第一四〇回 なっ、そうだろ。


 ――その時のしょうさん、少し涙が浮かんでいるように見えた。


 僕は、翔さんのその言葉が嬉しくもその反面、とある胸騒ぎ……というのか、その様な感じのことを翔さんが言う時って、不安な要素が残るの。でも、取り越し苦労? エンゼルボールの件なら、超電磁ボックスで解決のはず……まだ実行はされてないけど、きっともう解決に等しい。――そう思った時だ、クリアーな強化ガラスに遮られた。


 翔さんとシャルロットさん、それに旧号きゅうごう……


 僕と千佳ちか可奈かな太郎たろう君……その二組を分けるように仕切られた。七人が集うこのエンペラーの胸部に位置するコクピット内に於いて。……ど、どういうことなの?


「翔さん、これって……何かの冗談だよね?」


「ちょっとばかり厄介でな、ここから先は人員削減を必要とするんだ。……梨花りか、今までありがとな。お前には大きな借りがあるんだが、この大勝負で返させてくれないか?」


「何言ってるの? まさか、超電磁ボックスって……」


「黙って脱出させようと思ったのだけど、感づかれたようだな。……運ぶ役割がいるってこった。なら、誰が宇宙まで運ぶってんだよ? エンペラーの体の一部は、俺なんだからよ。ここはお前、妙な詮索をせずにな、俺たちの門出を笑って見送るのが花ってもんだ」


「そんなのダメだよ!

 今すぐ開けないと、本気で怒るよ!」


 叩く、強化ガラス、両手から血が飛び散るほどに……「梨花」「梨花お姉」と押さえつけられた、千佳に可奈、そして太郎君にも。すると動いている、強化ガラスに覆われた僕らのいる場所……脱出用のカプセルだったの。翔さん、シャルロットさん、旧号……


 それが、最後に見た表情だった。エンペラーは飛び立つ、脱出カプセルの僕ら四人を残して空へ、宇宙へ……漏れる泣き声、血の薔薇から……


 アンさんは『……ごめんね』と繰り返して、僕は叫ぶ、泣き叫ぶ……


 空の彼方、白く光った。音も立てずに。そしてこのパラレルな世界は、白くなった。


 光り輝いたのだ。――この現実の世界、パラレルな世界を繋ぐ、その境界も消えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る