第4話 ◯◯◯ー◯・◯ー◯◯
──私はなんてものを生み出してしまったのだろう。
──あんなことを試すべきではなかった。
──私は悪魔を生み出してしまったのだ。
──あのあと私はせっかくなら想像の埒外にあるものをイメージしようと思いたった。
そう、私……いや人類には決して理解できない存在……○○○ー○・○ー○○だ。
どうせ失敗するだろうと思いながらも魔力はちゃんと分けてセーフティ措置は施した。
そして魔法を発動させてその存在を生み出してしまったのだ……鼻○神拳の使い手を……!
それから私は○○○ー○・○ー○○と共に世界を巡った。
最初は彼の奇行についていけず大変だったが、今もついていけず大変だ。
彼の奇行の数々を記したいがとても小説として書けるものではない。
しかしそんな彼でも今では大切な存在だ。
そう、私の大切な家族……○○○ー○・○ー○○は私の大切な父親だ……。
なんてことはもちろんない、全部嘘だ。
魔力が回復したのでこれから実験を開始するところだ。
実験のやり方は簡単だ。
スマホを創造してみる。決して○○○ー○・○ー○○なんか創造しない。
前世の日本では一人一台は持っているであろうスマホだが、それがどういう仕組みで動いているのか知っている人は少数だろう。
基盤やバッテリーなどがあってそれらにプログラムを施してなんか動いているというのはわかるがそれだけだ。
そんなあやふやなイメージだけでスマホを創造できるのか。それを試す。
魔力を二つに分けて手に……は持てないからお腹の上に集中させて、可能なかぎりイメージをしっかりして……。
はい、というわけでできあがった品がこちらになります。
うーん、板! どこからどうみても板!
ちょっと光沢はあるがボタンは固定されて押せないしただの板だ。
真ん中を真っ二つに切断したら中は空洞だった。
思わず魔法でバビューンと飛ばしてしまった。
やったね! 遠距離攻撃できるようになったよ!
まあスマホが作れなかったのはいい。わかったこともあるし。
とりあえずは魔法自体は発動するが、自身の知らないこと、想像できないことは再現されない。不完全なイメージのまま再現される。
それとおそらくそうしたものは魔力を多大に消費する。
魔法を発動したとき魔力がすごい勢いで吸われていきあっという間に一つ分の魔力を使い切ったのだ。
多分イメージを補完するために魔力を使っているとかそんな感じだと思う。
視力を得たときや体を元気にしたときもそんな感じだったし。
やはり最大の課題は魔力量か。
魔力を吸いながらぼーっと考える。
実はそれを解決する方法があるかもしれないのだ。
……今も感じる大きな力。
周囲に満ちている魔力ではない。今も吸っているそれは一度に吸収できる量に限りがある。
しかし地中を流れる大河のような力……。
それに接続すればポンプで水を吸うかのごとく魔力を得られる。そんな確証がある。
しかしそんなことをして大丈夫なのだろうか。
この力は胎内で感じた母親の魔力の比じゃない。
エベレストのように感じたあの力もこれを前にすればコップ一杯どころか雀の涙……いや砂粒ほどしかない。
そんな力に接続したらどうなってしまうのか。
下手をしたら魔力が濁流のごとく押し寄せて体が破裂するかもしれない。
そんな怖さがこの力にはある。
……どうする。
いや、答えは決まっている。
この森を生き抜くには赤子の体は圧倒的に不利だ。
移動するのにも魔力を消費するのでは敵に遭遇したらどうなるかわからない。
体を魔法で成長させようにも視力を得る魔法だけで全ての魔力を持っていかれたのだ。今の魔力容量ではとてもじゃないができない。
だが地を巡るこの力を得られれば状況は変わる。
きっとその膨大な力をもとに体も成長させられるはずだ。
覚悟が決まったところで吸収方法を考える。
魔力パイプを接続した途端体がパーン! したら終わりだ。
吸収量、というか供給される量を調節できるような仕組みがほしい。
そうして思いついたイメージは水道の蛇口だ。あるいは散水ホースのノズルか。
だがこれも具体的な知識はない。水圧が関係しているのはわかるがそれがどう作用しているのか……。
うーん、というか一回試してみよう。
なにも自分の体に接続する必要はない。
今は魔力を放出できるのだから、空中に魔力ホースを作りぶっ刺せばいいのだ。
それで魔力が噴出してきたらまた考えればいい。
そう思い魔力ホースを作りだして地面に刺していく。
そして星の魔力と称するべきそれに触れた途端……
魔力の噴水が現れた。
しばし呆然としながらその光景を眺める、というか感じる。
噴水と表現したが改めて考えると温泉とか原油が噴き出しているようだ。
こんなの体に繋いだらダメでしょ……。
もし体内に魔力の器があったら一瞬で壊れそうだ。
やはり調節できるようにしなくては。
とりあえずこの噴水を止めよう。
目に見えないし物理的にはなにも起きていないが水道の蛇口を開きっ放しにしているようで罪悪感がある。
魔力の噴出口を閉じてみる。
いきなり塞いだら魔力ホースが破裂するかと身構えたがそんなこともなかった。
噴水は収まりホースくんも健在だ。
これなら蓋の開け閉めだけでいける?
塞いだ出口を開いてみる。
魔力汁がブシャーした。ブシャーどころかドバシャー! って勢いだ。
噴出口を小さくもしたけど水圧カッターみたいな怖さになっただけだった。
……やっぱりちゃんと考えよう。
蛇口、ノズル、トイレ、あーさっぱりわからない。
こういうときは発想を変えるに限る。
目的は魔法を発動させるのに必要な魔力を得ることだ。なにも体に魔力を溜める必要はない。
空中に浮かべたまま魔法を発動させる?
いや、噴出している魔力は私の魔力ではない。別物だ。
試しに魔法を発動させたが私の魔力しか使われなかった。
実は魔力を吸う方法はわかるのだが、それがどのように自分の魔力に変質しているかはわからないのだ。
体に取り込んだ途端、すぐに自身のものへと置き換わるのである。
……なら体にホースを通して過剰分は排出されるようにする?
そうだ、私の体を最終地点にするから破裂するかもと恐れるのだ。
あくまで経由地とすれば大丈夫なのではないか?
塞いであった噴出口を開いてみる。
そしてその噴出口も地中へと伸ばし大河へと繋いでみた。
……魔力ホースの中を流れている。
これならいけそうだ。
もし魔力の変換が間に合わないにしてもそのまま押し流されていくはずだ。過剰分も同様に。
……とはいえ怖いものは怖い。
仮説どころかただの希望的観測に過ぎないのだ。失敗する可能性だって高い。
他の生物で実験したいな。
そう思っていると私がいる木に鳥が一羽やってきた。
チャーンスとサイコキネシスで鳥を捕まえる。
ピーピーうるさかったが口元も魔法で押さえたら静かになった。というかさせた。
すまない、君は大いなる叡智の犠牲になるのだ。
マッドサイエンティストみたいなセリフを吐きつつ魔力ホースを鳥の体に重ね……うん重ね……重なんない。
え? なんで?
魔力ホースをビッタンビッタン鳥に当てたがダメだ。
締め上げてもみたけど普通に生きている。
……そういえば魔力同士は干渉しないのではと考えたことがあるな。
あれはたしか我が母の胎内にいる頃か。
魔力を放出しようとしてできなくて、母の魔力が満ちているためにできないのではと考えたのだ。
でも今こうして魔力は放出できている。周囲に魔力が満ちているのにだ。
だから魔力同士が不干渉というのはやはり間違いのはず。
……待てよ。単純に他者の体内には魔力を放出できないということか?
うん、そう考えた方がしっくりくる。
だって他者の体内に魔力を送れたらそこから魔法パーンできちゃうもんね。
そうならないよう他者の肉体には干渉できない法則とかありそうだ。
思考を飛ばしつつ新しい魔力ホースを作り私と鳥を繋げる、というかくっつける。
あ、吸えるんだ。じゃあ送れはするのかな?
……送れてないね、漏れてる。
魔力吸収はできたが供給はできなかった。先っぽから漏れたり流れが停止したりした。
新しい発見に感謝だがお前はもう用済みだ。
最後に魔力噴水を味わえ!
星と繋げたホースを鳥の体に押し当て噴出口を開いた。
……目の前で魔力が暴発しただけで鳥は健在だった。
鳥を逃して改めてどうするか考える。
おそらく一瞬繋いだだけでも膨大な魔力が流れ込んでくる。
そのためホースを塞いだり吸収するのをやめて体表で止めるという判断も間に合いそうにない。
魔法を発動させながらといっても上手く操作できるかわからない。
やるかやらないかの二択だ。覚悟を決めよう。
このままここにいても生き延びられる自信はない。
なぜなら今こうしている間にも聞こえてくるのだ。
獰猛な獣、いや魔物の声が。
幻聴ではない、遠くからではあるが確実に聞こえる。
それに周囲の魔力を感じてみると大きな力を持った存在を感じるのだ。
この森を生き抜くには魔力がいる。それも圧倒的な。
そしてそれを叶える手段が私にはある。
やるしかない……。
最後の覚悟を決め、星の力が流れるホースを体に近づける。
……お願い、成功して。
そう願いながら、私は星の魔力に触れた。
────繋がった、私と星が。
その感覚とともに莫大な魔力が一瞬で流れてくる。
体を強張らせ魔力を遮断しようかと思ったが人間の思考速度で判断したところで遅い。
そう考え、ただただ星の魔力を享受した。
そうしていること一分か一時間か、あるいは一瞬か。
時間の感覚もわからないほどの魔力を感じていると意識がはっきりとしてきた。
──私は神だ。今ならなんだってできる。
隠れていた木からゆっくりと魔法で降り、溢れる魔力を胸に全能感に酔う。
ハハ、さてさてなにをしよう。おっと、まずは体を成長させねば。
自身の冷静な部分が囁き必要なことを実行する。
想像するのは15歳ほどの年齢でいいだろう。必要ならいくらでも変えられる。
時計の針を進めるように魔法を発動させる。
その光景を見る者がいたらさぞ奇怪に思ったであろう。
宙に浮いた赤ん坊の周りをあまりにも濃密な魔力が取り巻き、本来見えないはずのそれが渦を巻いているように見えるのだ。
そうして徐々に渦が消えていき、残ったのは灰色がかった銀色の髪を地面にまで垂らす、大人になりかかった少女だった。
少女は音もなく地面に降り立つとゆっくりと目を開ける。髪と同じように灰色がかっている、澄んだ青色の瞳だ。
その瞳がついている顔も恐ろしく整っている。
それもそのはずだ。人間の顔は左右対称なほど美人に見られやすい。しかし完全な左右対称な人間などいないのだ。
それを魔法で完全なるシンメトリーにし、人形と称した方がいい顔立ちに調整したのだ。
少女は自身の手を見、握っては開いてを繰り返し笑みを浮かべる。
「私は神。なんでもできる」
ふふ、最高の気分だ。
やはり今ならなんだってできる。私は神に等しい存在になったのだ。
悦に入りながらなにをするか考える。
そうだ、前の私には創造できなかったスマホを作ってみよう。
これをもってして私の力を証明するんだ。
そう意気込んで前世で愛用していたスマホを思い浮かべる。
えーと、スマホは液晶とかの画面があって、マイクとスピーカーにいくつかのボタン、あと両面にカメラもあるね。
それでそれらがなんかよくわからん基盤にプログラムされた通りに動くんだよね。
あれ、そういえばコンピューターって0と1だけで動いてるんだっけ。
たしか2進数で全てを現してるんだよね? え、どうやって?
そんなのでプログラミングとかどうやってるの?
……なにもわからない。スマホ、ワカラナイ。
あぁ、私は神なんかじゃない……。
スマホひとつ作り出せないなんてそんなのただの人間だ。
いや、人類はスマホを作り出したのだ。私は人間以下のただの死にたがりだ……。
森の中で膝と手を地面につきうなだれた。全裸で。
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