一分後

手首に視線を落とす。デジタル文字で示される、「20:04」——午後八時四分。

計画的に動きたがる俺なら、時間を指定しておけば勢いでいけるかと思ったのだが、この一大事となるとそうもいかないらしい。


「…あ、あの…っ」


目の前で輝く二つの瞳。


「なあに?」


甘ったれた声がかえって俺を緊張させる。

のほほんとしやがって、コイツ。



あと一分経ったら言おう、そう思っていたらいつの間にか四分(正確にいうともっと長く)も経っていた。


「ね、どうしたの?」


これを逃せば次はいつだろう。

もう、いいかな。自分の何かが吹っ切れる感覚があった。



「あのさっ!」



俺はできるだけ大きい声を絞り出す。目の前の瞳が、驚きで揺れたって構わない。


俺はただ、一分後の別世界を願っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る