第14話 悪いなら 治してあげよう ユーノさん
「それでは
はい、お勉強が始まりました。
教えてくれるのはアリスさんです。
さっきまで泣きじゃくっていたくせに今はキリッとしている。眼鏡が似合いそうだ。
てっきり先生みたいな人がいるのかと思ったがアリスさんでも十分可能らしく教師役になったらしい。
まあ知らない人よりいいかもしれない。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたしますわ。ではまずは人間語とはなにかご説明しますね」
「はい」
「人間語は私たち人間が使用する言語のことです。そもそも人間とは
エルフにドワーフだと!? 実在したのか!
しかも人間はそれらのハーフって新情報が目白押しだな。
……いや待て、まだ私が想像するエルフとドワーフとは違う可能性がある。
ここは確かめなければ。
「
「外見的には
開かれた本の絵を見る。
まんまエルフにドワーフだわ。
人間の絵も載っていたが確かに二つの血を合わせれば人間が生まれてもおかしくはないのかもしれない。
「彼らはどこに住んでいるのですか?」
「どちらも東の方に国があります。エルフは森に、ドワーフは山に住んでいるそうです」
「東に……」
いつか行ってエルフの森を燃やしたいな。
いや冗談です。
「ドワーフは鍛冶が得意なので様々な工芸品を輸出しておりますの。そのためドワーフ語の話者は探せばそれなりに居ますわ。対してエルフは鎖国状態ですので話者が極端に少ないのです」
「どちらの言語も気になりますね」
「……エルフ語もお知りになりたいですか?」
「そうですね。でも魔法があるのでひとまずは大丈夫ですよ」
そう、私とアリスさんが会話できているのも魔法なのだ。
魔力が宿った言葉を読み取ったり伝えたりする便利魔法です。
「やはりこれは魔法だったのですね……」
アリスさんによるとドワーフ語で話しかけてもそれを知らない者には伝わらなかったので不思議に思っていたそうだ。
「失礼いたします、ハーブティーでございます」
「ありがとうございます」
横でお茶を淹れていたセバスがカップを置く。
せっかく出されたのでとりあえず一口飲もう。
「あ」
ん? なにその声?
お茶を飲んだらいけないの?
……あ、毒見か。
本来ならアリスさんが飲んだあとに客である私が飲むものなのかな。
「毒見なら不要ですよ? 毒入りでも魔法で癒せますし」
「……確かにレークシア様なら大丈夫そうですね。ですが我が家ではお母様が毒で倒れて以来、必ず行なっておりますの」
「お母様? ユーノ様ですか?」
「はい、それが原因で子を宿せない体に……」
おぅ、なんてバイオレンスなんだ貴族って。
怖いし念のため治癒魔法をかけとこう。
……というか私なら治せるじゃん。
「よければ治しましょうか? 治癒魔法をかければ良くなると思いますよ」
「え? 可能なのですか?」
「やってみなければわかりませんが……」
「ぜ、ぜひお願いいたしますわ!」
そんな訳でなんの勉強もしないままユーノさんの部屋に行くことに。
──コンコン
「お母様、アリスです。レークシア様がお見えになっております」
「どうぞお入りになってください」
「失礼いたします」
部屋に入るとユーノさんがベッドで上体を起こしていた。
昨日見た時より顔色が悪くなっている気がする。
「このような格好で申し訳ありません。どうやら風に当たり過ぎたようで……」
「お気になさらず。今回来たのはそのためですから」
「レークシア様が魔法で治してくれるそうですよ!」
アリスさんが嬉しそうに話す。
実の母親が伏せっていたのだから当然か。
「魔法ですか? しかし治癒魔法は教会の者しか扱えないのでは?」
「そうなのですか?」
なにそれ、魔法にそんなことがあるの?
治癒魔法なんて母にもあの子にも使えたし、アリスさん一行の騎士団にも使ったよ?
「治癒魔法は教会……ヒューマノ教の聖職者しか扱えない奇跡として広まっていますの。そのため教会の本山であるヒューマノ神聖教国は人間の国では最大勢力を誇っておりますわ」
「家族同士であれば治癒魔法が効いたという話はありますが未だに解明されていないのです」
「
ふむ、説明はわかったけど私が治癒魔法を使えた理由はわからないね。
まあとりあえずやってみればいいでしょう。
「ひとまず魔法をかけてみますね」
「はい、よろしくお願いいたします」
──癒しを
ユーノさんに魔力を纏わせて魔法を発動する。
体のどこが悪いのかわからないので全身くまなく癒やしてみた。
視覚的にはなにも変化がないからわかりづらいな……次からは光らせてみようかな。
「どうですか?」
「──体が軽いです、さっきまでの吐き気やだるさが嘘みたいです!」
「では治ったのですか!」
「ええ! こんなに体調が良いのは何年ぶりかしら。レークシア様、娘のみならず
そう言ってベッドからするりと降りて跪いてきた。
またそれかいな。まあ長年伏せっていたのだろうし気持ちはわかるけど……。
「治ったようで何よりです。お世話になっている身ですのでこれくらいはお安いご用ですよ」
「そんな、何かお礼をいたします。セバス、旦那様を呼んでちょうだい」
「すでに使いを出しております」
──バーン!
「ユーノ! レークシア様に治していただけるとは誠か!」
「あなた! たったいま治していただきました!」
「なに! では本当に……!?」
パパんとママんが抱き合っている。
アリスさんもハンカチで目を押さえてる。
えらく簡単に治療できちゃったけどいい話だなぁ。
「レークシア様、本当にありがとうございますわ」
「妻も救っていただけるとはなんとお礼を申し上げればよいか……。のちほど謝礼をいたしますのでどうかお受け取りください」
「奥様にも伝えましたがお世話になっているお礼ですので大丈夫ですよ」
「そうは参りません。薬も効かず途方に暮れていたのですから当然のことです。それに先日レークシア様が倒された狼も査定されしだい代金をお渡しいたします」
どうやら私が倒した狼たちを村の人たちが回収してくれたらしい。
手間賃は引かれるそうだが結構な値段になるそうだ。
これといってお金を使うものはないのだが無一文だと寂しいか。
いざという時の為にももらえるものは病気以外もらっておこう。
「わかりました。狼の代金はありがたくいただきます。ただ奥様の件の謝礼はこちらが指定してもよろしいですか?」
「私にできることでしたらなんなりと」
「アリスさんと話していてわかりましたが世界は私が思っているよりも広いようです。ですので様々な事を知りたいのでその手助けをしていただけませんか?」
まさか異世界とはいえエルフやドワーフまでいるとは思ってもみなかった。
それに魔法に関しても私が知らないことがありそうだ。
どちらも魂に繋がりそうだし知っておきたい。
「それは教師や文献などをお求めということでしょうか? レークシア様の頼みとあらばもちろんご用意いたします。よければ学園の推薦状もお書きいたしましょう」
「よろしくお願いします」
「とんでもございません。……しかしレークシア様、治癒魔法はむやみにお使いにならない方がよいでしょう。教会が相手では当家でも庇いきれない可能性がございます」
教会……ヒューマノ教は治癒魔法によって権威を高めており、ここファスティス王国でも無視できない規模になってきているという。
アトラス大森林の近くは薬草を豊富に栽培できるためヒューマノ教の布教を拒んでいたが、教会にしか治せない病気もあり徐々に浸透しているらしい。
「そういえば先程もカストロ司祭が来たそうですね」
「ああ、あの狸め。ユーノに毒を盛ったのは教会の仕業に違いない」
ユーノさんが毒を盛られた時期とカストロ司祭が赴任してきた時期は重なるらしい。
実行犯である使用人はすぐに消えて背後は掴めていないそうだが、その人の家族が重病だったことは承知していたそうだ。
その弱みに教会が付け込み治療と引き換えに毒を盛ったのではないかと……。
実際に病人の家族もろとも居なくなったのでその線で睨んでるとのことだ。
「ご忠告ありがとうございます。気をつけます」
「治癒魔法を受けた騎士団の者たちには緘口令を敷いておりますのでご安心ください」
そこまでしているのか。
教会って怖えな。
どっかのキチガイ龍を崇める思想と対消滅してくれないかな。
「ところでアリスの教えに問題はありませんか? この子もフェブルス家の血が濃いのか昔はおてんばで……」
アリスママんが心配そうに聞いてくる。
問題がわかるほどまだ教わっていないから答えようがない。
「大丈夫だと思いますよ。初めてお会いした時から気遣ってくださってますので」
「まあ、それならよかったです。アリスもそう仰っていただいてよかったわね」
「ふふ、
「あら、ごめんなさい。こんなに元気だと気分もよくなってしまって……」
ユーノさんが恥ずかしそうにする。
それをアリスさんとパパんが嬉しそうな表情で見ている。
家族水入らずって雰囲気だし今日の勉強はやめておこうかな。
「アリス様、急ぎの勉強でもないですし今日はお母様と一緒に過ごされたらどうですか?」
「いえいえそんなお気遣いは大丈夫です!」
「……では私が疲れたので今日は休ませていただきます。ユーノ様もお体は良くなっても体力は戻ってないはずですのでご無理なさらないでください」
そう言って部屋をあとにする。
辺境伯が背後でお礼を言っていたので微笑んでおいた。
……さてどうしよう。
文字もまだわからないから本は読めないしなあ。
街へ繰り出しても同じでなにより疲れそうだしうーん。
「あ」
廊下で悩んでいると声が聞こえた。
声の方向を見るとおもちゃがいた。
「こんにちは、アポロ──」
──ダッ!
アポロン君がダッシュで逃げていった。
はっはっは、どこへ行こうというのかね。
面白そうなので追ってみよう。ニヤぁ。
「ふう……ここまで来れば」
「だーれだ?」
「わっ!?」
背後から抱きついて目隠しする。
私から逃げられると思うなよ。
こっちには魔力感知があるんだ。
「れ、れーくしあさまでしゅ」
「ふふ、せいかーい」
目隠しをやめてあげてそのまま前のめりで顔を覗き込む。
顔赤くしてて草。
抱きついてるからかなあ? 目隠ししたからかなあ? それともおっぱいかな?
「い、いつまで抱きついてるんですか!?」
「うーん、私が満足するまでですかね?」
君で遊び尽くすまでさ。
さあ観念しなさい。
「アリス姉様と勉強する時間ではないのですか?」
「今日はお休みになりました」
「そ、そうですか……」
お、観念したか?
そのまま諦めて少年はお姉さんのおもちゃになるがよい。
「アポロン君は何をしていたのですか?」
「……僕も勉強の時間でしたが集中できないので体を動かそうかと」
「そうですか……なんで集中できないんですかね?」
耳元に口を持っていって囁く。
あ、耳まで赤くなったあ。
「え……あ……」
またフリーズして草。
アポロン君は遊び飽きないなあ。
「じゃあお姉さんと一緒に勉強しましょうか。先生はアポロン君で」
「え……あ……」
「はい行きましょうねー」
そんな訳でいたいけな少年を誘拐した。
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