第20話 照らし出されるぬいぐるみ

 微睡まどろみから覚めると、カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。


 枕元で充電していたスマホをごそごそと探して手に取る。


 ……あった。時刻を見ると、午前八時。二時間くらい前に一度目を覚ましてまた寝ちゃったけど、想定していた時刻よりも早かった。


 身体を起こしてぐぐぐと伸びをする。


「ふぁ……っ」


 あくびが漏れる。今日は日曜日。仕事に行く必要はないし、予定もないから惰眠に耽ることもできる。もちろん起きて好きなことをすることだってできる。


 幸せな日曜日だ。


 視線をテレビの方へと向ける。そのテレビの前に置かれた買ったばかりの据え置き型の真新しいゲーム機。


 昨日は久しぶりに夜遅くまでゲームをした。最近は仕事の関係もあって、日付が変わる前には必ず寝ていたけど、昨夜は日を跨いでしまった。


 熱中してしまった。隣の部屋に住む硲くんと、壁越しに電話しながら延々とやっていた。


 昨日一日で八時間くらいやったんじゃないかな? 今日の睡眠時間よりも長い。


 こんなに長くゲームをしたのは、ランドドラグーンにハマっていた全盛期以来だ。


 面白いな、パピロン3。テーブルの上に置いていたソフトのケースのパッケージを眺める。  


 ゲームの内容はTVのCMで観た程度だったから、楽しめるか不安だったけど、やってみたらシンプルながら奥深いゲーム性に時間を忘れてのめり込んでしまった。


 ゲーム専門機だから当たり前かもしれないけど、作りがいい。


 ゲームのことはそこまで詳しくない自分でもわかるくらいグラフィックも綺麗だし、動作がぬるぬるだった。


 硲くんが熱中するのも頷ける。


 壁の方を見やると、目を閉じて耳を澄ませてみた。


 ……物音はしない。まだ寝てるよね。


 昨日の夜、明日もしようと約束して通話を切った。早くまた一緒にやりたいな。


 彼はパピロン2をプレイしていたこともあって、かなり上手だった。ゲームのやり方やコツなんかを教えてもらいながらやっていたのだけど、昔を思い出して楽しかった。


 ランドドラグーンをやっていた時も、彼の方が上手かったから色々と教えてもらっていたっけ。


 ゲームは一人でも十分に楽しめるが、友達とやるとより楽しい。というのは高校時代、彼とのプレイを経て知った。


 彼──硲良介くんとのことは、ずっと心残りに思っていた。


 というのも、わたしに彼氏ができて以降、ゲームどころかろくにやり取りすらしなくなってしまったから。


 露骨に避けられているのがわかったし、進級してクラスが変わってからは、廊下ですれ違っても眼すら合わせてくれなくなった。


 友達だと思っていたから、ショックだった。けど、自業自得だと思った。


 自分勝手にもう二人でゲームできないって言っちゃったから、彼は怒っているのだろうと感じていた。


 最初に誘ったのもわたしだから。後から振り返って身勝手だったなと自戒した。


 いつか、謝ろう。そう考えていたら気づいた時には卒業していた。


 心の中に悔恨を残したまま、もしかしたらもう二度と会う機会が訪れないかもしれないと思っていたのだけど。


 まさか、こんな形で再会するなんて。


 久しぶりに会って、それとなくわたしのことをどう思っているのか聞いてみた。


 露骨に避けていたよね、嫌われているのかと思った。そう言ったら、彼氏さんに悪いからだって。


 本当なのだろうか。正直怪しい。実は当時、めちゃくちゃ怒っていたかもしれない。なんて自分勝手なやつだ……と。真相は彼にしかわからない。


 ただ今の彼は全く気にしていないようで、親しく接してくれている。


 物理的な距離の近さもあり、最近はよく甘えさせてもらっているのだけど。


 初めての一人暮らし。新卒で入社した会社でのお局さんの期限を窺う日々。


 頼る相手もない状況で、精神的にかなり来ていた部分があったから、彼の存在はありがたかった。


「また何か、お菓子でも買って持っていこうかな」


 彼の対応を見ていると、仮に過去のわたしの身勝手に怒っていたとして、今さら謝罪するのも逆に困らせてしまいそうな気がする。


 それなら、感謝の気持ちをそれとなく形にして渡しておくのが良いかな。


 考え事をしていたら、お腹の音がなった。カーテンを開けて、よしっと声を出す。


 ベッドの脇に置かれていたアニメキャラのぬいぐるみが照らし出された。


 朝ごはんを作ろう。

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