第1話 演舞会がために、竹筒を四つに斬る。

 千田ちだチルダン師匠が立ててくれた一本の竹筒の前に、心春きよはるは立ち膝となった。


 心春きよはるの腰には、左右それぞれの二刀。

 身長も体重も中3男子の平均以下の心春きよはるだったが、修めた居合の型は、両の手の握力が求められる二刀の玄虎流である。軽量な強化セラミック刀をチルダン師匠が用意してくださったおかげで可能となった二刀の構えだ。


 斜め左前には、中等部のクラスメイトたち。ひとりニヤけ顔なのは、心春きよはるの幼馴染の咲花エミカ


 目を瞑ると、雑念を振り払らわれ、、右手が刀に触れた刹那に始まる居合の所作しょさが、心春きよはる脳裡のうりに浮かぶ。


 軽く息を吸った後、心春きよはるの身体は、脳裡のうりに浮かんだ通りの所作しょさで二刀を操り、右左右の3つの斬りを入れる。

 心春きよはるが残心を決め、二刀のそれぞれを鞘に納める間に、竹筒は4つに割れた。


「「おおっ」」 クラスメイトたちががどよめく。


「エイタ君、極めましたようダネ。」

 親称と敬語とを織り交ぜ、チルダン師匠が褒めてくださった。


 ✧ ✧ ✧

 

 目の前に転がる3つの竹筒を拾い上げつつ、今の二刀三斬の所作しょさをリピートする。


 この半年ほど、心春きよはるは玄虎流のいくつもの所作しょさを順に圧縮学習コンプレッシングし、脳裡のうりに埋め込んできた。

 埋め込まれた所作しょさを、心春きよはるの脳は、無意識裡にリピートし、身体動作として定着させていった。所作しょさ圧縮学習コンプレッシングは、人体の生理現象を活用した運動学習法として確立されたものである。玄虎流の奥義とされてきた二刀三斬であっても習得は当然に可能だ。


 けれども、実際に心春きよはるの足首よりも太い竹筒を二刀で四断できた今、心春きよはるは悦びを覚えていた。感情のたかぶりとは余り縁がなくなっている近頃の心春きよはるには、新鮮な悦びだった。


 一度は悦びと共に味わった所作しょさで、心春きよはるは本番でも竹筒をキレイに斬れることだろう。

 

 本番とは、来週末の中等部修了式での演舞会のこと。

 今日、ここ千田ちだ道場に集まっている中等部3年2組のクラスメイトたちは一人を除い、皆、演舞会で出し物をすることになっている。中学生生活も終わりという時に、彼らはなぜにわざわざそんな学芸会のようなことをするのか?


 それは、学院の特別奨学生である、心春きよはる博士ヒロシには、演舞会において中等部での学習成果を発表するという義務が課せられているがため。


 私立彩の国サイナー英知学院。


 心春きよはるたちか通う、中高一貫の当学院は、学費がかなりお高い。いまだ世帯間所得格差が大きい今の日本では、サイナー学院の学費を支払える家庭は限られる。ここにいる七名の学院生のうち、五名のご家庭にとって学費は問題にならないのだが、共に母子家庭である心春きよはる博士ヒロシの家ではとても払うことができない。


 心春きよはるの家に至っては、母が臨時収入頼みの自由業で貯蓄ほぼゼロなので、心春きよはるがきちんと稼がないと月々の生活が危うくなってしまいがちなのだ。

 

 そんな2人のために、クラスメートたちも演舞会の出し物に協力してくれていた。

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