第41話 コラボカフェ

「お待たせしました。野菜もりもりカツサンドプレートと、鬼野菜盛りカレーになります」


 しばらく雑談にふけっていると、注文の品が運ばれてきた。


 テーブルの上に置かれる料理に感心して「おぉ」と声を上げる。


「クオリティ高いな、そのまんまじゃん」


 言い方は悪いが、コラボカフェの料理ってもっと粗悪な品かと思っていた。料理に関する良い評判を見聞きしたことが無かったから。


 だが、本業の喫茶店とコラボしているだけあって、提供された料理は見た目のクオリティがかなり高かった。


 カツとパンの間に挟まれた大量のレタスにカラフルなソース、ニンジンにキュウリ、その他よくわからない野菜のスティックが多数。


 抹茶をぶっかけたような濃い緑のルー。具がごろごろとした野菜カレー。拍手を送りたい完成度だ。


 ちなみに、カツサンドプレートが二一八〇円、鬼野菜盛りカレーが一八八〇円。値段が張る。その分、量もあるが良心的な価格とは言えなかった。


 まあ、コラボカフェで食べる料理は雰囲気を楽しむものである。内装などの手間賃も込みで多少割高なのは仕方がない。


 はしゃぐ俺と綿岡にマスクを付けた店員さんが微笑んでいた。


 コラボ対象のメニューを二品注文したことにより、二人分のゲーム内アイテム引き換えコードが配られる。限定のコスチュームだ。


 やったぜ、これが欲しくて来たまである。


 二人してまた写真撮影会となり、それを終えると食事に口を付けた。


「お昼抜いてきて良かったよ、食べてきてたら絶対こんなに食べきれない」


「だな」


 俺は食パン一枚だけ口にしてきたが、それだけだとほぼ抜いたのと同じだ。腹は減っているので手を止めることなく食べ進めた。


 味に関してはどちらも悪くない。普通に美味い。


 絶賛するほどではないけど、場の雰囲気とゲームのキャラと同じ料理を食べている喜びで、非常に楽しめた。


「ご馳走様」


「これでしばらくの間、経験値とお金が二倍だね」


「そうだな」


 綿岡の小ボケに笑って同意する。


「この後、どうする?」


 こてんと首を傾げてそう訊ねられたので、率直に「帰ってゲームしたいかな」と言った。


「限定コスチュームを手に入れたし、BGMを聞いてたらランクに潜りたくなってきた」


「わかる、やりたくなっちゃうよね。帰って一緒にやろうよ、せっかくバフも付いてるんだから」


 彼女の誘いに微笑んで首肯した。それはやるしかないな。


 伝票を持って席を立ち、会計に向かう。


 男女で飯を食べたとき、男側が奢るor割り勘論争があるが、どちらが正しいかは置いておいて、俺は綿岡に一度もこういった場で奢ったことはなかった。


 自分より稼いでいる社会人相手に奢っても、背伸びが過ぎるよなというのが俺の見解だ。


 それに友達だしな。あくまで。


 しっかり割り勘して、外に出る。


「駅ってどっちだっけ」


「えっと確か……」


 帰りの方向を指さそうとすると、背後から声が聞こえた。


「ねえ、隼人くん。あれ」


「どうしたの?」


 振り返ると、見覚えのある男女がいた。


「お、硲──」


 視線の先にいたのは、小寺と琴美さんの二人だった。


 振り返った俺と目が合い、小寺はこちらに手を振ってきたが、隣の綿岡の存在に気づき、一度その動きを止める。


 彼の口角が露骨に上がったのがわかった。


「硲~」


 こちらに近寄ってくる二人。綿岡と二人でいるところを見られても、後ろめたいことは何もないのだが、彼のニヤついた表情を見ると、近づいてこないで欲しかった。


「奇遇だね、キミもコラボカフェに来てたの?」


「あぁ、小寺もか?」


「ぼくたちはこれからかな。今はそれの待ち時間」


 ばったり出会ってしまったからには、話さないわけにはいかないだろう。琴美さんに軽く会釈をし、きょとんとしてる綿岡に説明する。


「大学の友人の小寺と、その彼女の琴美さん」


「はじめましてー」


「どうも」


 綿岡は二人の挨拶に優しい笑みを作って「はじめまして、綿岡優菜です」と自己紹介していた。


 小寺は知っているだろうが、琴美さんは知らないので、彼女についても紹介しておいた。


「彼女は俺の高校の同級生で隣人かな」


「知ってます、隼人くんから聞きました」


 言ったのかよ。小寺は機嫌が良さそうだった。


「いやー、硲。コラボカフェに来てくれたんだね。教えたかいがあったよ」


「ちょっと」


 小寺の腕を引っ張り小声で耳打ちする。


「そういうわけじゃねーんだよ、ここには彼女に誘われてきた」


「彼女? 付き合ったの?」


「ちげーよ! 代名詞の方だ」


「なんだ、残念。普通名詞であって欲しかったよ」


 落胆したように肩を落とした小寺。一転して表情を明るくし、綿岡の方へと向き直る。


「噂はかねがね聞かせてもらってるよ。いつも、硲と仲良くしてくれてありがとうね」


「お前はどんな立場なんだよ」


 そのやり取りがウケたのか、綿岡は笑っていた。


「いえいえ、こちらこそ仲良くさせてもらってます。硲くん、わたしの話、友達にしてるんだ?」


「……少しな」


「お二人、ペアルックで可愛いですね、お付き合いされているんですか?」


 琴美さんの方から槍が飛んできた。

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