ファントム(らふろいぐとは違う)
一方、その頃。
「なはははは!雑魚が大漁じゃあ!ヒビカの土産にしてやろうのぉ!」
バビロア王城周辺を飛び、魔法陣が現れる度にブレスで魔王軍を焼き払うサルファ。ダムキナとエンプレスは…最初のほうこそ呆気に取られていたが、今はすっかり慣れてしまい、二人でアフタヌーンティーを楽しみながら談笑している。赤い服のエンプレスと、白いドレスのダムキナ。うん、絵になる。
「クソッ!なんだあのバケモノはぁ!!聞いてないぞ!!」
「ぬ?うるさい鳥じゃのう!ほれ!」
「がっ…!キサマ…ぁ!!」
サルファさん、しぶとく生き残っている魔王ムウスに対して鳥呼ばわり。まぁ、前の世界でも…火属性で見た目がグリフォン、つまり上半身が鳥で下半身が獅子だったから、チキン○ーメンとか焼き鳥とか言われてたし…果てに、公式からもローストチキンだとネタにされてたなぁ。ホントは結構強いんだけど、バグってしまったサルファの前ではただのチキンだ。一応、紹介だけしておくと…魔王ムウス、☆☆☆☆火属性悪魔モンスター。ステータス、318-90-31。うん、強いんだけどなぁ…
「おっと、こやつは洗脳されておったといったな?ドクロ、土産じゃ!」
「おぉっと!オレはいつから宅配便屋になったんだ?」
風を起こして、ムウスを吹っ飛ばすサルファ。それを包丁の腹で受け止めるドクロ。あいつ捌いたりしないかな?大丈夫だよね??
「おしっ、クロムたち!戦場に戻るぜ!」
「ど、ドクロ…?ここも一応戦場じゃ…?」
「クロム、細かいこと気にしてっとオーガより先に禿げちまうよ?」
ドクロさんは、クロムやゼノビア、オーガと合流できたっぽい。クロムは一応まじめな子なんだな。ドクロほどではないが…馬鹿みたいにデカい片刃の大剣を担いでいる。ゼノビアは結構男勝りな感じの女の子だ。身の丈ほどある重そうな斧を片手で軽々振り回す、姉御キャラ。オーガはゼノビアの相棒で、見た目は…なんだろう、獣。もう、獣。でも人語を普通にしゃべるし、大きな拳には爪型の武器を装備している。
それに、魔王ムウスを加えて…パンドラの魔法陣に乗り。
「到着…お?コイツぁ確か…」
ファントムの真後ろに出てきた。
「あ!ドクロー!」
「おう!お届けもんだぜ!」
「あ、玄関前に置いといてくださいっ!」
「あいよ、ネロケミの嬢ちゃん!ここに置いとくから、トンビがかっさらう前にとってってくれよ?」
「……ドクロ、意外にノリがいいのね…」
何言ってるんだイシス。こういう時こそ、ほんわかした空気が必要なのに。
「それに、ファントム…めちゃくちゃ縮こまってるわよ?」
「あ、ほんとだ…これなんかの技の予兆とかかな?」
ぶんぶん。頭を横に振るファントム。あれ?なんかおかしいな。こんなキャラじゃないはずなんだけど。
「あ、事情は聴いてきたよ。アンタがヒビカだね?あたしゃゼノビア、よろしく!」
「あ、よろしくね!ゼノビアに、クロムとオーガも!」
「で、何をすればいいんだ?待てとしか言われなかったんだが…?」
「クロムたちには大仕事があるから、それまで休んでて!じゃあネロケミちゃん、ムウスの洗脳解いてきてくれる?」
「つまりボコボコにすればいいんですね!わかりましたっ!」
「ちょ、こんなちっちゃい子に何をさせるつも…」
「まぁクロム、面白そうだし見てようぜ?」
お、ゼノビアさん空気読むねぇ。ネロケミちゃんにはとことん大物とたたかわせてあげたいからね。その間にイシスにお願いして、ファントムを眠らせた。変化してもらったんだけど…これはゼノビアたちも知らなかったようで、驚いてたな。無事に寝かせた後は3人から拍手とともにめちゃくちゃ褒められて、顔を真っ赤にしながら女神っぽく偉そうにして「もっと褒めなさい?」とか言い出したから…私がさっき以上に褒め散らかしたら、杖でポカポカ殴られた。暴力反対。
で、そんな茶番をしている間に…
「ひびかさぁん!終わりましたぁ!」
「お!早かったねー!」
「え…もう!?あの魔王を!?」
いやいや何を言う。アンタらのパーティでもこれくらい早く倒せるだろ。
戦斧闘士ゼノビア、☆☆☆土属性戦士モンスター。ステータス、220-78-21。
オーガ、☆☆☆土属性獣モンスター。ステータス、273-78-10。
熱鋼騎士クロム、☆☆☆☆火属性戦士モンスター。ステータス、357-78-36。
火力も十分だし、ゼノビアのコマンド「砕骨撃」が強い。この技、ミス系のコマンド以外のコマンドを一つミスに変えてしまう技で…オーガの技「ブレイクブロウ」…相手リールにミスが多いほどダメージが上がる技…と非常に相性がいい。正直、魔王ムウスくらいならハメができるのではないだろうか…
「よし!じゃあそこの照り焼きチキンは置いといて、さっさと煉獄皇アレスを呼ぼう!で、ラスボス戦とかけこもう!」
「おーっ!」
「お、おーっ…照り焼きチキン?」
「…ゼノビア、こいつら何言ってんだ…?」
「ごめん、あたしにもわかんないや…」
「オレもさっぱりだ…脳みそが獣に戻っちまったのかな?」
「あんたはもとから獣でしょうがっ」
お。あのトリオ結構いいな。オーガが一番のボケ担当らしい。
さて、ほかのところは順調かなぁ?
バルルルン、バルルルゥン。
風火二輪をバリバリさせてるナタタイシ。いちおうここお城だからね?
「みぃつけたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「な!?城の中でもバイクを降りぬとは…!仕置きが必要だな!ハイクラス・ボルガノン!」
「はっ、温い火だなぁ!どぉらっ!!」
「何と乱暴な!キサマは…がっ!」
魔将ガープ。☆☆☆☆火属性悪魔モンスター。ステータス、285-68-73。正直、単体で倒すには苦慮しない。味方の強化、全体攻撃を売りにしているから…はっきり言って、ナタタイシの敵ではない。
「悪いガキには仏の罰が下るぜ?混天綾ぉぉ!!!」
「っ…!この…ぬぁぁぁぁ!!」
「っな?!おい、マジかよ!?」
背中から脚を絡められ、混天綾で全身にアバババと電撃を浴びたガープ。魔界一の知将と言われる彼がとった返しの一手は…何と、杖を逆手に持ち、ナタタイシめがけて突き刺そうとするというもの。さすがに面食らったナタタイシだが…
「せめて傷だけでも…っ?!キサマ、なんだこの硬さは!」
「おっさんが這いつくばってそんなこと言ってっと年齢制限かかんぜ?」
尋常じゃない皮膚の硬さに、杖がカツンッ、と音を立てる。それもそのはず。
「どぉっ!!」
「ぬがっ!はぁ…はぁ…それは…鱗…か?」
「お、よく知ってんなぁ?」
ガープを蹴り飛ばすナタタイシ。そう、彼のバトルスーツの下には…サルファの鱗がびっしり。1枚1枚が大きいから、火尖鎗で炙って体に合うように柔らかくしたんだそう。それでも強度は十二分で、ドクロの包丁でも傷がつかなかったというから驚きだ。実はドクロもおんなじ鎧を服の下に着ている。さっきクイズ大会をしている間、サルファから鱗を譲り受けて鎧に加工していたのだ。にしても、ドクロとナタタイシの器用さが半端じゃない。こんど服作ってっていったら作ってくれるかなぁ?
「じゃあ、てめぇは帰れぇぇぇ!!!」
その声を合図に、ガープの足元に魔法陣が。何か言おうとしていたが…その前に強制送還。ナタタイシはそのまま、風火二輪に乗って王城の中を一路…アレスのもとへ向かった。
あれ?ナタタイシにはヴァルカンをお願いしたはずなんだけど……
「あの、ネルガルさん、ファントムはどこにいるんでしょう?」
「ん?あぁ、ミウと言ったな…すまぬ、わからん。」
「このメモにも書いてなくて…もしかしたら、私が来る前にヒビカさんから何か聞いてるかと思ったんですけど…」
「いや、我々は全く知らされていませんで…おそらく、そのメモが一番の頼りでございますぞ。」
「うーん…あ、裏になんか書いてありました…」
おっ、ミウさん気づいてくれた!よかった…朝になって思い出したから急いで書いたんだけど…
「えっと…『アレスは王城のいい感じの玉座に座ってると思います。隣にエンリルがいた場合、一度倒してください!洗脳を解くには一度倒すのが楽です!ちゃんとイシスに蘇生させるのでご安心くださいね!それから…アレスはファントムと合体させたいので、見つけても倒さずに放置してください!!絶対ですよ!!!』だそうです!」
「……これ、フリってやつ?じゃね?」
「やろうとしていることが黒幕のそれだしね…でもクドラク、こうでもしないとボク達には物足りない敵ってことなんじゃないかい?」
「うーん、アレスの噂は聞いてるけど、煉獄皇、だっけ?それになってからどうなったかは知らないしなぁ…じっちゃん、なんか聞いてる?」
「いえ、何も……」
「エンキ殿の知りえぬことなど、我々には……と言いたいが、実はあるぞ?アレスの手配書だ。」
「……ほんとは、出したくなかったんですが…アイツを、助けようにも…居場所も分からなかったので…配下を国に派遣して、自分は表舞台には立たないもんでしたから…くそっ、アレス…!」
悲痛な顔をするクラン。少し空気がしんみりしてしまう。
と、王城の広間へと歩く騎士団たちとミウさんパーティ、ネルガル、エンキの後ろから…バルルンバルルン…バルルゥンバルルゥン…バルバルバルゥゥン…
「…なんか、焦げ臭い…これは、火属性…?」
「…?そのような匂い…はっ、確かに、遠くから感じますぞ…!ネルガル!」
「任せておけ!」
「火なら風…!マルドクも行ってきてください!」
「わかった、ミウ!ネルガル、ちょっと見てて!」
「ぬ?王子、何をなさるおつもりで…え!?」
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!かかって来いよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
剣を前方に構え、全身に青い宝珠があしらわれた鎖を身に着け…立ち上る風に包まれるマルドク。風が収まると、立っていたのは…狂王だ。でも、ふたつ違うところがある。一つは、テアマトに乗っていないこと。もう一つは…
「ネルガル!じっちゃん!オレ、これでも戦えるようになったんだよ!」
「その声は、王子!?」
「ほぉ…これは、ベルゼブブ殿、ですかな?」
「…ふぅん、鋭いンだね…」
ベルゼブブがマルドクに施した特訓のおかげで、羞恥心さえ捨て去れば…任意のタイミングで狂王になることができるようになった。しかも、理性と人格を保ったまま。どんな特訓したのか気になるけど…クイズ大会の脇で特訓させてたベルゼブブの目がすっごく爛爛としてたから、聞くのが怖い。
「でぇ!?誰だ敵ってのはァ!?」
「…なんだか、二重人格ではありませんかな?」
「…それは、コイツの趣味…オレは知らない…」
「あれ?エンキさん、何か問題ありましたか?」
「い、いえ、なんでもありませんぞ、ウォッホンッ!」
よだれがたれそうになってるミウさんにただならぬ熱意を感じたようだ。まぁ…確かにイケメンが急に荒々しくなって豹変するって、結構な垂涎ものだな。
「さっさとこいやぁぁぁ!!!!」
「おうおううるせぇヤローはてめぇかぁぁぁぁっておいおい!!俺様は味方だっつの!!」
「あぁ!?何言っ……あ、ナタタイシ?」
「おぉう、拍子抜けしちまうな…なんだその急なキャラの変わりようは…」
うん、皆さんお察しの通りナタタイシさんでした!風火二輪をバルバル言わせて、さっきまで戦っていたのでした!
炎獣人ヴァルカン、☆☆☆☆火属性獣モンスター。ステータス、288-84-42。実は彼、アレスの親友で…煉獄皇を自覚したアレスを受け入れ、なんと自分も煉獄側についてしまったのだ。愚直だが、こういう形の友情もあるんだなぁ。熱血って感じ。
それか、もしかしたら…ヴァルカンは煉獄の門番を務めているが、それは煉獄皇になったアレスを助けられるくらい強いヤツを見定めるためなのかもしれない。友達が元に戻った後、苦しみが減るようにしようという、彼なりの配慮なのかもしれないな。どのみち、いいヤツなのだ。
さて、そんなヴァルカンはナタタイシに見つかるや否や、体を丸めて
というわけで。皆さんが合流して、アレスのところへ到着すると。
「シターリシターリシターリシターリ......」
「イシスさっすがー!SAN値ゴリゴリ減ってくけどかわいー!あーだめ!もうかわいすぎてこれ以上見てられないよー!」
「ひぃびぃかぁ~~~~!!!!!」
「「「「…………………」」」」
「あの、この物語ってほんとにシリアスがないんですね?」
…ミウさんがみんなの疑問を代弁してくれた。
その間、眠っているファントムと煉獄皇アレスの隣でエンリルさんがムウスと戦っているのには誰も気が付かなかったとか。イシス、さっすがー!
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