第一三三回 ……暁の頃には。


 ――朝焼けが、しっかりお空を染める頃だ。それは突然に起きた。



 それは、いつの日かと恐れていたこと。


 ……でも、それは、

 心の奥底では、待ち侘びる程に夢見ていたこと……



 響く号令! 早朝に響く出撃命令。いざ出陣、この海に浮かぶ研究所から。それは同時に、戦いの進捗をも思わせる。僕は感じるの、エンペラーの胴体部分にあたる三号機を操縦しながら、この物語の終局が近いことを……しみじみと深々と募る小雪のように。


 僕の前を飛ぶ、しょうさんが操縦する二号機を見ながら。

 昨夜の二人の語らい……


 そして一緒にいた時間は、言葉以上に、翔さんとの大切な思い出を刻んでいたの。それは僕の記憶に残りゆく、八ミリのフィルムのように、時間の流れと同じように……



 きっと忘れない、あなたといたこの時間。


 目に染みる朝陽、眠りを忘れる程に激しかった昨夜の感情、その興奮も。……あっ、勘違いしないで。いくら翔さんが百合の扉を開けたとしても、そうじゃないから。


 もしそうでも……

 そうだったのなら……


『おいおい梨花りか、何だよ何だよ、その誤解を招くようなナレーションは?』


『でも、この方が盛り上がるでしょ?』


『だからと言ってだな、これから戦場に向かうって時にだな……』


『それだよそれ、翔さんがカチコチになってるからだよ。遊びじゃないし、真剣に挑まなきゃ、というのも心得てるけれど、そんなんじゃ却って事故るよ』


 そんな翔さんと僕の、マイク越しの語らいが、この度の出陣のテーマとなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る