国別対抗クイズ大会

「あの…戦争って聞いてきたんですけど…クドラクたちを戦わせられると思って…来たんですけど…」


あっ、そゆことか。推しの戦う姿が見れると思ってきたら…戦争が終わっててあれ?ってなったのか。昨日はしゃぎすぎて話聞いてなかったわけじゃなさそうだ。


「あー…これはあくまでも前哨戦というか…前座ボスというか…そんな感じ…」


「……あっ、わかりました…」


うわぁ。めちゃテンション下がっちゃった。ミウさんごめん。


「それで、風属性枠でマルドクを仲間にしてほしいんだけど、いいかな?」


「あ、はい…どっちマルドクですか…?」


あ、そういえば。ステータスが違うんだ。王子マルドク、☆☆☆☆風属性天使モンスター。ステータス、243-79-95。前モンスター中、2位タイのSpの高さを誇る。それでいてAt79という高い火力。入手が簡単だったため、初心者の心強い味方だ。

狂王と比べると、Spで勝るがHPとAtでは劣っている。どっちにするかで、戦略を変えたいのだろう…じゃあ。


「本人に聞けば?マルドク、起きてー!」


「…っ、ここは…」


「王子!無事だったのですかぁッ!」


真っ先に駆け寄るエンキ。このじいさんアグレッシブだな、ほんとに。ネルガルは…まだダムキナに治療してもらっている。腹心だったエンリルの素性を知って、一番傷ついているだろう…そっとしておこう。


「じっちゃん…うん…」


「あのー…マルドク、ちょっといいかなぁ……」


「しんみりしてるとこ悪ぃけど、ちょっと失礼するぜ~!」


強引に割って入るパンドラ。そのまま、マルドクをミウさんのチームに登録。


「……おっ、なんかいろいろ情報が入ってきてる…?これは…あ、ミウってキミ?」


「はぇ?!あ、はいっ!」


なに今の声…まぁでも急に金髪の美男子から声かけられりゃそうなるわな。


「オレはマルドク!これからチームメンバーとして仲間になるから、よろしくな!」


「は、はいぃ!」


そのまま固く握手。ビビるくらいのさわやかイケメンがチームになって…ミウさんのパーティは、クドラク、クルースニク、魔王ベルゼブブ、そして……


「あ、あの……マルドクって、王子のほうしかダメなんですか?」


「んっ?あぁ、なろうとおもえばさっきみたいなのにもなれるけど……けっこうしんどいからなぁ……」


なんと!?狂王にもなれるだと!?

一度で2度おいしいマルドクさんだった。これは…ヤバイぞ。この後の戦争、楽勝かもしれない。


「あ、じゃあ……頑張ればいけるんですよね?もちろん無理にとは言いませんけど……」


「ま、まぁね……ただ…ちょっと、イタいこといってる記憶が………」


………なるほど?ようするに狂王の記憶はちゃんとあって、そのころのドS発言が痛々しくて嫌なんだな?かわいいやつめ。


…待て。それどころじゃない。いまなんかめちゃくちゃ大事な情報が隠れてた気が……


「…ぷぷっ、エンリルのバーカ!怒られても知らないよーだ!」


「ヒビカあんたどうしたの?!今日おかしいわよ?!」


「いやいや、ちょっと盲点だったからさ……あー、さっきのも相まって…おなかいたい…あははっ!」


「ま、まぁどうせヒビカのことだし、次の一言で一気に戦局が動くんでしょうね…このあと…」


「わかってるじゃん~このこの~」


「あでっ、二の腕つつくなぁ!!気にしてるのよぉ!!!」


めっちゃ細いのにこれで気にしてるとか言ったら全女子がキレるよ、イシス。それは置いといて…


「マルドク、初めて洗脳にかかった時のこと覚えてる?」


「お?あー…だいぶ前なんだけど…エンリルに連れられて山に行ったときかなぁ…」


「その時誰かに会った?エンリル以外の人……例えば、赤いローブの人とか…」


「……何で知ってる?」


おっ、ビンゴ。やっぱりエンリル、あいつ甘いわ。めちゃくちゃ甘っちょろい。この世界での洗脳の仕様…記憶は受け継がれることを知らないようだ。かくいう私も今知ったんだけどさ……


「いや…なんとなくだけど………」


ここは適当にごまかす。ネタバレになっちゃうからね。


「そ、そうか…まさかお前じゃないよな?」


「あ、それはないない!わたしここに来たの昨日だし…」


「あ、そういえば…」


私のパーティメンバーを見て、転移者だと判断したようだ。頭がよく回るな、この王子。


「じゃあ…よし!バビロア軍!メソタニア軍!これより第1回国別対抗クイズ大会を始めまぁぁぁぁぁす!!!」


「「「「「はい…?」」」」」


状況が全く飲めていないみなさん、ぽかん。ミウさんたちもぽかん。イシスはあきれ顔。ドクロとナタタイシは…サルファさんとお話し中。


「さぁ集まって!イケてるメンツ!早押し対決!分かったらraise your hands!」


「何そのラップ…」


イシス、わかってないな。こういう時のツッコミは無粋なのだ。


「じゃあ第1問!」


なんなんだこれ…という顔のみんなを置いて、さっさと問題を言う。ネルガルも治療が終わって、こちらへ合流して…「早押しなのになんで手を挙げるんだ?なにかを押すんじゃないのか?」って聞いてる。あれ?なんだかかわいいぞ?


「マインドクラッシュと全く同じ効果をもつ技を言ってください!」


ビクッ。メソタニア軍が身構えた。バビロア騎士団も、なにやら尋常じゃない雰囲気に、真面目モードに入る。エンプレスはクイズの真意を読み取ろうと、さっきから考え中。


「おっ、早かった!ダムキナさん!」


「いけない声っ!」


「…正解!…ほかには!」


最初にそれが飛んでくるとは思わなかった。しかもよりによって王女様から。まぁ確かに一番使われてそうだけど…


「はい!アーサーさん!」


「御伽莉花の幻!」


「よくご存じで!正解!まだありますよ!」


そう、このクイズで出してもらいたいものがまだ出てきてない。これが出るまでは正解してても止めるつもりはないよ。さぁ、いつくるか。


「はい!クランさん!」


「買収とか…」


「おっ正解…と言いたいんだけど…」


「?」


「まったく同じ、じゃないんですよね…」


そう、買収という技は確定洗脳の付与が可能なのだが…


「あっ、所持金が減るんだった…」


「そうなんです…」


そう。読んで字のごとく、買収するためお金が必要。ごめんよクラン。


さて、残すはあと一つ…


「はい!ネルガルさん!」


「ステアボイス…だな?」


「大正解でーす!!」


そう、これを待っていた。ステアボイス…洗脳状態にする技。なのだけど。


「なるほど、ヒビカ…といったな。これはクイズ大会の体をした作戦会議というわけか!」


「そうなんです!おおっぴらに会議してると感づかれちゃいますからね!」


ネルガルさん、肝心なところは鋭くて助かった。バビロア騎士団もようやく真意がわかったらしく…特にクランは盾を持つ手に力が入る。


「じゃあ第2問行きます!」


「……」


静寂に包まれる。ミウさんとイシス、ネロケミちゃんはまだきょとん中。ベルゼブブたちチームメンバーはマルドクが狂王になっても安全に戦えるよう、理性を保つ特訓をさせている。それもそろそろひと段落しそうだ。


「ステアボイスを使うことのできるモンスターは一体しかいませんが……そのモンスターの名は何でしょう!」


「はいっ!!」


「めちゃくちゃ早かった!エンプレス様!」


「ファントムよ!!」


「正解でございますっ!!」


腰に手を当てビシッ、と某探偵コナンの決めポーズのような仕草で答えるエンプレス。私もつられて合わせてしまう。両軍、思わず笑みがこぼれる。

ファントム、☆☆☆☆火属性悪魔モンスター。ステータス、346-73-47。赤いローブをまとい、仰々しい斧型の剣を持った亡霊。正直、性能面では特徴は…まぁあるけど、それ以上にヤバイのがストーリー上での役割なのだ。


「なるほど…ファントムが黒幕と、そういうことですな?」


「エンキさん、その通りです!アレのヤバさは…クランさんがよく知ってるのかな?」


「…!はい、確かに…私の友が、一人…」


クランの友人、アレス。熱血魂を持ったアツいヤツで、第4章の主人公…兼、だ。詳しくは…時が来たら話すことにしよう。


「おそらくですが、ファントムが元凶だと思います!アイツが魔王を動かし、エンリルに接近して…皆さんをエンリル伝手で洗脳、それで…バビロア王国に戦争を吹っかけて、互いにジリ貧になったところを…」


「魔王軍に攻めさせて、2国を掌握…そのうえで、支配者に立つと…そういうことだな?」


「その通りですネルガルさんっ!」


結論持ってくタイプだこの人。でも…勘の鋭さは尋常じゃない。たぶん、一問目でステアボイスの可能性に気が付いた時から、感づいてたんだろうな。


「あ、あの…魔王って、ここにいる…あの方では…?」


「ふぇ?あっ、ベルゼブブは違いますよ?!」


…そういえば、ここにもう魔王さんいたな…


「ベルゼブブさーん?なんか知ってないー?」


「ン?いや…なーんも…支配とか、そーゆーの、キョーミない…」


「魔王にもいろんなタイプがいるってことなのかしら?」


「さァね~、オレはテキトーに魔王を名乗ってるだけだし…ほかの魔王が何しようが…正直、知ったこっちゃないね…」


「…この魔王、やる気あるのか…?」


「ン?ないない…やるきなんてどっかにおいてきちゃった…ふぁあ~」


バルト…ごめん、ベルゼブブってこういうやつなんだよ。でも、すっごい頼りになるやつだから…許しておくれ。


「と!とにかく!うちのベルゼブブはそんなことしません!万が一なにかしでかしたら私がちゃんと責任もって処罰を受けますから!」


「ミウさん、そこまで言わなくても大丈夫じゃない…?」


「うむ、確かに伝承にもベルゼブブが悪事を働いたなどという記述はないですしな…心強い味方と捉えましょうぞ!」


「エンキ殿がそう仰るのなら…」


バルトって、エンキには殿付けで呼ぶのか。初めて知った。


「じゃあ、そろそろ最後の第3問いきますよ!」


「あっ、まだクイズ大会続いてたのね…」


「当然でしょ?イシス、まさか忘れてたの~?」


「………」


そっぽ向きやがった。ほっぺをぷにっ。あ、杖の先が光った。マジュラをされる前に手を放す。あ、元に戻った。で、ほっぺが赤くなる。ここまででワンセットだ。


「問題!この後私が言い出すことを当ててください!」


「ふぅん、アタシたちに参謀さんの考えを読めと、そういうことね?」


「その通りでございますエンプレス様!おっと、エンキさん!」


「今すぐ国へ戻り、民に事実を伝え…来るべき戦争に備えるよう伝令する、などですかな?」


「おぉ…それもあったかもなぁ…でも今の私の考えとは違うんです!はいっ、クフリンさん!」


「魔王軍が来るまで、そう時間はかかるまい。野営をして決戦に備えるか?」


「おー、いい線いってますねぇ…惜しいです!」


「はいっ、はーい!」


「お、ネロケミちゃん!」


「えっと、ダムキナさんとエンプレスさんをバビロア王城に避難させて、残った人全員でメソタニアに行って魔王軍が来るのを待ちます!」


「ほぼ正解!だけどね…1か所惜しいんだぁ…」


「え、えっと?私たちを…王城に?」


「はい、もうほぼ正解なので答え合わせしますけど…エンプレス様とダムキナさんは、それぞれの国の王家の象徴ですから、その二人が諍いなく同じ城にいるとわかれば民は戦争の終結を感ずるはずです!そして、エンリルはさっき魔法陣を使ってメソタニア軍に戻ってたので…たぶんそろそろ来るんじゃないかなぁ…」


「くるって何がですか?」


「ミウさん、上のほうから何か来てない?」


「…?………あっ、人が落ちてきてます!」


「サルファさぁぁぁん!」


「んぬ?おぉ、了解じゃよ!」


一気に飛び上がり、悲鳴を上げながら落ちてくる人をキャッチするサルファ。そのまま降り立ち、落下してきた人……メソタニアの兵士、ドーシュを降ろす。


「痛て…はっ!ね、ネルガル様!」


「そのままでよい、何があったか伝えよ。」


「はっ、メソタニア軍、バビロア軍全体に通達!メソタニア王城、および城下町が、何者かにより…全焼しました!」


「はい、これが答えです!わかりましたか?」


「「「「………いや、さっぱり………」」」」


「あの……失礼ながら、答えとはいったい…?」


「あ、いまクイズ大会してたんです!でももう終わっちゃって…」


「何してるんですか!!住民の避難は済みましたけど…城が燃えたんですよ!!」


「うん、だよね?」


「は……?」


「ドーシュさん、誰の指示でここへ来ましたか?」


「はっ、参謀エンリル殿です!」


「ぬ?!エンリル…あやつ…!」


「ネルガル様!?」


「じゃあ正解発表しますね!」


「あなたは何なんですかぁ!!」


ドーシュさんいいツッコミするなぁ。イシス、見習っとけ。


「正解は…バビロア王城に姫二人を避難させた後、メソタニア王国に直行するでした!」


「……よし、ならば話は早い!騎士団諸君、行くぞ!姫、ダムキナ様とともにお城へお戻りください!」


「ネルガル、ゆきますぞ。我らが領土、必ず取り戻しましょうぞ!」


バルトとエンキの号令で、姫二人がサルファの背中に乗って王城へ避難。バビロア騎士団、エンキ、ネルガル、ドーシュ、それに…ミウさんたちと私たちは、メソタニア王国へ。


さぁ、暴れるぞ~!

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