抱き枕

同棲二年目の彼は、いつもわたしに抱きついて寝る。


「ねぇ、暑くて鬱陶しいんだけど」


「かわいいのがいけないんだよ。かわいくなくなったら離れてあげる」


そんなことを言われたって、わたしは「美人」や「かわいい」とはお世辞でも滅多に言われないような人なのに。どこをどうしろと。


とりあえず彼は何かに抱きついて寝る癖があるようなので、ネットで抱き枕を買ってみる。


「じゃーん。ネットで買いました〜。今夜からこれ抱いて寝なよ」


「あぁ…そんなんじゃ無理。かわいくない」


「…あっそ。じゃあわたし今夜はソファで寝る。もう暑くて寝てらんないのよ」


「そんなかわいくないことを…」


おっ。それじゃあ、

「もうわたし抱きしめて寝ない? かわいくないもんね」


「…を、言っちゃうとこもかわいいから、一緒に寝よ。あんまり暑くしないように頑張る」


「なにそれ」



それから、彼に買った抱き枕はわたしが抱きしめて寝ている。

ちょっと気持ちいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る