第一四二回 奏でる春の組曲。


 ――色彩と共に、音も……麗らかな春の曲も聞こえてくる。



 駆け抜ける御堂筋、その前に……立ちはだかるの。


「ちょっと千佳ちか、私を差し置いてそれはないんじゃない? 梨花りかを励ましたいのは、あなただけじゃないのよ」と、啖呵も交えて仁王立ちの可奈かな。「ありがと、可奈」と千佳は言う。胸を撫で下ろすようなそんな感じだ。なら……千佳にとっての精一杯な行動だった。


「梨花、痛かったよね……?

 思い切り引っ叩いて、ごめんね。それに、きついことも言っちゃって……」


 可奈の振りまく雰囲気に便乗して、やっと出すことのできた言葉だ。僕こそごめん。千佳に大分の負担をかけていたようだ。そんな思いで脳内は溢れていたの……


「千佳、梨花にはそれぐらいがちょうどいいの。梨花ってMだから、千佳が案外Sのようだから、うまく調和が取れてるかも。まあ何がともあれ上出来よ、千佳」と、何でか可奈のペースに巻き込まれて、いつの間にやら見覚えのある、とある場所へ……



 聞こえる音楽も、

 或いはBGMも、春に因んだ曲。麗らかな川の流れに、小鳥のさえずりも。


 そこはもう、想い出の場所。……あれ? 千佳と僕しか行ったことのない場所のはずなのに、何で可奈が知っている? しかもしかも、僕らの先頭を切って歩いて。


「エッヘン、私の情報力をもってすれば朝飯前よ」


 胸を張って、可奈は大いに威張る。そして確かに空腹も感じた。それも呼吸もピッタリにお腹は鳴って……「ホントあなたたちって」と言いながらクスクスと笑う可奈……


 入るお店。ここは想い出の場所。


 いつの日か、しょうさんが僕と千佳を案内した場所。……そうなの、現実の世界にだって存在しているの。少し未来を語っていたラーメン屋。「らっしゃい!」と、テンション高き店主の声もまた高らかに、泣く暇も与えずに響き渡るのだ。



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