Encounter2 / 戦争終結?
時刻は昨晩に戻る。寝静まったネロケミちゃんを、起こさないように腕からどけて…あっ、意外に重い…白衣に何入ってんだろ…よいしょっ。ベッドから抜け出る。そういえば、汗もかいてないし…服もいつの間にか汚れがなくなってる。ベッドの浄化作用とか…あるのかな…?
それはそれとして。エンリルの前でべらべら喋ったあの作戦を考え終わってからしばらくした私、ヒビカは一向に眠気が来ず…仕方ないから夜風を浴びに行くことにした。音をたてないように、ベランダに出る。すると。
「ヒビカ、オマエだいぶなじんできたなぁ~?」
「!?!?!?!?」
あぶない…悲鳴が出るとこだった…おしゃべり箱こと、パンドラだ。
「オバケじゃねんだからさぁ~そんなリアクションやめてくれよ~」
「いや、予告くらいしてよ…ビビるじゃん…」
「チッ、せっかくお友達のとこに連れてこうと思ったのによ~」
「は?お友達?」
「おう、向こうの世界から、またひとり来たんだぜ?」
「……それは、聞き捨てならないなぁ」
どうやら、私みたいなプレイヤーがこっちに転移してきたらしい。なるほど、それでお友達といったのか。
「……でも初対面だよね?」
「ん~、ムズカシイなぁ…どうやらそうでもなさそうだぜ?」
さらに混乱。どういうこっちゃ…
「ま、会ってみりゃわかるって!オレには向こうのこと何にもわかんねぇし~」
「ま、そだね…で?連れてってくれるの?」
「ああ!じゃ、ちゃちゃっと行くぜ~!」
魔法陣が足元に描かれる。そのまま、視界がホワイトアウトして……
「……ここ、別ゲーの世界じゃないの?」
「違うぜ~?ちゃんと見たか~?」
着いたのは、どうみてもアヤシイお城。窓の外を見ると…真っ赤に染まった月が。皆既月食だろうか?いや、それよりも。
「なんか…鉄っぽいにおい…」
そう、血なまぐさい。血とお城と聞いて、なんとなく思い浮かぶのは…
「Castle○ania...?」
「無駄に英語で言うなよ~」
「なんかこっちのほうがぼかしやすそうだったから…」
吸血鬼。ファンタジーもののド定番で、オレカバトルにも何体か存在する。まさか…
「ここ…ドラキュラ城!?」
「あったり~!」
なんちゅうとこに連れてきやがったんだコイツ。私の時でさえ竜の巣の近海の海底神殿だったのに…もっとやばいじゃんここ…
「じゃあその人の場合、ドラキュラが突然街に出てきたとかなのかな…?怖すぎない?」
「ん、ドラキュラじゃないぜ?一応…七つの大罪の象徴を派遣してるんだけど…」
「じゃあ私は嫉妬にまみれてたからレヴィアタンなの??」
「いや、呼び出しやすい環境が近くにあるやつなんだよな…」
…ははーん、なんとなくわかったぞ。つまり水路があったから、レヴィアタンが呼ばれたのか。じゃあ…ドラキュラ関連の七つの大罪…といっても…
「誰…だろ…」
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
……!?
今の声…人の声だ。モンスターじゃない…!
とりあえず、声のした方へ数億年ぶりの全力ダッシュ!
「パンドラ!今のって…!」
「アレの声の主が、お前の友達らしいぜ?」
……えっ。
あんな声出る友達いたっけ………?
走りながら、まだ見ぬ友達のことを考えていた。
誰だろう。少なくとも、学友とかではないはず。前の世界ではバリバリの大学受験生で、ゲーム関連はもう離れたという知り合いばっかりだった。自分はある程度の成績を保ちながら、時間を見つけてたまにオレカにいっていたけど…プレイしにくる人はほとんど見たことがない。最近はもう、筐体の上にノートを広げて問題演習をしながらオレカをすることもあった。問題文の条件を換言し続けて得られた定積分の計算をするべく手を動かしながら、チラチラオレカの画面に映るコマンドを見て、ダメージ計算をする。種族や属性相性、コマンドの倍率、Atの値は頭に叩き込んであるから、あとは2桁×2桁の暗算をするだけ。そうする間も、定積分の計算は止めない。並列思考の極限形だ。もちろん、後ろに並んでいる人がいるときは絶対にしちゃだめなんだけどね。
じゃあ…SNSか?確かに、プレイヤー同士で情報共有をしたり、創作を発表したり、育成記録をつけたり……いろいろな人が投稿していた。そこからのつながりでパンドラは友達という言葉を使ったのかな?ならまだ…わからないでもないけど…なんで私のこと知ってたんだろう…
なんて思いながら、目の前に見えた大きな扉を開ける。すると、目に映ってきたのは…4枚の薄羽を力なくしおらせ、4本の腕を地面につけ、倒れている…ハエの王。緑のショートカットに黄金の王冠と紫の複眼がよく映えている。その奥には、真っ白なコートに身を包み、黒いダガーを両手に持った白髪の青年と、赤ワインらしき液体の入ったワイングラスを右手に持った…三白眼に黒髪の…黒いコートを着た…吸血鬼?だろうか?それに…その二人の奥に立ってぴょんぴょん跳ねているのは、女性だ。おそらく、あれがお友達さんなんだろう。
「がはっ…!へへ…面白ぇこと、してくれるじゃねえか…!」
倒れたハエの王から、敗北セリフが。この声は…
「…魔王ベルゼブブ?」
「わわ!?クルースニク!まだあそこに誰かいますっ!!」
お、しゃべった。どうやらあの人がさっきの叫び声の主っぽそうだ。そして、今のセリフで出てきた名前…クルースニク。白い方のことだ。☆☆☆水属性戦士モンスター。ステータス、220-63-63。悪魔族への特攻技を多く持つ、大福が好物のヴァンパイアハンターだ。とすると…あのワインの方は、クドラクだな。☆☆☆火属性悪魔モンスター。ステータス、210-73-42。いわゆる吸血鬼だ。確か…めちゃくちゃ厄介な技を一つ持っていたはず。そして、実は野球が好きらしい。
「パンドラ、私は怪しいものじゃありませんってあの人に言ってくれない?」
「もう向こうが感づいてるし大丈夫じゃねぇか?」
言われて見てみると、クルースニクがなにやら説明をしている。たぶん、モンスターじゃなくて人間だよとかそんなことだろうか。
「じゃあ話しかけ…待って、過去イチで緊張するんだけど…」
そう、相手は初対面なのだし、こちらのことをどこまで知ってるかもわからない。まして、ヒビカなんて名前…向こうの世界で使ってなかったから、伝わらないし…
「あ、あのー、どちらさまでしょうか?」
……なんてチキってたらクルースニクが話しかけに来た。陽キャか?!お前陽キャだろさては!!
「あ、えっとー…たぶん、そちらの方とおんなじ経緯でこっちに来た者です…」
どもらなくてよかった…はぁー…ほんと心臓に悪い…
クルースニクがそうですか、と返事をして、向こうへ戻っていき、プレイヤーさんにそのことを伝えた。すると、とてとてとこちらへ近寄ってくる。
「あ、あの!ミウといいます!えっと、ひんけつせんしです!」
…………………!!!!
「あっ覚えてます!!!えと、はじめまして!!あの、こっちではヒビカって名乗ってます!よろしくおねがいします!!」
「あ、わかりました!ヒビカさんですね!!」
超びっくり!相互フォロワーさんじゃん!!めちゃくちゃ覚えてるよ!!何か特別な絡みをしてたわけでもないけど、よくふぁぼ飛ばしてくれたりする優しい人って印象があったなぁ…
「それで…パンドラからはどのくらい教えてもらったんですか?ここのこと…」
「あっ、えっと…」
ミウさんがここへきた経緯を話し始める。どうやら、オレカから家に帰るまでにどうしても通らなきゃいけない道で、ものすごい数のハエの大群が飛んでいたんだそう。それで、散るのを待っていたらだんだん1か所に集まり始めて…結果、魔王ベルゼブブを形作り、そのままバトルに突入したとか。ベルゼブブが出した条件は、「2体で勝負に挑む」ことだったそう。私の時は「最終ステータスのどれかひとつが73であるモンスター」だったから、ベルゼブブのものと比べても…いや、あんまり自由度に大差はなかった。
それで、実際に動いている姿を見たいということでクドラクとクルースニクを召喚して…さっき私が聞いたあの大絶叫をしたんだそう。ちなみに、この部分を話している間のミウさんの声はめちゃくちゃ小っちゃかった。
難なくベルゼブブを討伐したところで、私が合流して…今に至るのだとか。パンドラとは、2体を召喚する際に少しだけ話をして…私が戦った後で仕入れた情報を、パンドラ自ら教えてくれたらしい。おいおしゃべり箱、あとでシメあげるから覚悟しとけ…
「じゃあ、各属性一体だけ連れ歩きができるのもご存じで…?」
「あっ、そうらしいですね!もう火と水と土は決まってるので…」
そうだった。ミウさん、ベルゼブブもお好きなんだった。じゃあ、風が1枠空いてると…ふむふむ、これは後で役立ちそうだなぁ…
「じゃあ、私明日ちょっくら戦争行ってくるんですけど…その時に風属性のモンスター、一体紹介したいので枠開けといてくれませんか?」
「あっ、わかりました!戦争、頑張ってください!」
軽っ。一応、戦争だよ…?死ぬかもしんないんだよ…?
「あ、ミウさんも途中から参加してもらいますからねー?」
「わかりましたっ!それまでしばらくこの子たちを堪能します!」
「堪能って…何するつもりなんだよぉ…」
「まぁ、なかなか経験できなさそうだしたまにはいいんじゃない?特にキミは。」
「な、なあッ?!」
「あれれ?さっきまで『女の子のファンとか…オレにいたのかよぉ…なんか涙が…ヒャハッ』って言ってたのはどこのクドラクだっけー?」
「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!」
「あぁ…神様ありがとう…」
なるほどね、クルースニクがけっこうSな側で、クドラクはイジられ慣れしてないから反応がいいんだな。間違ってもミウさんにイシスを紹介しないでおこう。回生のインアーシュを使ってくれなんて頼まれたら、ミウさんがもっと限界ヲタク化して大変なことになっちゃう。
「あ、あのー…そろそろ私帰りますね…後で呼ぶので、その時はまたよろしくお願いしまーす…」
……こういう時の対処法がわからなかったから、そそくさと去った。
時間は現在に戻る。ちょうど、パンドラを呼んだところ。エンリルは、ひとしきりほくそ笑んだ後…魔法陣でどこかへ去った。たぶん上司のところだろう。
「もうちょっとちっちぇえ声で呼んでくれよ~」」
「いいから!ミウさん呼んで!今すぐ!」
「はいは~いっと…」
「ね、ねぇ、ミウって誰?」
「ん?あぁ、まだ言ってなかったね…最強の援軍、かなぁ?」
「はぁ…」
結構時間がかかってるみたいだから、いまのうちにエンキとダムキナをイシスが変化したツクヨミで蘇生させる。ついでにネルガルも。これでたぶん、「3人に」かけられた洗脳が解けたはず。
「うぐ…む?ここは…はっ!も、もしや…」
「急にどうしたのだ…?」
「あ、エンプレス様!それにバルトさんたちも!ご説明しますね!」
そして、3人が状況を飲み込むまで…ここはドクロとナタタイシにお任せする。その間、私はバビロア騎士団とエンプレスに状況説明。エンキとダムキナ、それにネルガルも、エンリルの洗脳の被害にあっていて…わけのわからぬまま戦争を強行しようとしていたこと、それに…マルドクもこちらで何とかすることを伝えた。その後、メソタニアの3人はバビロア軍に謝罪。騎士団のみんなも、エンプレスも、笑顔でそれを受け入れてくれた。
これにて一応、バビロア・メソタニア間の戦争は終結、ということになる。
で、マルドクの処遇については…
「あ、ヒビカさんお待たせしました!」
来た来た。
「ミウさん昨日ぶりですね!じゃあ、さっそくで悪いんですけど…マルドクを引き取ってもらえますか?」
「……………はい?」
あれ?なんか「はい」の調子が昨日と違うぞ……?
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