第22話 安易に登場したモフモフは作者の都合によって捨てられる

 深い森を眼下に望みながら空を飛ぶ。


 かれこれ一週間はディアナのそばにいたのでたまには一人になりたい。

 そんな思いのもと今はアトラス大森林──通称魔の森の上空を飛んでいる。


 アリスさんたちと別れてこの地へ来たのはスタンピードの件があったからなので予定通りの行動だけど。

 家族の様子を見に行ったのはあくまでついでだし。うん。

 なぜか父に見つかってああなってしまったが……。


 というかなぜ見つかったのかいまだにわからん。

 父に聞いてみたら「なんとなくそんな感じがした」とかで意味わからん。

 森の魔物たちが私に無反応なので魔力を隠蔽する指輪は壊れてないはずだ。

 繋いでいた魔力線が原因かもしれないが聞くのが恥ずかしいのでそのままになっている。


 そんな父と母だが私を家族同然に扱ってくれている。

 私のことは認知してないのにだ。

 おまけに素性だとかも聞いてこない。

 どう答えたものか困るのでありがたいといえばありがたいのだが、そんな人物に大切な赤子を任せていいのだろうか。


 いろんなモヤモヤが胸中を渦巻く。


「はぁ…………ん? ディアナ?」


 ぼーっとしていたら赤ちゃんの泣き声が聞こえた気がした。

 空中に止まり耳を澄ませるがもちろんこの場にいる訳がない。

 きっと風切り音が聞かせた幻聴だ。


「でも今ごろ泣いてるんだろうな」


 前にちょっとくらいならと離れたりしたけどダメだったもんな。

 秘技・本当にいなくなるいないいないばあ(透明魔法)でも泣き出してしまった時は焦った。

 母の方がキャッキャキャッキャ喜んでたくらいだ。

 まあ一週間もすれば多少は落ち着いてきたが。


 ってもう一週間経ってるんだよな。

 アリスさんたちはもう王都に着いているころだし向かわなくてはならない。

 幸い王の治療といっても急を要するほどではないから大丈夫だろうが。


 魔力線が繋がっていれば連絡できるのだが、完全に眠ってしまったことで切れてしまったのだ。

 爺さん龍との繋がりはお互い維持しあっているので大丈夫だったけど。


「と、集中集中」


 魔力感知の感覚を鋭くし周囲を見渡す。


 フェブルス邸を出る前に辺境伯から森の状況は聞いている。

 森の端に住む狩人たちを総動員して警戒にあたっているそうだ。

 報告では怪しい兆候もなく以前と変わらないと。

 ただスタンピードを引き起こした存在については行方がわからなくなったらしい。

 まあお隣の帝国か教会勢力だろうとのことだ。


 毒の件もあって教会にはいい印象がない。

 だが王都で魂に関する情報が見つからなかったらそっちをあたる必要がありそうだ。

 まあひとまずは王都で──


「ピーーーー!!!!」

「ブモフッ!?」


 いきなり顔面になにかがぶつかった。

 いつものごとく結界のおかげでなんともないがびっくりだ。


「ピー! ピヨーー!!」

「鳥?」


 目の前でフクロウみたいな白くて丸っこい鳥が羽ばたいている。結構でかい。顔くらいの大きさだ。

 襲ってきたのかと思ったがどうもそういった気配はない。

 なんかピヨピヨ鳴きながら訴えかけているようなそんな感じがする。


「ピー! ピー!」


 すまねえ、鳥語はさっぱりなんだ。

 翻訳魔法を使おうにも鳥と交信なんかできないだろうし。

 それにかわいい声で鳴いてるけど魔物なんだよなあ。

 魔力感知で気づいた時にはすでにぶつかっているくらい速かった。


「あ、もしかして魔物なら?」


 ただの鳥ならまだしも魔物なら意思疎通できるかな?

 爺さん龍もどうせ魔物みたいなものだし。

 やるだけやってみるか。


「ピー!」

「なるほど」

「ピー! ピー!」

「すごいな」

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」

「悪いのは君じゃない」


 翻訳魔法をかけてみたらなんかイメージというかニュアンスが伝わってきた。


 この鳥は山に住んでいるらしいが黒くておっかないドラゴンに粘着されて困っているそうだ。

 毎晩のように「ピーちゃんゆっくり休むんじゃぞ? ピヨ助とピヨ丸にたんとごはんをあげるんじゃぞ?」と頭の中に声が響くという。

 前に兄弟姉妹もそのドラゴンに食べられてしまい、今度は子どもまで食べられてしまうのではないかと気が気でないと。

 そんななかドラゴンから伸びている魔力を感じとり、一縷いちるの望みを賭けてここまで来たそうだ。


 うーん、なんか覚えのある話だ。

 というか絶対あいつだろうな。


「ぴー……」

「とりあえず行ってみましょう」

「ピー!」


 傷心した様子だったが私の返事を聞いて元気を取り戻したようだ。

 まあ力になれるかわからないけど。


 最悪キチガイ龍と戦争になりそうだなーと思いながら鳥──ピーちゃんのあとを飛んでいった。





 はい到着。

 さっきも思ったがこの鳥めっちゃ速い。

 数分とかからずに巣に着いてしまった。


「ぴーぴーぴーぴー!」


 ピーちゃんが入っていった崖の穴を覗き込むと三羽の雛鳥ひなどりがいた。

 一羽はやかましいが二羽はかなり弱っているようだ。餌をねだる元気もない。

 たぶんこの二羽がピヨ助とピヨ丸だろう。

 どうせどっかのキチガイが「ほれ! もっと食べて大きくならんか! わしのために!」とか念話でもしてるせいで弱ってるんじゃないかな。

 可哀想だし元気になるように魔法をかけておこう。


「ピー!」


 私の魔法に気づいたのかピーちゃんがお礼のような声をあげる。

 二羽は精神的に参っているのかまだ本調子じゃないようだ。


 さて。


 空中に浮かんだまま一点を見つめる。

 ここの岩肌は黒く保護色みたいになっているがおびただしい魔力は隠せてない。

 少し離れた切り立った崖の上に爺さん龍──いやストーカーがいる。


「寝てるのかな?」


 ジーッと見つめるがなんの反応もない。

 一応私とは友好的な関係を築いているから声くらいかけてくるはずだ。

 石でも投げてやろう。


『ん? レークシアか? そこで何をしとるんじゃ?』


 崖から石を削り取ろうとしたら頭に声が響いた。

 もう少し遅かったら投げ込んでいたところだ。危ない危ない。


『えーと、その……あ、聞きたいことがあったんです』


 いきなりピーちゃんの件を切り出すのは勇気がいる。

 まずは世間話から入ろう。


『聞きたいこと? それならここまで来る必要などないであろうに』

『あー、ほら、久しぶりに会いたくなったからですよ』


 心にもないことを口にする。

 気分はボケた爺さんの相手をする孫だ。


『そうかそうか! それなら仕方ないのう。それで何が聞きたいんじゃ?』


 ふっ、バカめ。こんな言葉を真に受けるとは。

 内心バカにしつつも質問をする。


『森の外で人と会ったところヤヌスアトラス様を神としてあがめていました。建国王を助けたことがきっかけらしいのですが本当ですか?』


 なんやかんやあって本人からは聞けてない話だ。

 あのとき聞けなかったのもピーちゃんのことがあったからだっけ。


『んー? そういえば昔人間と会ったことがあるの。あれはたしか背面飛びにハマっておった頃じゃ。気持ちよく歌っておったら地面に墜落してしまってのう。魔物を下敷きにしてしまったがそのおかげで襲われていた人間が助かったそうじゃ』

『……』

『お礼にくれた料理は美味かったのう。住むところに困っておったそうじゃから森を吹き飛ばして更地を作ってやったのよ。懐かしいのう』

『……』


 なんかどこかで聞いた、というか経験したような話だ。

 そう、まるで私とアリスさんの出会い……。

 くっ、この爺さんと同じような行動をしてしまうとは。

 さっきまでバカにしていた言葉が自分に返ってくるようだ。


『美味いといえばそこはピーちゃんの巣じゃぞ。早くそこを離れ……は! まさかお主もピーちゃんを!』


 いきなり爺さん龍の魔力が高まる。

 ノスタルジーな雰囲気に浸っていたくせに急すぎるわ。


『違います! ピーちゃんに呼ばれてここまで来たんです!』

『ピーちゃんに? どういうことじゃ?』


 私の言葉を聞いて魔力が落ち着いていく。

 情緒不安定のキチガイストーカーとか怖いからやめてくれ。


『ピーちゃんが言うにはどっかの誰かさんに付きまとわれて困っているそうです。それで私のところに助けを求めにきました』

『なんじゃと! わしのピーちゃんに付きまとうとは許せん! どこのどいつじゃ!』


 いやお前だよ。


「ピー!」

『おおピーちゃん! わしがついていながらすまんのう。ピーちゃんに付きまとうやからはわしが成敗するからの』

『ピーちゃんが付きまとっているのはあんただって言ってます』


 巣から出てきたピーちゃんが私の頭の上に乗って爺さん龍を睨む。

 地味に重いから降りてほしい。


『ハッハッハ! 面白い冗談じゃのう。わしはピーちゃんを見守っておるだけじゃぞ?』


 それをストーカーと言うんだよ。


「ぴよー……」

「ぴよ……」

『む、ピヨ助とピヨ丸ではないか。元気がないのう。たんと食べるよう言っておるのに』


 崖の穴から雛が顔を出してきた。

 やはり弱っているのがピヨ助とピヨ丸らしい。


「ピー」


 ピーちゃんが巣に戻り二羽を守るような体勢になる。

 なんかペンギンみたいだ。


『あれだけ痩せておると不味そうじゃな……』


 お、そうだね。だから諦め──


『そうじゃ! 残ったもう一匹をピヨ助ということにしようかの』

「えぇ……」


 もうドン引きだよ。

 誰だよこんなのを信仰しようとか言い出したの。

 早く討伐してくれ。


 この国の人が聞いたらなんて罰当たりなと責めてきそうなことを考えてしまう。

 でもその方がきっと世のためピーちゃんのためだ。


 そんな風に思っているといきなり怒っているような甲高い声が耳を貫いた。


「ピヨー!」

「ピー!」

「ピヨピヨー!」


 最初の声を皮切りに鳥の鳴き声があたりを包み込む。まるで鳥の大合唱だ。

 どこにこれだけの数がいるのかと思ったら無数にある崖の穴から鳥たちが顔を出していた。


『うるさいのう、静かにせんか!』

「ビー!!!!」

「ビヨー!!!!!!」

『なんじゃ! ピーちゃん以外の山鳥に興味なぞないわ! 黙っとれ!』


 爺さん龍から威圧するような魔力が放たれる。

 私でも体がこわばる程の魔力だ。鳥たちに耐えられるはずが──。


「ピ、ピヨー!!!!」

「ピヨピヨーーーー!」


 予想に反し威圧に負けることなく山鳥たちは声をあげ続けた。

 だが相手は自己中キチガイストーカー龍だ。

 ちょっとでも機嫌を損ねたら崖が消滅しかねない。


 ここは私が間に立って……ん? 鳥たちの魔力が集まっている?


 爺さん龍の魔力でわかりづらいが、たしかに鳥たちから魔力が放たれひとところに凝縮されている。


「ピーちゃん?」


 いや、ピーちゃんじゃない。

 その下にいるピヨ助とピヨ丸のところだ。


「ぴーーーー!!!!」

「ぴーーーー!!!!」


 二羽がピーちゃんの足元から這い出して力を振り絞るように声をあげる。

 それに呼応するかのように他の山鳥たちも同じ声をあげ始めた。

 はじめは大合唱のように感じていた鳴き声だったが、徐々に一つの楽器から聞こえてくるようなまとまりがある音へと変わっていく。


 目を閉じてしばしの間その美しい音色を堪能たんのうしていると、いままで鳴かなかったピーちゃんも山鳥のハーモニーへと加わりだした。

 不思議に思い目を開けるとピヨ助とピヨ丸の体を魔力の渦が覆いはじめていることに気づく。

 まるで私の変化の魔法のように……。




「ピーーーーヨーーーー!!!!」


 どれくらいの時間が経ったのだろう。

 力強いその声がとどろくまで山鳥たちの演奏が終わっていることに気づかなかった。

 それくらい心を奪われた視線の先にはの鳥が立っている。

 そう、二羽ではなく一羽。

 魔力の渦があった場所で声をあげているのは成鳥へと変化した一羽の鳥なのだ。


『……奇跡、じゃな』

「え?」


 ストーカーがぽつりと呟いた。


『魔法を発動するには明確な意思と代価となる魔力がいる。だが雛鳥程度にその二つがあるとは思えぬ。他の山鳥たちが魔力を分け与え、ピーちゃんの意思により魔法が発動したのじゃろう』


 先ほどまでの残念な姿はどこへやら、威厳のある声で爺さん龍が言葉を続ける。


『しかしそれは本来ならありえない。他者の体へ直接影響するような魔法は無効化されるのじゃ。以前の世界で隷属魔法が横行し神が修正したからの』


 はえー、なんか結構重要なことを言っている気がする。

 展開についていけないけど。


『魔法を行使する者を完全に受け入れておればその限りではないが、それ程までに他者を受け入れるなどそうそうない。例え家族だとしても本能的に拒否してしまう部分はあるものじゃ』


 たしかに家族といえど他者であることには変わりない。

 理性や感情でどれほど受け入れても本能には逆らえないだろう。

 それは私がよくわかる。

 いくら覚悟しようが死を目前にすれば否応いやおうなく恐怖するものだ。


 そう考えながら龍の言葉に耳を傾ける。


『じゃがピヨ助とピヨ丸が進化したのも事実。山鳥たちの魔力を受け入れてまで叶えたい願いがあったのじゃろう。……まったく、これでは食べるもんも食べられんわい』


 よくわからんがピヨ助とピヨ丸を食べるのは諦めてくれたらしい。

 よかったよかった。イイハナシダナー。

 私なにもしてないけど。


 体が一つになったピヨ助丸がピーちゃんと体を寄せあっているのを眺める。

 いまの話で気になったのだが、無効化される魔法というのは治癒魔法も当てはまるのだろうか。


『体に直接影響する魔法というのは治癒魔法も該当するのですか?』

『そうじゃな。しかし我ら龍には関係ない話じゃ。全ての母たる星の魔力を宿しておれば他者に作用する魔法も扱えるのでな』


 だから私には治癒魔法が使えるのか。

 ん? それなら教会が治癒魔法を使えているのはなぜだ?


『あっしらを助けてくださりありがとうごぜえやす。姐御あねご

あねさん! あたいたちを連れて行ってください!』

「は?」


 いきなり江戸っ子とヤンキー娘の声が頭に響いた。

 一体なにがどうしたんだ。

 ついに私もイカれてしまったのか? 爺さん龍みたいに。


「ピー!」

「あ、ピーちゃん。それと……」

『どうかお願いしやす姐御! ここに居たらあの暴竜に食べられちまいます!』

『あたいたちが頼れるのは姐さんだけなんです!』


 目の前でパタパタと飛ぶピヨ助丸から声がする。

 ディアナの泣き声の幻聴を聞くくらいだしこれも幻聴に違いない。うん。


『姐御ー!』

『姐さーん!』

「ピー!」

『……あのドラゴンはもう食べないと言ってましたよ』

『そんなの信じられないっす!』

『いつ気が変わってもおかしくない奴ですよ!』


 それはそうだ。

 信じられる要素が何一つない。


『くあー、ピーちゃんをずっと見守ってて体が凝ったのう。レークシア、わしはもう行くぞ』


 そう言うとこちらの返事も聞かずに爺さん龍が飛んでいった。

 マジで勝手……いや自由だな。

 まあこれならピヨ助丸を連れて行っても大丈夫だろう。


「ピーーヨーー!!」

『母ちゃーん! 達者でなー!』

『あたいたちの心配はいらないからねー!』


 鳥同士の別れを見せられながら家に向かって空を飛ぶ。

 道中聞いたところによると進化して合体したことにより単為生殖が可能になったらしい。

 これで山鳥の血を残せるとみんなして喜んでいたそうだ。

 ちなみにピヨ助はオスでピヨ丸はメスとのことだ。どうでもいい。

 それよりなんで二羽の意識が残ってるんだ。体は一つなのに。


 そんなことを話しているうちに家に到着した。

 玄関の前に降り立ったがドアノブを回す手が止まってしまう。

 やっぱりノックした方がいいのかな。


「──ゼルテスまだ!」

「いやだからすぐに帰って来ますって」

「そう言うの何度目よ!」

「それはこっちのセリフですよ」


 聞いたことのある声がドア越しに響いてくる。

 もしやと思い魔力を探るとやはり知っている人だった。


『姐御、入らないんですか?』


 ──バン


「レークシア様!」


 ドアが開いたかと思うとアリスさんが私の名を呼びながら抱きついてきた。

 いきなり抱きつくのは刺激が強すぎるよ。


「おかえりクシャナー、ってその鳥なに? 山鳥にしては大きいね」


 父が私の頭に乗っている鳥を見ながら声をかけてくる。

 進化したことで他の山鳥よりも一回り大きくなっているのだ。

 だから重いので降りてほしい。


「心配したんですのよ! 魔力の繋がりが切れてレークシア様に何かあったんじゃないかって」

「そうそう、アリス様がクシャナが龍神様だって言うんだけど本当?」

「オギャーーー!!!」

「クシャナちゃーん、助けてー」

『楽しいとこですね姐さん』


 母とディアナまで登場して一層騒がしくなる。

 そんなにいっぺんに話しかけられても対応しきれん。

 あと鳥どけよ。動きづらいんだよ。


「とりあえず離してくださいアリス

「……いまなんとお呼びに?」


 あ、やべ。

 体から離れたアリスさんがパチクリとした瞳でこちらを見つめてくる。

 久しぶりだったので心の中での呼び方が漏れてしまった。


「すみません。失礼でしたね」

「そんなことありません! むしろ呼び捨てで構いませんわ。そっちの方が親密そうですし……」

「オギャー!」


 ディアナの泣き声で最後の言葉は聞き取れなかった。

 まあ本人が呼び捨てでいいと言ってるし今後はさん付けで呼ぼう。

 それよりディアナを泣き止まさねば。


 そう思い疲れた様子の母からディアナを受け取る。

 よーしよし。


「ちょっとゼルテス! 本当にレークシア様に子守をさせているの!?」

「クシャナじゃないと泣き止まないんだよ」

「だからって龍神様にさせることじゃないですわ!」

「またそれー? 本当なのクシャナ?」

「……本当だと思いますか?」


 少し意地悪な質問を返す。

 私が龍神と知ったらこの人たちの対応も変わるのだろうか……。


「うーん、てっきり僕と同じように王家の血が濃いだけだと思ったんだけどなー。昔色々あって森に入り浸ってたからクシャナもそうなのかと思ったよ」

「……」

「いずれにしてもクシャナはクシャナだよ。レティはどう?」

「そうねー、たとえ龍神様でもディアナのことはお願いね。じゃないと私の睡眠時間が……」


 どうやら私が龍神でもお構いなしなようだ。

 答えを聞くのが少し怖かったがしたたかすぎて気が抜ける。


「二人とも失礼ですわ! レークシア様もお嫌なら断っていいんですのよ」


 アリスさんがぷんぷんしてる。

 まあたしかに神に対する態度としてはどうかと思うけど、私は自分を神とは思ってないし。

 でも──


「……そうですね。約束もありますしそろそろ行きましょうか」


 泣き止んだディアナを母に返す。

 このままではまた泣いてしまうから代わりを置いていこう。

 くらえ! 秘技・本当にいなくなるいないいないばあVer.2!


「ピヨ?」


 説明しよう!

 本当にいなくなるいないいないばあVer.2とは、透明魔法で消えたところに身代わりとなる鳥を出現させ、ディアナに私と誤認させる魔法のことだ!


『ちょ姐御ー! あっしらを置いて行くんでやんすか!?』

『あたいたちを守ってくれるんじゃなかったんですかー!?』


 キャラが定まっていないやかましい鳥の声が頭に響く。

 別に守るとは言ってないしいいだろう。

 まあさすがにほっぽり出す訳ではない。


『この人たちは私の……その……大切な人たちです。なのでここは私の庇護下です』

『なるほど、そういうことっすね』

『でしたら何かあったら一番に知らせます姐さん』


 そこまで考えてなかったがなんかちょうどいい連絡役ができた。

 魔力線を繋いでおけば何かあってもすぐに駆けつけることができる。


「クシャナ? そこに居るの?」


 透明になっているのに父がこちらを見ながら声をかけてきた。


「……約束事があるのでこれで失礼します。今までありがとうございました」

「そんな急に……」

「あの鳥は私の代わりです。ディアナは気づいてないようですし大丈夫でしょう。名前はピヨちゃんです」

「ピヨ!?」


 テキトーな名前に見えるが実際にテキトーに名付けた名前だ。

 ディアナはキャッキャしながらモフモフしてるし騙し通せるだろう。

 バレたら焼き鳥にしよう。


「それでは行きましょうかアリスさん」

「え、あ、わかりました──わ!?」


 少し離れた位置に移動し魔力を纏いだす。

 発動する魔法は変化の魔法だ。


「ドラ……ゴン?」

「じゃあ本当に龍神様?」


 魔力の渦が消えた場所に立つのは白銀の鱗をきらめかせる竜形態の私だ。

 アリスさんには悪いが付き合ってもらおう。


『乗ってくださいアリスさん』

「えっ! いいんですの!?」


 拒否られるかと思ったがめっちゃ目をキラキラさせて嬉しそうだ。

 肝据きもすわってんな。絶叫系が好きな子なのかな。


『魔法で固定しますがしっかり掴まっててください』

「はいっ!」


 アリスさんを背中に乗せていつでも飛び立てる態勢になる。

 両親の反応が気になるが、さっきの言葉が嘘なのではないかと思い視線が動かない。

 山鳥たちと違って私は一人だし。


「クシャナー! またおいでねー!」

「美味しいごはん作って待ってるからねー! ほらディアナもお姉ちゃんにバイバイしようね〜」

「だー」


 怖くて視線を向けられなかったが今は気恥ずかしくて向けそうにない。

 けれどそれでいいだろう。

 そのうちまた帰ってくるし──。


 そう思いながら私は家を背にして飛び立った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る