Encounter

王城に行く前に、身嗜みを整えることにした。さすがに裾に女神様のゲーがついたままじゃ謁見はできないよね。


「服変えるのもいいけどよ、あのヘビどうするよ?」


結局、焼け焦げたムシュフシュはサルファが掴んだまま王城まで空輸されている。本人いわく、「これでも伝説のドラゴンじゃからの、このヘビ以上に街中に現れたら大事件じゃよ、ふふっ」だそう。そんなに怖いふふっの使い方初めてだよ。


「ねぇイシス、なんか服の汚れとる魔法とかないの?」


「ないわよ!私のこと洗濯機扱いしないで!」


「『汚れよ、落ちなさい…!洗浄のマジュラ!』とかないの〜?」


「ないって言ってるでしょ!その地味に似てる声マネやめて〜!!」


ふっ、自信作がハマってくれて何より。


「ハッハッ、ほんとに楽しげな嬢ちゃんたちだな…ま、王城行ったら替えの服とか貰えるんじゃないか?」


「んー…まあ、そんなに目立つ汚れでもないし服選ぶのめんどいし…いいか…」


実はイシス、気を使ってかしらでか、地味にスカートの裏側を使ってくれてたから、まだそんなに目立ってない。


……じゃあ服はいっか。もう面倒くさくなってきた。ナタタイシ程じゃないけど、正直な話この子達で戦いたくてうずうずしてる自分がいるんですよずっと。


「じゃあ、とっとと王城行くか!風火二輪…は、さすがに使わねぇ方がいいか…じれったいけど、のんびり歩くとすっか!」


「おー!」


なお、この時誰もお金を持っていないことにあとで気が付いてホッとしたヒビカさんでした。

















歩くこと十分。町に入った時から見えていたお城が目の前に。漆喰だろうか、真っ白に壁面が塗られていて、屋根は赤いレンガでできている。よくある洋風のお城だ。にしても。


「…王城、でかいね…」


「私のお墓よりおっきいわよ、これ…」


…イシス?それはツッコんでいいのかい?


「門番もいなさそうだな、これならエンプレスにはすぐ会えそうだし…拠点探しも案外順調だったな?」


「ドクロ、無駄にフラグ立てっと拠点が遠のいてっちまうぜ?」


この世界にもフラグって言葉あるんだ。そう思っていると。



ぷにっ。



何かが足首にいる。



「あ、あの!どちらさまですか!」



スライムだろうか。真っ黒な体に、つぶらな瞳。でも、明らかに普通じゃない。だって。


「白衣と…それは、帽子?」


そのスライム(?)は、明らかにサイズのあってない白衣と、イギリスの大学生が卒業式で被ってそうな四角い教授帽をかぶっていた。しかもなぜか喋れるし。


「あっ、はい!わたし、化学大好きで…あっ、化ける方の化学です!」


マジか。ファンタジー世界にも化学ってあるのか…話が合いそう。


「えっと、お…私はヒビカっていうんだ。あなたは?」


「ひびか…しらないなまえです…あっ、私名前がなくて…」


見た感じ小さな子っぽいし、それにそろそろ性別に合わせたいし…俺って一人称から私に変えることにしよう。まだ慣れないけど。


「名前ないの?種族とか属性は?」


「あ、えと…水属性、魔法使い…です…」


水属性魔法使い。脳内検索をしぱぱっとかけ、☆☆ランクで探してみる…前に、ヒビカフィルターが作動。


「でも…黒いスライム型の魔法使いなんて聞いたことないし…」


「はい…私もよくわからなくて…」


「ねぇヒビカ、この子どうするの?見た感じ門番でも無さそうよ?」


「そうだね…エンプレスなら何か知ってるかもね、連れてく?」


みんな文句は無さそう。この子は無害と判断したのかな。最近静かなおしゃべり箱も、何も言ってこない。てことはこの子、モンスターって扱いじゃないのかな?


「じゃあ…えと、呼びにくいから名前決めてあげる!黒くて化学好きだから、ネロケミ!どう?」


「ネロケミ…はいっ!わたしは今日からネロケミですっ!」


めっちゃ嬉しそうにニコニコしながら白衣の中でぴょんぴょんするネロケミちゃん。めっちゃかわいい。隣を見ると、イシスが抱っこしたくてうずうずしてる。お前もかい…


「イシス、水属性繋がりだししばらく面倒見てあげてくれない?スカート汚した分のアレだと思って…」


「!?ふ、ふーん…?女神にお願いなんていいご身分ね?女神の…その、ゲーだって実は神聖な…」


「おいイシス、風火二輪に轢かれるか、火尖槍で刺されるか、それともドクロの包丁でミンチにされるか、どれでお陀仏したいか選ばせてやるぜ…?」


ちょっと調子に乗ったイシスへの制裁だろうか。ナタタイシがドスの聞いた声で火尖槍を首元に向けた。おー怖い。


「じ、じょじょじょじょ冗談よ!!面倒見るったって…だ、抱っこすればいいの…?」


「えっと、イシスおねえさん?ですか?」


「おねえさ…んぶっ…」


お姉さん呼びで鼻血出しやがったよこいつ。マジュラしなさいマジュラ。


「イシスおねえさん大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫よ!えっと、抱っこしてもいいかしら?」


「は、はいっ!わたしなんかでよければ!」


なんだか告白のようになっている。ただ抱っこするだけなのにな…


「あ、ありがと…う…ぅ…」


抱っこすると、ひんやりした体がイシスの腕にむにゅっ、とフィットしていく。えも言われぬ謎の多幸感に、幸せが溢れているようだ。


「ハハハッ、戦争前とは思えねぇくらいほんわかした雰囲気だな嬢ちゃんたち…俺はドクロだ!よろしくな、ネロケミの嬢ちゃん!」


「で、俺様はナタタイシ!呼びにくかったら好きに呼んでいいぜ!」


「どくろさんと、なたたいしさんですね!覚えました!よろしくおねがいします!」




…どうしよう、ネロケミがかわいすぎる。というかみんな優しいよね、ちっちゃい子に。

それになんだかんだ、チムメン同士で冗談を言い合えるくらいには絆があるみたいで安心した。




「ネロケミちゃん、私たちエンプレスのところに行きたいんだけど、道案内ってお願いできるかな?」


「はいっ!エンプレス様には何度かお会いしたことがあるので、お任せください!」


イシスの腕の中でぴょんぴょんするネロケミ。それ以上アグレッシブに動くとイシスさんが昇天しそうだからやめたげて…


「ではごあんないしますね!」


とびっきりの笑顔。もれなく私もイシスも昇天しかけたのでした。

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