拠点ゲットだぜ!
「これは…衝撃を弱めたのか?」
「ふぅ…あぶなかったです…」
緩衝溶液。弱酸とその塩の混合液で、pH変化を抑えることができる溶液だ。その名を冠するこの技は、なんと「味方全体、二ターンの間被ダメージを半減し、敵の技による味方への状態異常の付与率を下げ、さらに体力を40回復する」という恐ろしい技。この前言っていた、シャボン・バリア・グランとほぼほぼ性能が同じだ。状態異常を完全に無効化できるわけではないものの、付与率低下に加え40回復はそこそこ大きい。おそらく、ドクロの自傷ダメージも回復できるだろう。
「ほう…確かに、会心の一撃では少々物足りなかったようだな?」
「はい!でも、もうあなたの刃は私には届きませんもん!」
「…?何を言って…ぬがぁっ?!」
「助けに来たぜ、ネロケミ!」
ナタタイシの乾坤圏がバルトの脇腹にクリーンヒット。あの後、アーサーをマヒにさせて動けなくなった隙を突き、ネロケミちゃんの加勢に来たのだ。しかも、ジョンガリのサラマンダがもう一回放たれたことでそのアーサーも退場。残るはクフリンとバルト、それにエンプレスのみとなった。ジョンガリの攻撃は、どうやらエンプレスはすべてかわしていたようだ。
赤のエンプレス、水属性獣モンスター。ステータス、273-68-84。Spが非常に高く、最初にちょっとだけ出てきた大魔皇マオタイと同速である。もともと味方のコマンドレベルを上げる技を得意としていたが、この世界ではどういう戦いをするのだろう。会心型か、EXゲージ増加型か。どのみち、単体で戦う分にはあまり脅威とは言えない。
「嬢ちゃん、あのバリアすごいな?あのレベルの技をこんな時期から使えるなんてただものじゃないぞ?」
「えへへ♪」
「ハハッ、戦場で物怖じしねぇ肝っ玉もあるってか!こりゃ驚いたなぁ…」
ドクロは、クランがサラマンダで倒れるのを見越してクフリンにターゲットを変え、その勢いで退場させていた。そういえばさっき、嬉々とした声色で「ミンチにしてやるぜぇぇぇぇ!!!!!」って言ってたのはドクロだったのか。
「ぐ…ふ…っ、まだ…私は、立てる…ぞ…!」
「これを受けてもかぁぁぁぁ!?」
イシスが変化したジョンガリがアシド!!を発動。単体への威力が高い毒属性魔法攻撃だ。そういえば、変化のタグイェルは…変化したターン再行動できるから、合計三回動けるのか。仕様変更していたのを忘れてた。
「な……っ」
「ふふふ…そろそろ降参じゃないかしら?」
元に戻ったイシスがエンプレスに微笑む。
「そうね…投了よ。バルト達、ごめんなさい…」
エンプレスの声。彼女、マヒで動けないアーサーやサラマンダの連打で退場していくクフリンにも事前に指示を出していたんだけど…それより早く動きを封じられたために、結局何もできなかったのが悔しいのか、ちょっぴり目に光るものがある。
「じゃあイシス…の蘇生だとまずいから、ツクヨミに変化して蘇生させてあげて?EX技使わせてあげるから」
「はいはい…迷える魂よ…」
さて、この世界でのEX技の話をしなければ。ここでは、三体で一つを共有するゲームとは違い、各モンスターごとに10個EXゲージをためることができる。それをプレイヤー、すなわち指揮を執る人が、各モンスターに自由に配分するという仕組みだ。だから、EXゲージを消費する通常コマンドを使うモンスターのゲージが空になっていたら、ほかのモンスターのゲージから好きなように配分させて使うことができるようになってしまう。これはこれで頭を使うが、単純に強力なシステムだ。
例えば、EXゲージが満タンのモンスターへ、相手が10連続攻撃をしてきたとしても、直前にそのモンスターのゲージをほかのモンスターへ配分し空にすることで、10発分のEXゲージを無駄にせずにすべて回収できるのだ。
「クヒヒ…さぁ、はじめるぞぉ…!」
呪師ツクヨミ。即死攻撃、味方の蘇生、相手の洗脳、相手EXゲージの減少をすべて一人で使うことができる超万能サポーター。並居る☆☆☆モンスターのなかでも、かなりの壊れ性能を誇る。ただ、正直なところ…リールキャパシティの問題で、あまり前の世界では活躍できなかったところもある。だから、この世界では常時チムメンにするより、イシスに変化してもらって使うのが最もちょうどいいのだ。
そして、こいつのEX技が「完全復活の踊り」。退場した味方モンスターをすべてHP最大にして蘇生させる技だ。なので、今回はいったんイシスをエンプレス側のモンスターであるという風に設定を変えてから、EX技を使ってもらった。
「ふう…お仕事完了ね!」
あんまりツクヨミでいるのがお気に召さなかったようで、すぐに元に戻ったイシス。エンプレスの脇に、ずらっと四体の騎士が並ぶ。壮観だなぁ…
「姫、申し訳ありません…一から鍛えなおします…」
「あのー、バルトさん…私ら、その…大人げないくらいハメハメ戦法しちゃったので…むしろ戦意が失われなくてビビったくらいですから…」
「否、すぐに盾から手を放しておけば電撃を喰らわずに、すぐに反撃できたところを…勘が鈍っていた…」
…なんか騎士の皆さんが自信なくしちゃったよ。
「いや、ナタタイシって仏ですから…仏の攻撃喰らって耐えてる方がおかしいですよ…?」
「…む、ま、まぁ…そうだが…」
「はいはい、しんみりムードは終わり!もともと腕試しって話だったんだから…でも、ここまで完封されるとは思ってなかったけど…でも、これだけの戦力が私たちについてくれたんだもの、いい仲間がいるとみんなももっと強くなれるんじゃないかしら?」
おぉ…なるほど、エンプレスの支持率が高い理由がわかったぞ。場の空気を変えて話を進めるのがうまいんだな。テレビがもしこの世界にあったら、バラエティ番組の司会者として引っ張りだこだろうな。
「じゃあ…エンプレス様、戦力になる代わりに、居場所を提供してほしいのですが…」
「もちろんよ!私の隣に何個か部屋があるから、そこを使ってちょうだい!」
「ありがとうございます!」
よしっ、拠点ゲット!そしてついでに、エンプレスからの信頼もゲット!隣の部屋って相当な信頼の証だよこれ!
「それと、ネロケミちゃんのことなんですけど…何かご存じですか?」
「うーん…王城の図書館にいたのをアーサーが見かけて保護したの。でもそれより前はわからないわ…」
「そうですか…でもかなり強いですよ?この子…」
「戦えるなんて知らなかったもの…あんなに強いなんてびっくりだわ…」
「えへへ…褒められちゃいました…」
さっきまでしんみりしてた騎士団の皆さんも、ネロケミちゃんの笑顔につられて笑顔に。この子の幸せオーラって無敵なんじゃなかろうか。でも、エンプレスたちも知らないとなると、この子の謎は余計に深まってしまって…まぁいいや、今は考えるのやめよっと。
「ネロケミちゃん、さっきの約束だけど…うちにきてくれる?」
「はいっ!ぜひ!」
後ろでイシスが「また抱っこができるのね…」ってにやにやしてる…ちょっと引くくらい笑顔が気持ち悪い。
「じゃあネロケミちゃんは私と相部屋でいい?」
「だ、だったら私も入るわ!」
「じゃあ三人がいいですっ!」
…トントン拍子で三人相部屋が決まっちゃった。どうやらドクロとナタタイシも相部屋にするみたい。王城の部屋を何個も占拠しちゃ悪いもんね。
「あ、最後に大事なことなんですけど…」
「ええ…戦争の件ね?」
「あっ…」
「あっ…」じゃねぇよイシス、お前ネロケミちゃんに浮かれて忘れてたな?
まぁ、かくいう私も忘れてたけどさ。
「あ…それもありましたね…」
「……ほんっとに緊張感がないわね、あなたたち…じゃあ何?」
「サルファさんのことで…シルバードラゴンが休めそうな場所ってありますか?」
「…確かにそっちの方が重要ね…確かに、戦争はあなたたちとバルトたちに任せてれば何とかなりそうな気がしてきたわ…」
…やっぱり、戦争よりシルバードラゴンが来る方が一大事なのか…
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