第7話 ともあれ、竹を割っては、いた。

 その時、幼馴染の咲花エミカの声が耳に入る。

 

「これなら心春きよはるに演武の締めを、安心して任せられるね。私だって、こんな竹斬りのなかなかできないよ」と、咲花エミカ。こんな時には文字通りに花咲く笑みを浮かせて魅せるだ。


 心春きよはる」つられ笑いをした。だだし、彼のいつものはにかみ笑いだったことだろう。夢の中の幻想が始まり対人恐怖となっていった頃から、心春きよはるの笑いは、どこか苦笑じみた、はにかんだ笑いとなっていた。


えいやん、えぇやん、えぇやん。スパーっと竹が割れて。気持ちいいって感じ」


 心春きよはるえいやん呼びするのは、演芸会に出るわけではないけれども、千田ちだ道場まで付いてきた友樹トモキ。中一の終り頃から、何かにかこつけては心春きよはるにしょっちゅう付きまとってくる奴だ。「えいやんのもち肌、なでたらきも~ち良さそう」みたいなことを言っては挙動不信な動きをするトモキだけれど、実際に触ってきたりはしないので、彼は(何とか)一緒にいられる。

 まぁ、奴は心春きよはる女欲しい病なので、彼の身体に本心からの興味はないのだけれども、たぶん。


心春きよはるは居合のカリキュラムは未履修だから技のことは全く分からないんだけど、二刀の剣筋と竹筒の落下の仕方が、簡単には計算付かないように思われて興味深かったよ」


 いつでもこんなハカセ君的な語りをするのは、特別奨学生仲間の博士ひろし心春きよはるは、心春きよはるの対人恐怖症の唯一の相談相手だ。どんな時でも科学的な観点からのアドバイスをしてくれるので助かっている。


 圧縮学習コンプレッシングに全力で取り組みつつ、日常会話でも難しいことを言い続ける博士ひろし。急に発熱して倒れたりしないかと、心春きよはるはちょっと心配だ。

 

「計算できないところが、アートな感じなのよね」


 おっとりとした声で続けたのは、美里夢ミリム。 ふだんからゆっくりさんな心春きよはる女は、圧縮学習コンプレッシングのスピードも高くはないらしい。ただし、将来はできれば絵描きになりたいというお嬢様。所詮しょせんはお忙し業務であるサイナーなど志望してはいない。

 美里夢ミリムと、後ろでニコニコしているうたとアクリーナの3人は、高等部では叡智えいち学部に進む。心春きよはるの選択肢はサイナーしかないため、叡智えいち学部のことは通り一遍の知識しかない。


 なんにせよ、これからの社会を担う叡智を学ぶ、というキャッチフレーズの叡智えいち学部に進む3人が、苦学とは無縁なお嬢様たちであることなのに、違いはないけれども、ありがとう。僕は心の中でお礼をした。

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ワンウェイ✧エコノミカ ~ 僕ッ娘エルフとホムンクルス・アマゾネスが特別奨学生の務めで経済小噺アバターとなるまでのアレコレ 十夜永ソフィア零 @e-a-st

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