第25話 マルチ商法をやめさせたい

「なるほど、そのパターンか」


「あれ、硲くん驚かないね」


「何人か見たことがあるから」


 中学の頃の知り合いにハマってしまった奴がいる。SNSでやたらと夢や希望、仲間をアピールし、キラキラ感満載の投稿をしている。


 地元ではそいつから勧誘された奴がわんさかいて、皆から距離を取られていた。普通の子なのにな。仲間をアピールして仲間を減らす。少し可哀そうだ。


 それに、この前マッチングアプリでも見たな。


 確かひなちゃん。……ん? ひな? まさかな。


「彼女とやり取りをしているうちに、今仕事なにしてるのって話になったの。わたしが答えると、彼女は大学に行きながら副業してるって言いだして」


 怪しくなってきた。


「雛ちゃんが言うには、スマホゲームの広告のバイトらしいの。スマホ一つでできて月数十万も稼げるって」


 もろだった。てか、俺がマッチングアプリで出会ったひなちゃんはもしかしたら彼女だったかもしれない。言っていることが一緒だ。


 綿岡がスマホを操作し、SNSの朝霞のアカウントページを開いて見せてくれた。


「うっわ」


「ね? やばいでしょ」


 彼女も俺の中学時代の知り合いと似たような投稿をしていた。


 美味しそうな料理、パーティ会場。ブランド物のバッグ。過度な装飾のついた文字で『皆も副業しよう!』と宣伝。


「綿岡は多分って言ったけど、これは確実にハマってる」


「だよね、どうしよう……」


 ため息を吐く彼女。


「今まで気づかなかったのか? 見たところSNSには少し前から投稿していたみたいだけど」


「キラキラした地元の友達たちを見るのがちょっと苦しかった時期があってね、SNSから遠ざかってたんだ」


「あぁ、病んでたって言ってたもんな」


 彼女みたいな顔の良い恵まれた女の子が、陰キャっぽいことをしているのが少し面白い。


「で、俺に相談したのは、朝霞にマルチを辞めさせたいってことか?」


「そう。どうすればいいかな」


「そうだな、正直難しいような気もするけど」


「……なんで?」


「マルチ商法ってやめにくいって言うじゃん。なにかしらの商品を売る系のやつだったら、自分も先行投資で高い金を払わされてるパターンが多いだろうし、マルチにハマった人間たちの間で仲間意識もあるはずだから、引き下がりにくい状況にいると思う。だからかな」


「詳しいね?」


「動画サイトでこの手の動画を観漁った時期があった」


 自分の知らない社会が覗けて面白いんだよな、アングラ系の動画。


 俺の反応に、綿岡は納得いかない様子だった。


 実際、マルチの会員って色んな要素が絡まり合って一種の洗脳を受けている状態に近いはず。それを解くのは並大抵のことじゃない。


「難しくても、このまま放っておくのは可哀そうだよね。友達だし、やっぱり助けてあげたい」


「まあな」


 知り合いがマルチにハマった場合、周りの反応は大体三通り。


 一つは距離を取る。関わりたくないからな。


 二つ目は冷やかす。馬鹿にする。気持ちはわかる。


 最後は、助ける努力をする。助けられるかどうかは別として、一度はやめておけと言ったり、行動する。綿岡は後者のようだ。


「実はね、明日雛ちゃんとご飯行こうって話になったの」


「お、おお……」


 その行動が早くてびっくりした。それほどまでに朝霞のことを助けてやりたいのか。


 俺の知る限りだが、過去、綿岡と朝霞はかなり仲が良かった記憶がある。


 今はどうか知らないが、そう考えるのは必然か。


「そこでね、硲くんに一緒についてきてほしくて」


「……俺?」


「うん、だって色々調べてたらね、マルチ商法にハマった友達を救おうと会いに行ったら、他のマルチ会員もその場にいたとかいう記事が出てきてさ。ちょっと怖くて」


 それは知っている。歴の浅いマルチ会員は上手く相手を言いくるめられないから、歴の長い先輩を連れてくる。よくある手法らしい。動画サイトで観た。


 確かに、綿岡を一人で行かせるのは危ないな。


「なるほどな、全然いいけど」


「いいの? 良かったぁ、ありがと。助かるよ」


 朝霞を救いたいという気持ちよりかは、好奇心と綿岡を守らなければという気持ちが強かった。


 そりゃそうだ。朝霞とは正直ほとんど関わりが無かったから。


 しかし彼女、マルチ商法にハマったか。SNSで背伸びをするようなタイプでも無かったはずだが、人は変わるものだな。








        #








 翌日の昼、俺は綿岡と共に三駅隣の繁華街にやってきた。


 俺たちが住んでいる場所で誰かと遊ぶとなったらここを選択することが多い。


 飯も食えれば、飲みもできる。アミューズメント施設だって豊富にあるし、SNSに映えるようなスポットもそこそこある。


 ただ、朝霞がここまで来てくれるとは思わなかった。


「雛ちゃん、わたしたちの家からは少し離れてるけど同じ県に住んでるんだよ」


 どうやら一時間ほどで来れる距離の場所で一人暮らしをしているらしい。


「なるほどね」


 綿岡は朝霞とご飯を食べるという名目でその時に副業のことも教えて欲しいと言ったようだ。


 もしかしたら綿岡が懸念していたように、朝霞が誰か別の人間を連れてくることも考えられる。だとしたら、綿岡が危ないかもしれない。


「気を引き締めていかないとな」


「そうだね」


 顔を強張こわばらせている綿岡に、それは気張りすぎだろと茶化す。


「だ、だって」


「怖いならメッセージや電話越しで説得するって方法もあるだろうに」


 

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