酔っ払いイシス
「うぇっ?!サルファ大丈夫?!」
びっくりしてサルファさんに声をかけるが、当の本人は特に気づいていない様子で…
「おん?どうしたのじゃ?」
「あれ?じゃあ今の声は…?」
「声?あぁ、あやつかの?」
「あやつ?どやつのこと?」
「そやつじゃ」
「こやつかぁ…へぇ…」
そこにいたのは。
「何よこれ…真っ黒こげじゃない…」
「もはやもともと何だったのかもわかんねぇな……」
「翼が特徴的だな…ハハッ、怒る蛇だろう…ざまぁねぇな…」
「なんでドクロさん分かるの…」
額の緑色だった結晶と、枝から生えた葉っぱのようだった翼、全身が紫色だったと思われる、そんなドラゴン。なんで「だった」なのかといえば、もう全身黒焦げだったから。これってまさか…
「サルファがやったの…?」
「ん?おぉ、なんか変なにおいがしたからの。あたりを雷で焼き払ったらこんなのが出てきたのじゃ」
「変なにおい…まぁそうだけど…」
怒る蛇ムシュフシュ。☆☆☆☆土属性ドラゴンモンスター。初の毒属性ブレスを使うモンスターで、見た目は水と氷を司るブルードラゴンと酷似している。このモンスター最大の特徴は…
「息めっちゃくさいんだよね…」
そう、EX技「くさいいき」。その効果、なんと相手全体を必ずマヒにするというもの。これを利用して、EX技を連打可能にするモンスターと合わせたコンボで相手を封殺するデスコンボがあったりする。前の世界ではものすごく限定的だったが、この世界ならいけるんじゃないのかな?実は後々捕まえようと思ってたドラゴンの一体だったりする。
それはそうと。
「ドクロ、あんたなんで知ってたのよ…」
「昔戦ったからだ。山岳地帯の洞窟にいるはずなんだが…呼び出されでもしない限りこんな所には居ないはずだぞ?」
ほう?いいことを聞いた。
「ってこたぁ王国の番人的なヤツだったんじゃないのか?それをこんなに黒焦げにしちまって…」
うん…もしそうだとしたら大事件だよこれ。なるべく穏便に済ませようとしてたのに早速お尋ね者じゃん…
でも、ちょっと引っかかる。もし予想が正しければ…
「ねぇドクロ、呼び出されでもしない限りムシュフシュはこんなとこ来ないんだよね?」
「ああ。王国にまで来るなんて聞いた事がないな…」
「召喚士でもいるのかしら…でも…何のために…?」
「召喚士…じゃないけど、引っかかるなぁ…」
うん、ほぼほぼ確信した。
そして、そこから分かることは。
「近々戦争になるね…」
「はぁぁ?!ちょ、ヒビカあんた何言っ…ぅぷ…うげぇ…」
「ったく、だから言ったのによ…お前の方が危なっかしいって…ほら、こん中でいいからゲーしろ、ゲー」
「おげぇぇぇ…」
どこからか紙袋を取り出して、滅菌処理をするナタタイシ。ドクロは「仕方ない嬢ちゃんだな…」といいながら、楽しそうに背中をさすってやる。この際いっそ全部出してしまえと思ったのか、ゲーの勢いを増すイシス。確認だけど、ここはドラゴンの背中の上だ。
「……シリアスな空気さん、頼むから仕事をしておくれ……」
「はぁ…あ゛ぁ…まだ気持ち悪い…」
「イシスさーん…ゲボ出した口を俺のスカートでふくのやめてくれます…?」
「…それで、戦争ってどういうことなの?」
「………どこから言えばいいかなぁ…」
スカートを汚されながら、バビロア王国と隣国のメソタニア王国について、知っていることをざっくり話した。
バビロア王国は、現在赤のエンプレスが統治している。民衆からの支持率はとても高く、平和な国だ。その軍には、最近近衛隊長から将軍に昇格したバルトという剣士、黄金の槍を使うアーサーという騎士、聖剣を持つクフリンという騎士、大盾を持った重装騎士のクランなど、よりすぐりの精鋭が集まっている。
一方、隣国のメソタニア王国。王子であるマルドクと、王女であるダムキナが統治する、平和だった国。だった、と言ったのは、この国の軍の参謀であるエンリル、そして将軍のネルガルの仕業による、いわゆるクーデターのせいだ。ネルガルはマルドクに接触し、その心の奥底に眠っていた狂気を呼び覚まし、狂王として覚醒させてしまう。これにより、マルドクは理性を失い、友好な関係にあったバビロア王国への侵攻を目論んでいるのだ。
そのマルドクは、テアマトという大型の獣モンスターを従えている。テアマトのコマンドのひとつ「怒る蛇召喚」は、先程黒焦げにされたムシュフシュを召喚するコマンドだ。先程ドクロが「召喚でもされない限りムシュフシュは王国近隣まで来ない」旨の発言をしていたので、これをテアマトの仕業と仮定し、、バビロア王国への牽制と捉えれば、辻褄が合う。この世界でムシュフシュが街にまで普通に来るようなモンスターだったら話は違ったけど、そうではないらしいから確定だね。
「…つまり、そのマルドクって子を正気に戻せばいいのよね?」
「うん、でも戻すって言うより…正気にさせる、の方が正しいかも。」
「ほう、というと?」
「マルドクの元々の姿が、狂王なんだよね。だからネルガルたちは、王子を元の姿に戻しただけだと主張してるはずだよ…」
「…なーんか厄介だな…ただ倒して終わり、って訳にゃ行かなさそうだなぁ?」
「で、でももう引き返せないわよ!ムシュフシュが今攻め込んできたってことは、召喚主の…えと、なんだったっけ…トマトみたいなやつも近くにいるのよね?」
「テアマトな。ムシュフシュもテアマトもSpが極端に低いからその可能性が十分にあるよ。」
「ならやる事は単純になるな。王国へ行き、エンプレスの元へ行く。そして、さっきの黒焦げのヘビを出して、メソタニアが攻めてきたと伝える。それで王城に匿ってもらう。バビロア王国に拠点を置く以上、バビロア王国側が優勢になるようにしなきゃあこっちが危ないから、戦争に先手を打て、エンプレスからの信頼を獲得し、ついでに豪華な拠点を獲得。どうだヒビカ?」
「うん、俺も同じこと考えてた。サルファ、さっきのヘビって今どこにいる?」
「話は聞いとったからの、後脚で掴んどるよ。まぁ王城に行くより前に、王国の門番さんが気づきそうじゃがの。」
…確かに、ギンギラギンのドラゴンが真っ黒なドラゴン掴んで飛んでたら報告に行くよね。
そしてさらに飛ぶこと数分。
「着いたわね…ぅぷ…」
「頼むからもうゲーしないでね…」
あの後何回かゲーしたイシスさんのせいで、着替えを探さなきゃいけなくなりました。
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