アンデッドという種族

「……っ、どこからそれを……?」


おー、悔しそう。一本とれたかな?


「ね、ねぇどういうこと?ゾンビって…」


「ちょ、いいからこのジイサンなんとかしてくれよ!わわっ!?意外に強ぇなぁ?!」


あっ、ごめんナタタイシ…


「エンキさんには混天綾でボコボコの刑にしてあげて~」


「わーったよ…!パンドラも言ってたけど…人使いの荒いやつだなぁほんとによぉ!!」


でもなんだかんだやってくれるじゃん。ツンデレだなぁ。まったくもう。

そのまま慣れた様子でマフラーを巻き付け、電気のような謎の力でエンキにダメージを与えるナタタイシ。


老将エンキ。☆☆☆☆風属性戦士モンスター。ステータス、283-78-57。赤い刀身の両手剣を持った、長い白髪の老剣士だ。体は黒の鎧で覆われ、深緑のマントをたなびかせている。ナタタイシが強いといっていたが、それもそのはず。だって、マルドクの剣の先生で、ネルガルの前の将軍だったのだから。


「ふぅ…ちょこまかしてても、逃げ回るだけじゃあ芸がないぜ、姫さんよ?」


「いいのです…愚かとはいえ、弟のため…この命、賭しても構わないのですから!」


「……どうやら、ただの弟バカな姉貴さんってわけじゃぁなさそうだな…楽にしてやるぜ、ちょっとだけ我慢しなぁぁ!!」


ドクロはダムキナを相手している。ダムキナ、☆☆☆☆風属性天使モンスター。ステータス、262-68-89。白いドレスに金髪が似合う、メソタニア王国の王女で、マルドクのお姉さんだ。手には短剣を持ち、素早い動きでドクロを翻弄している。


よし、ナタタイシが混天綾でエンキをぐるぐる巻きにしてくれた。これでエンキはほっといても大丈夫そうだし、そろそろ種明かしといこうか。


「エンリル、まず最初にミラージュを看破されたのが予想外だったのは演技ではないね?」


「……そこまで見抜いておられましたかぁ…」


「そりゃそうだよ。でも落ち着いて行動できたのは、ミラージュが私に見破られることを前提として張られてたからだよね?」


「…ふぅ、やれやれ…ええ、あたりですよ」


「ミラージュの存在によって、エンキとダムキナがミラージュにより作られた幻影だという『思い込み』を強く持ってしまう。だからこうやって…『エンキとダムキナが実は洗脳されていて、実際に戦場にいた』という読みが頭から抜けてしまう、そうだね?」


「ねぇヒビカ、じゃあさっき読み抜けたって言ったのが作戦のうちって言ったのは…」


「うん、それはこっちの作戦でね?『相手方はエンキとダムキナが本当に戦場に来ていたことにかなり動揺している』っていう考えをエンリルに植え付けるためだったんだ!」


「……ヒビカはそれを昨晩のうちに考えてたのよね…」


「うん、イシスが酔っ払って寝てる隣でね?」


「恥ずかしいから言わないでぇぇぇ!!!」


顔を真っ赤にしてアルマジロのポーズをするイシス。写真集を作りたくなるではないか…


「はぁ…もう…で、ゾンビってのはなんなのよ?」


「じゃあイシスに問題ね?モンスターを洗脳状態にできる技といえばなんでしょうかー?」


「あぇ!?えっと…マインドクラッシュ?」


「そうそう、じゃあ…マインドクラッシュを使える☆☆☆☆モンスターといえば?」


「魔公爵アスタロトと…死神王モート…あっ」


「ビンゴ!じゃあ最後に、死神王モートの専用技といえば!?」


「……ふしの秘法、ね?」


「……素晴らしいですね、そこまで読まれていただなんて…いっそすがすがしいです……」


死神王モート。☆☆☆☆土属性アンデッドモンスター。ステータス、336-63-63。固有技である「ふしの秘法」は、味方に使うことで…その味方が退場したのち、HP1かつトランス状態(ルーレットを勝手に止めて行動する状態)、そして種族をアンデッドに変えて蘇生させるというもの。

この技のキモは、アンデッドに種族を変えるところ。アンデッドという種族、実はかなり癖が強い種族で…固有の仕様が山ほどある。


・毒状態で受けるスリップダメージが回復に転じる

・物理攻撃による被ダメージが0.8倍、魔法攻撃による被ダメージが1.2倍になる

・即死状態にならない(一部例外あり)

・呪い状態は加護状態の、加護状態は呪い状態に変換される

・一部のドレイン技の対象となった場合、ドレイン効果が発動せず術者の体力が回復しない

・一部の回復技において、受けるはずだった回復分だけダメージを受ける


こんなところだろうか。総じて、物理攻撃に強くなるといえばいいだろう。


つまり、だ。


「あのキノコ頭は…死神王モートと取引して、自身にふしの秘法をかけてもらって、エンキとダムキナを洗脳し、むりやり戦争に参加させた…でいいのかしら?」


「どう?キノコ頭さん?」


「その呼び方やめてもらえませんかねぇ…それに、わざわざ私が答え合わせに付き合うとでも思ってるんですか?」


「だってさ…答え合わせかメソタニアに敗走する以外に、そっち側はすることなくない?それにさっきは答え合わせしてくれてたのに…もしかして、ここから先は口止めされてるとか?たとえば…魔王とかに?」


「………」


おーおー、あおりも混ぜながらだけど、だいぶお相手の状況をひけらかせた。

事実、エンキはナタタイシにやられて、ダムキナはSpで圧倒できるはずのドクロに足技でこかされた所を包丁の一撃であっさり敗れた。

ネルガルはバビロア騎士団の必死の抵抗に満身創痍になっている。さて、エンリルに残された選択肢は、敗走か答え合わせか。前者は…おそらく、考えにないのだろう。勝てると思ってたのだから、此処で逃げようものならエンリルが本当の上司に始末されてしまう。それで、後者ももう限界ときたら…


「しゃらくせェェェ!!!!ぬるいんだよァァァァァァ!!!!!」


……っと、コイツを忘れてた。

狂王マルドク、☆☆☆☆風属性悪魔モンスター。ステータス、315-84-78。高いAtとSpを兼ね備えたモンスターだ。もともとは王子だったんだけど…なんやかんやあって、こうなってしまった。長い金髪は嵐のように乱れていて、目は理性を失い血走っている。青い宝石がちりばめられた鎖を全身にまとっていて、同じく青い宝石でおとなしくさせられたテアマトに騎乗している。手には長い両手剣を持っているが、膂力が強化されたのか…片手で軽々と振り回している。


「ちょ、ヒビカ!あの金髪こっち来てるわよ!」


「え?どの金髪のこと?」


「え、どれって…あぁもう…!」


そう。ネルガルもダムキナも金髪なのだ。もうちょいわかりやすいあだ名をつけるんだな、イシス。


「わかってるよ、あのムキムキイカレヤローでしょ?」


「…ヒビカ、あんたなかなか人のこと言えないネーミングセンスしてるわよ…」


「でもでも!私の名前はすごくすてきですよ?」


「……ネロケミちゃんは例外なんじゃないかしら…」


ふふっ、外堀から固めといてよかった。

じゃあ、エンリルがこそこそっと魔王様に連絡を取っている間に…あっ、あのキノコ頭すごい驚いた顔してら。バレてないとでも思ってたのかな?


気を取り直して。


「ネロケミちゃんって大物とばっかり戦ってるよね?」


「どうせひびかさんが仕組んだんですよね?」


あちゃ、バレたか。


「だいじょーぶ、指示通りに技を出せば…たぶん、傷つかずに勝てるから!」


「ふふっ!そこはたぶん、じゃなくて絶対、ですよね?」


「あはは!いいじゃん!そうだよね!」


ネロケミちゃんだいぶ余裕だな。すぐそこまでバカでかいイカれた王子がきてるってのに…ま、その方が緊張しないか。


「こいつで楽にしてやらァァァァァァ!!!!」


「ドクロさんとセリフを被らせないでくださいっ!!」


私仕込みのツッコミが炸裂。それと同時に、白衣のポケットから8本の試験管が浮いてくる。


「ネロケミちゃん、ぎりぎりまで引き付けて!もうちょっと!」


「はいっ!ふぅ…!」


「余裕なんだなァ?!これでもそんなあほ面できンのかァァァ!!!」


テアマトからジャンプしたマルドク。そのまま剣を両手で持ち、回転してネロケミちゃんを斬りにかかる。


「いいよ!撃って!」


「はいっ!エレメントグラス!」


ネロケミちゃんの周囲に浮かぶ八本の色とりどりの試験管。狙いをマルドクに定め、一気に加速して衝突する。


「こんなもん…邪魔だァァァァァァ!!!」


無視して斬りかかろうとするマルドク。でもそうは問屋が卸さない。


「ッなァ?!オレの剣が……ッ!!」


「化学の力を、甘く見ないでください!」


エレメントグラス。緩衝溶液と同じく、ネロケミちゃんの固有技らしい。At30~80%のダメージを8回与える魔法攻撃とのこと。ちなみに言っていなかったが…ネロケミちゃんのステータスは84-57-68だそう。技もステータスも十分ぶっ壊れだった。つまり、エレメントグラスはダメージが136~364で変動する魔法技、ということになる。


……ネロケミちゃん、ほんとに☆☆モンスターなの?全弾最高倍率の時のダメージがさ…最初の頃にいた大魔皇マオタイのEX技と同じくらいあるんだけど…しかも通常コマンドよ?どういうこと?きっと2リールに二個か三個しか入んないんだよね?そうなんだよね??


さて、ネロケミちゃんのチート具合は置いといて。今ネロケミちゃんに出した指示は「マルドクの剣を狙う」こと。そうすれば、唯一の武器が破壊され…攻撃はテアマトに頼るしかなくなる。そうすれば…


「サルファ、あとはお願い!」


「That's a piece of cakeじゃよ、ご主人よ!」


…無駄に流暢な英語やめて…

とはいえ、これでテアマトが離脱するはず。ちなみに、サルファが運んでいたテアマトとムシュフシュはパンドラに預けた。もう必要なくなったしね。


「これが神罰というものじゃ、とくと見よ、下郎よ!」


サルファの轟雷雲がテアマトを襲う。もともと全体攻撃のブレス技なんだけど…あれ?なんか違くない?


「単体に対して全体攻撃はちと効率が悪いからの、一極集中するようにしたのじゃ」


「……それもう別の技じゃん……」


どこかの雷神龍がすすり泣いてそうだなぁ。ムシュフシュとかテアマトをワンパンできるような技ないはずだけど、とか思ってたらこんな技を使ってたのか…


「他にも多属性ブレスじゃったり、強力なかみつき攻撃も使えるようになったのじゃ!」


「   」


ヒビカさん、ぽかん。もうそれゴルドラじゃねえかよ…


「クソ…ッ!!負けだと…!?ゆるさねェェ!!おい、エンリルゥゥゥ!!!」


「騒がしいので黙っててください!」


「が…っ!?てめ…ガキのくせに…ッ!!」


ネロケミちゃんにエレメントグラスの一撃で倒されるマルドク。いやぁ、☆☆モンスターにワンパンされるラスボスって見ごたえあるねぇ…


「……ふう、やれやれ…間に合いました…」


何やらニヤニヤしてるエンリル。マルドクが気絶したタイミングを狙って発言していたから…どうやら魔王軍を呼び出す準備が整ったらしい。


じゃあこっちも、ひさしぶりにご登場願おうか。


「パンドラァァァァァァ!!!!!」


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