第一四三回 その奥の面々は。


 ――それは店の奥から。


 僕らは店の奥へと歩みゆく、奥の方へと。窓から遠ざかりながら。


 同じ店内でも少し暗がりの場所。だけれど、穏やかな印象を持つ照明。……照明の力を拝借しながらも、その雰囲気に便乗する僕……千佳ちか可奈かなも同じようだ。


 すると、そこには――


 サーッと血の気が引くような感覚だった。せつと一緒に……シャルロットさんがいた。しかも今、目が合って目の当たりにしていて、決して見間違えではなくて、


梨花りか、それに千佳と可奈も、そんな幽霊でも見てるような顔をしなくても、ちゃんと脚だってあります。間違いなく生きてますので。……って、驚くのも無理ないか。普通だったらこの場合、私たちの記憶があること自体が……お互いを知ってること自体が……」


 驚いたのは、お互い様のようだ。


 この現実の世界とパラレルな世界は同じようで、実は異世界の関係にある。もしもパラレルな世界が消滅していたとしたら、現実の世界ではその記憶も同じく消滅するはず。


 でも、それはなかった。


 なら、ここはまだパラレルな世界なの? ……「いいや、もっと想像できないような内容になってる。合体……ではないな、溶け込んだの。パラレルな世界が現実の世界へ」


 と、摂は言う。そして……「奇跡は起きたの」と付け加えた、その言葉の後だった。


 もしここが喫茶店なら、


 可愛いウエートレスが注文を取りにくるところだけど、ここはラーメン屋なのでそれらしく、迫力のある子が注文を……って、急に涙が込み上げてきた。


「ちょ、おいおい、あぶねーな」と、その子が……その子がね、制するのも聞かずに飛び込んでいたの、胸の中へ。声するも「何してたの? 生きてるなら生きてるって会いに来てよ。……でもでも、死んでなくて生きていて良かったよお……」と、もう号泣の域。


「おい、言ってることが無茶苦茶だな。でも梨花、ごめんな。そして、ありがとうな」


 その子は、紛れもなくしょうさんだった。――僕の方こそ、『ありがとう』だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る