最大にして、AtとSpを125上昇させる技。これを使えば、基本的にどんな状況からだろうと逆転可能なのだ。

ちなみにだが、Sp125上昇というのは憶測でしかない。単純に使用前と使用後で行動順がどう変化するか、調べるだけでは…Sp92上昇までしか分からないのだ。おそらくここから先は、SpをAtに加算する技か、SpをAtと入れ替える技を使わない限り検証不可能だろう。


つまり。私は最大のバフがけ要員を失ったが…だから負けるというほど弱いチームではない。私の足元から…ガチャッ、と音を立ててEXゲージが出てくる。


「ネロケミちゃん、準備いいー?」


「はいっ!いつでも!」


EXゲージをケースごと押し潰して…ネロケミちゃんにEX技を使わせる。


「よぉし…!過剰投与ーっ!」


ネロケミちゃんのEX技、「過剰投与」。上位になると「致死量投与」になる。今は下位を使った。アブナイ香りがプンプンする技だが…即死はしないから大丈夫。下位では、味方一体をHP+50、At+40、Sp+40、コマンドリール+2する技で…上位では、HP+100、At+80、Sp+80、コマンドリール最大にする技になる。ただし、上位下位問わず…重ねがけした場合、アンデッドであろうと即死する。そりゃそうだよね、致死量なんだし…


「っしゃあ!漲ってきたぜ!」


バフがけに合わせて羅車を発動するナタタイシ。イシスはバフの恩恵を受けにくいキャラだから、ナタタイシが確かに最善手だな。にしても、まさかまだ本気出してなかったのか…?


「バリバリでぶちかましてやるぜ…!来いよ王子ぃ!さっきの続きだぁぁ!!」


「ふっ、今は遠慮無しだね!もちろん、そのつもりさ…!」


ナタタイシがバルルンバルルン…と風火二輪をバリバリ言わせながら、火尖槍に火を宿していく。それに合わせるように…マルドクが、自身の剣に風を纏わせる。なんだかかっこいい。


「わたしのあいてはあなたです、魔王さん!」


「チビに足りんのかァ?オレの相手が務まるったァ、舐められたこったなァ…!」


さっきの召喚でハイになったベルゼブブと、ネロケミちゃんが対峙する。ほんとにこの子よく魔王と戦うなぁ…


で、クルースニクとクドラクは…イシスが担当するらしい。あんた達なら余裕よ!ってドヤ顔キメてるけど…ほんとかなぁ…と思ってたら、ヴァンプスドラゴンも来ちゃった。これで3対1、イシスに勝ち目は……


「戻ってきなさぁぁぁい!!」


「ハッハッハッ!まぁた会ったな…!」


全然あるんだよなぁ…

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