第2話 【ぼくの夢……】

 なかなかに厳しい経済状況にある心春きよはるが、なぜに猛勉強の末に特別奨学生向けの難関な試験を突破し、その後は演舞会などなど謎な奨学義務まで課せられて、おぼっちゃま、お嬢様だらけの学院に通うのか。


 それは心春きよはるが持つ夢を実現するため、である。

 

【僕の夢。それは、月々の安定収入があって、人前で不必要に目立たなくても良く、そして、休みの日にはバーチャルででも良いから、いろんな世界をのんびり楽しむことができる、そんな仕事に就くこと。しかも、高校を卒業すると同時に】


 心春きよはるにとって、大学に進むということは苦学生活が4年間伸びるだけなのだ。

 

 公務員?

 高卒資格の公務職は狭き門である上に、基本的に準公務員契約。月々の給料が安めなのはさておいて、準公務員では市民の皆さんの窓口業務に就くことは避けられない。

 近頃の窓口業務は、基本的にAIロボットがこなす。

 ただし、あえてAIマニュアル化するほどでもない、特殊な苦情や謎のトラブルが窓口業務では起こりがちだ。そうした個別のトラブル対応の担い手が、窓口業務にあたる準公務員さん。小柄色白な心春きよはるがそんな窓口業務に就くということは、粘着的なクレーマーさんたちに目をつけられ続ける彼の未来を意味する。


 他方、一般企業でも高卒向けの求人の多くは営業職。

 直接に顔を合わせるわけではないにしても、ビデオ・ミーティングでの営業トークは、人前で話すことが苦手な心春きよはるにはとてもハードルが高い。

 


 しかして、学院のサイナー学部の卒業生は、書類作成が中心の仕事に就くことができる。

 

 サイナー学部を卒業するここで、日本の高校卒業資格に加え、信認署名人トラステッド・サイナーという国際資格を取ることができるためである。本資格は、2090年代に入り国民総投資が義務付けられてから、本運用が始まったばかり。資格者が社会で活躍を初めてからまだ数年であるため、社会的な認知度はまだまだ低い。


 国民総投資の制度下では、16歳で仮成人した全市民には、基礎収入としてSI《エスアイ》ポイントが毎月交付されていく。このポイント制度を運用する裏方を担うのが信認署名人トラステッド・サイナー職だというあたりが、この触手を理解すすすきっかけとなる。

 

 この新資格を取得し、日々の書類作成をするお仕事に就くことこそが、心春きよはるの夢。

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