第一三二回 シンデレラの刻。


 ――午前零時を過ぎても、その魔法は途切れることはなし。継続も継続だから。



 きっと永遠に続くであろう、この魔法……

 終わりがないように、そう願うばかり……


 だけど、長いようで短かった夜釣りの時間も終わりを迎え、僕としょうさんは並んで歩いている……暗闇の中を。或いは帰り道を少しでも長く……ゆっくりとした足取りで。


 言葉が浮かばず真っ白な脳内。


 このエピソードを更新したくとも、文章にするには……少しばかり、脳に疲労が溜まっているようだ。それが証拠に、僕と翔さんは沈黙している。正確には会話するための言葉が、脳に現れない。唯只管と、帰り道を歩んでいるだけとなっている。


 ――すると、


「釣れたよな、寒ブリ」と、翔さんから声を掛けてきた。


「そうだね、パーティだね」と、僕は答える……答えることができた。

 夜も更けるけど、月明かり。お互いが、お互いの顔を認識することができたの。じっと見る……見ているの、翔さんが僕の顔を。見ているというより凝視になっている。


「ど、どうしたの?」


「お、お前……」と、声を漏らしながらも息のかかる程、僕の顔を見る見ている。


「僕の顔に、何か?」……「可愛いじゃないか、お前……」


 と、言ったの。見るからに照れくさそうな顔をして。しかも、月明かりのお陰で、翔さんの顔がほんのり赤くなっているような気もして、何というのか……


「翔さんも、百合の世界へデビューかな」


「バ、バカ言うな。ほらほら、とっとと帰るぞ」と、明らかに照れ隠しなのが見え見え。


 そのお陰で、足取りが軽くなったのは確かだ。寒いはずの風も、少しばかり柔らかな温かみを感じさせた。手を差し出す翔さん、その手をしっかり握る僕。そしてシンデレラの刻は、百合への入口となったように、それ以上に温かい友情を奏でた。



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