第55話 しちゃえば?

 小寺は俺の脚に抱きついて、顔を上げずにうずくまっている。多分寝てる。


 しかし、恭平のまぶたは開いていた。


 真っ赤な顔をしてるくせに意識はしっかりとしているようで、日本酒を煽るようにちびちびと缶チューハイに口を付けている。


 俺は彼に向けて自分の腹の底に溜まっていることを、酔った頭でまとめながら淡々と話し続けた。


 小寺との間に何があったか。それを説明するために、そして相談に乗ってもらうために、過去から順に追っていく。


 以前の飲み会でした綿岡にフラれた過去の話に加え、再開してまた彼女を好きになった話。


 彼女のことを嫌っていた、憎んでいた過去の話。


 自身のプライドもあり気持ちを整理するのに時間がかかっていたら、小寺に正論を言われて八つ当たりした話。


 ついでに、覚悟を決めたら綿岡が元カレと会っていた話。


 起こった事実を語るのに感情を一切載せなかった。


 恭平は相槌すら打たずに黙って俺の話を聞いたのち、感想を呟いた。


「なんていうか、あれだな。めんどくさいこと考えて生きてんな」


「俺もそう思うよ」


「とにかく、小寺が凹んでた理由がわかってよかった。こいつは良介の地雷を踏んだわけだ」


 恭平が小寺を見下ろしたので、釣られて俺も視線を向ける。


 小寺からの反応はない。いびきも無い。死んでない? 大丈夫か?


 足を揺らしてみたが、反応はなかった。……まあ、いいや。


「しかし、それならあれか。良介、俺たちが彼女の話をしてるとき興味なさそうな顔してたけど、あれ嫉妬してたんだな」


 図星だけど、こんなことを言われていつもなら素直に頷くわけがないのだが、アルコールが回って「そうだよ」とすんなり肯定していた。


「それは悪いことしたな。言ってくれりゃ良かったのに」


「言えるか馬鹿」


 それを口にするのは屈辱的すぎるだろ。


 理解できないのが、恵まれているサイドの人間って感じがする。


「で、どうするんだ?」


「どうするって何が?」


「告白だよ、優菜ちゃんと付き合いたいんだろ?」


 やっと正しく名前を呼んだ恭平。


 素直に頷く。


「それなら行動に移さねえとな。すぐするのか?」


「あぁ、小寺に言われた通りだと思うしな。元カレと会っているところを見た以上、早急に動く必要があるし、仮に何もなかったとして、うかうかしてられない」


「可愛いもんな、あの子。胸、あんまなかったけど」


「関係ない……てか、それが良いんだろ」


 わからんわと首を傾げる恭平。ちなみに相田はでかい。


 閑話休題。


 性癖の話なんて今はどうでもいい。


「問題は、今告白したとして唐突過ぎることなんだよな」


「……どういうことだ?」


「俺と綿岡はさ、情けない話、男女を意識するような機会がほとんどなかったんだよ。俺が起こさなかったから。仲の良い友達であることは間違いないけど」


 俺と彼女は仲良くなったきっかけがゲームだったこともあって、性別が関係ない付き合いをしていた。


 だからこそ、俺たちの関係は心地よかったというのはあるが、付き合いたいと考えるなら、ある程度種をまいておく必要があった。


 それをほとんどしていない。


 強いていうなら、壁ドンとペアルックくらいか。どちらも事故だが。


「あれだな、お人好しな男ってやつか。○○くん優しいよねーって言われるガチで優しいだけの無害なやつ。で、他の男に盗られる」


「ピンポイントで心に来るから、それ以上言うのはやめろ」


 自分でも何となく察していたが、いざ他人から触れられると心にクる。


 こういう男はただ度胸が無いだけのパターンが多いです。やめてください。死んでしまいます。


 テーブルに置いてあった缶チューハイを開けて飲んだ。ぬるい。


「そこで、お前らに相談したいんだよ。……小寺は寝てるけど。どうやったら成功すると思う? 今の状態で告白しても困惑されるだけのような気がする」


 本当に意気地のないのは理解しているが、実際そうだろう。


 俺なんかよりも女心を理解してる二人に、知恵を借りたかった。


「さあ、俺は優菜ちゃんのこと全然知らないからなぁ、なんとも。異性を意識する瞬間ってのは、人によって違うから」


「それは……そうだよなぁ」


「行動に移せとは言ったが、別にいきなり告白する必要はないとも思うぞ? 元カレと再会してよりを戻すことになるとしても、そんないきなりはないだろうし、それに異性として意識させる方法はいくらでもある」


「例えば?」


「家隣に住んでるんだろ?」


「あぁ」


「お互いの家に行くことはあるのか?」


「うちにはたまに来るかな」


「それならいいじゃん、セックスしちゃえば?」

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