バビロア騎士団、姫をお護りする

聖騎士クフリン、☆☆☆☆水属性戦士モンスター。ステータス、283-78-57。


重装騎士クラン、☆☆☆水属性戦士モンスター。ステータス、220-63-26。


黄金の騎士アーサー、☆☆☆☆火属性戦士モンスター。ステータス、294-89-36。


ジェネラル・バルト、☆☆☆☆土属性戦士モンスター。ステータス、309-68-31。


赤のエンプレスを護る、バビロア騎士団の四天王とでも呼ぼうか。昨日ボコボコにしてしまったが、それは…なかったことにしよう。


「みんな、おはよう!疲れは取れたかしら?」


朝9時。騎士団の四人も、うちのパーティも、みんなしゃきっとした表情で、城門前に集合している。王国に住む人たちが大勢詰めかけていて、とても賑やかだ。これからやるのが戦争だってこと、わかってるんだろうか。


「王国のみんな!朝早くからありがとう!お隣の国が少し騒がしいから、この人たちと一緒に静かにさせてくるわね♡」


…うわ、語尾にハートがついた。そしてあがる歓声。男も女もみんなエンプレスのことが大好きらしい。にしてもアイドルの営業って感じがしてならないのは気のせいかなぁ…


「じゃあ、いってきま~す♡」


「「「「「いってらっしゃ~~~~い!!!」」」」」



……マジでアイドルのイベントやん。昨日とは打って変わって、今日はうちのチムメンがぽかんとしてる。もちろん私も。あ、ネロケミちゃんもぽかんとしてる。騎士団の皆さんは手を挙げてファンサ中。卒倒する女性が多数。



つい、叫んでしまった。



「昨日の寝る前のちょっとした真面目な空気を返してぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
















そんなこんなで、平原まで来た。もちろん私たちは、サルファさんの背中に乗って。

騎士団の皆さんは、トレーニングを兼ねて走っていた。重い武器持ったまま走るってつかれないのかなぁ。


「イシスさーん?きょうはドラゴン酔いはへいき?」


「ま、まだマシよ…」


「イシスおねえさんのために酔い止めを作ったんです!」


すご、調剤もできるんだ…ネロケミちゃんもしかして天才?


「!?おい、ドクロあれ!」


「…なぁ嬢ちゃんたちよ、平原に何かいるんだが気のせいか?」


「「「え?」」」


「むぅ、何やら大勢おるの…ふむ?あれが隣国の軍ではないのか?」


そーっと、身を乗り出す。


「うわぁ…嘘でしょ…」


うん、めちゃくちゃいた。色や立ち姿からして、たぶん戦力になる人たちを全員連れてきたんだろう。テアマトに乗ったマルドク、ネルガル、エンリル、それにマルドクの先生をしていたという老将エンキ、果てにはダムキナまでいる。


「これは予想外だなぁ…サルファ、一回エンプレスたちと話したいからおろして!」


「了解じゃ、ぬんっ!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


あ、イシスがゲロりそう。必死にこらえてる。これはこれでかわいい…かも…












「はぁ…はぁ…た、耐えたわ…」


「イシス、すごい。成長したね…」


「私の酔い止めのおかげですね!」


「うん…ネロケミちゃん、ありがと…ぅぷ…」


何とか地上に降り立った。サルファさんは、ムシュフシュとテアマトを後ろ足でつかんでいるので着陸できない。そのため、速度を落として飛んでもらっている。あとで休ませなきゃね。ちなみにイシスは私の肩に寄りかかって、片手で口を抑えてる。


「エンプレス様!あの、もうメソタニア王国軍が来てます!」


「えっ?えぇっ?!」


二度びっくりするエンプレス。ちょっとかわいい。


「はい、正直先手とられるのは予想外だったんですけど…でもここで戦って勝てば侵略される前に戦争を終わらせられます!」


「そ、そうね!みんな!聞いた!?」


騎士団の皆さん、肯定の返事を返す代わりに行動で示す。エンプレスの後方をクラン、前方をバルト、右をクフリン、左がアーサーという配置で、四方を固める。おそらく護衛にかけてはこれ以上の強固なものは無い布陣だろう。


でも一つ気がかりなことがあって…


「ダムキナとエンキってネルガルを止めようとしてたんだよな…」


そう、ストーリー上はネルガルとエンリルの暴走を止めようとしていたのがエンキとダムキナなのだ。だから、正直あの二人がバビロア王国との戦争に参戦するとはおもえなかった。とすると…


「ははーん…」


一つの可能性が頭に浮かぶ。たぶんこれが正解だろう。いや、こうでなければありえない。そんな考えを頭にとどめたまま、みんなと一緒に平原まで進む。


平原にいたのは、覇将ネルガル、参謀エンリル、テアマトに乗った狂王マルドク、老将エンキ、ダムキナ、それからドーシュというボウガンを構えた兵士のモンスターがいる。たしか、エンキのオトモだったはずだ。


「これはこれは、皆様お揃いのようですね?」


初手、挨拶の参謀エンリル。紫色のキノコみたいな帽子をかぶった、怪しげな笑みが特徴の男モンスター。ふふっ、その程度では…甘いな。


「わざわざこんな辺鄙なところまで、呼んでもいないのにご足労いただきありがとうございます…ところで、そちらは若干二名ほど足りないようですが?」


「…!」


初手、皮肉と看破。戦争での番外戦術ってのはこうするもんだよ。そして、さっきの考えが当たっていたことに一安心。

戦争反対派のエンキ、ましてダムキナが戦場へわざわざ来るなんてありえない。だったら考えられるのは、エンリルの技「ミラージュ」。もともと、自身に向けられた物理攻撃の被弾率を下げるだけの技だったが、この世界ではどうやらリアルな幻影を作り出す仕組みになっているようだ。つまり。


「そんな簡単に見破られるような罠なんて甘いね、エンリル…サルファ!この霧払って!」


「ほう、けったいなことをする輩もおるんじゃの…ふんっ!」


サルファさんのたつまきが炸裂。もともとは幼体の頃のEX技だったけど、どうやらまだ使えるらしい。これにより、霧が晴れて…


「なるほど、やはり初めから姫が狙いか…」


「その盾は厄介だな?我が剣の贄にしてくれよう!」


エンプレスを襲撃するネルガル。対応できたのはクフリンだけだ。それもそのはず。


覇将ネルガル。☆☆☆☆風属性戦士モンスター。ステータス、336-84-52。耐久力と火力を兼ね備えたパワー系モンスターだ。緑色を基調とした鎧は、ところどころ金色の刺繍が施されている。手に持った大剣は、宝石のようにきれいな翡翠色をしている。その破壊力は折り紙付きだ。そしてこのステータス…Sp52は、ちょうどクフリンと同速だ。クフリンはバビロア騎士団の中で最も高いSpを持っているが、恐ろしいことにネルガルは敵陣の中で、テアマトを除けば最もSpが低い。だから。


「がっ!?こんな風で…!」


「ふふふ、さすがに弱点は堪えるようですねぇ?」


参謀エンリル。☆☆☆☆風属性魔法使いモンスター。ステータス、234-63-73。ミラージュを再展開してから、単体攻撃魔法のウィンド!!!でアーサーを襲撃。おそらく170近いダメージが入ったのではないだろうか。どうやら、最初に私たちが見た布陣ではない場所に、元から潜んでいたようだ。メソタニア軍の圧倒的なSpと奇襲に翻弄されるバビロア騎士団、でも。


「我こそはジェネラルバルト!討ち取って、誉としてみせよ!!」


バルトが「名乗り上げ」を使った。数ターン、自身の攻撃力を2倍にして、味方をかばう技だ。メソタニア側は風属性の攻撃を多用するため、土属性であるバルトさんがかばうことで、ほかの3人が敵の攻撃を受けずにすみ、ある程度自由に行動できるようになる。この動きはエンプレスが指示を出していたようだ。


「ふむ、厄介ですねぇ…ではあちらを始末しましょうか、ネルガル?」


「はッ、いいだろう!体力だけの貧弱な輩は飽きたッ!」


「そうはさせんっ!堂々一騎討ちだぁっ!」


アーサーの「堂々一騎討ち」が発動。勇敢にもネルガルを狙ったようだ。この技は非常に強力な単体攻撃なのだが、代償として相手のAtと同じだけ自傷ダメージを受けてしまう。


「甘いわァ!!」


これに対し、なんと大剣を振り回し始めたネルガル。何をしているのかと思ったが、すぐに狙いがわかった。


「ぬがっ!この…っ!」


「アーサー!守りの陣形に!」


アーサーの槍に横から剣をぶつけ、槍に大きな振動を与える。これでアーサーさんが痺れてしまい、槍を落としてしまった。なるほど、ネルガル結構うまいな。手練れなだけある。


「……っ、すまぬ…」


クランの指示で元の陣営に戻る。エンリルはウィンドを連打しているが、バルトにかばわれ、思うようにダメージが通らないようだ。どうやら、エンプレスを一旦無視して私たちを始末しようとしたいらしい。


「ねぇヒビカ、ほんとにほっといていいの?」


「バルトさんから言われちゃったしねぇ…」


そう、さっきから何もしていない私たちパーティだが、これもエンプレスとバルトの指示だ。自国の戦争なのだから、ここまで頼るわけにはいかないのだそう。でもさすがに不安だったから、ネロケミちゃんが適宜緩衝溶液を使って援護している。そうすれば、必然と注意がこちらに向くのだが…


「敵は我々だろうがぁぁぁ!!!」


「くっ!ぬかった…!」


クフリンの「守りの剣」。しばらくの間被ダメージが減少するようになる追加効果を持つ単体攻撃だ。背中を見せたネルガルに、渾身の一撃を与える。それでも高い体力と、とっさの回避で大したダメージにはならなかった。それにクフリン、どうやら本気になると口調が荒々しくなるようだ。傷だらけの鎧から、美しい赤と金の髪がたなびいている。


なるほど、エンリルとネルガルの注意が私たちに向かった瞬間にダメージを与える、を繰り返して戦う戦法か。ちまちま殴るいい陰キャ戦法だ。見習おう。


でもな、エンプレス。それじゃジリ貧になっちゃうんだよ。


「ふふっ、特配です!」


「助かったぞエンリルゥ!!だぁぁぁりゃぁぁぁ!!!」


そう、エンリルは回復もできるモンスターなのだ。しかも、回復量が80とそこそこ大きい。さらに全体回復だから、一気にエンリルもネルガルも80回復してしまうのだ。これは痛い…


「ふふっ、そちらの参謀は少々おつむが弱いのでしょうかねぇ?」


ほくそ笑むエンリル。チッ、あいつ腹立つな……


「すぐ後ろの敵に気が付かないなんて…ふふっ、あはははっ!」


「…すまぬな、この老いぼれにも…果たすべき役目があるのだ…許せ…」


「うおぉぉ?!あっぶねぇ!!」


「危なかったな…大丈夫かナタタイシ?」


「おう、すまねぇドクロ…」


…!?なんでエンキが…!?


「私がメソタニアに忠誠を誓ったことなど、一度たりともありませんよ…?私の主は、いつだって…ただ一人ですから!あーっはっはっは!」


あっ!!しまった、読み抜けてた!!


「ネロケミちゃん、私たちにも緩衝溶液かけて!今すぐ!!」


「ふぇぇ?!は、はいっ!!」


くそ、こんなヘマをするとは。一つ、一番大事な可能性を考え忘れた。

まさか…向こうの参謀のほうが一枚上手だったってか…?


そんなの…ありえない……!


「んなわけねぇだろうがぁぁぁぁ!!!!」


「わわっ!?どうしたのヒビカ!?」












…………なーんちゃって。


「ごめんね、イシス!でも一応…作戦だから!」


「…はぁ?」


あきれ顔のイシス。表情豊かだなぁこの子。


「敵を欺くにはまず味方から、でしょ?」


そう、エンプレスにも、ネロケミちゃんにも、パーティのみんなにも、そしてにも、誰にも作中では言わなかったことがある。それは。


「……ふぅん?エンリル、いい挑発だね?なかなか効いたよ。で、どうなの?って?」


さぁて、逆転の時間かな…!

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