第一一九回 望郷はこの地に。


 ――きっと、そう思っている。

 誰もが。僕らが集まれる『セゾン号』と呼ばれる、この研究所に。



 そんな中でしょうさんは、一人部屋の中。夕闇にも負けず膝を抱えベッドの、お布団の上に座っている。そしてその眼差しの先には何を見るのか? それはアンさんのこと一色。


 この日は、翔さんとシャルロットさんの間には……

 会話は存在しない。気が付かぬうちにできた溝……それらしきものが生まれていた。


 僕に何がわかる? 僕の今持っている思いを声にしたとしたら、翔さんからもシャルロットさんからも、声にせずとも、そう心の中では非難されることは明らか。僕自身も胸にしまうつもりだ。傷口は、できるなら広げたくない、ずっとその思いだ。


 ただ、黙々と執筆する。次の戦いに備えるためにも。



 弾くキーボードの中で、「お隣、座っていいかな?」と、千佳ちかの声が聞こえる。


 今、僕らのいる場所はライブラリー。沢山の資料に埋め尽くされている。その隙間ともいえる場所に、テーブルにPCを掲げて僕らはいるの。千佳と横並び。並んで弾くキーボード。音か重なるキーボードの音。まるで鏡のように呼吸ピッタリで……PCの中の名称、つまり『りかの学習帳』に、それらは記憶させている。

 学習帳の意味は、紛れもなく学習帳……


 でも、ただの学習帳ではない。きっと千佳と一緒に守り、築き上げてゆく世界。



 ――そこから見える、新たなる展開を僕は期待する。


 僕ら姉妹は、ずっと一緒……「何があっても、ずっと一緒。僕は梨花りかのやること考えること、妹として受け止めるよ」と、言ったのだ、千佳は……


「僕は、梨花を信じてる」とも。改めて言うには何らかの、覚悟があってのこと。


 その時、僕は千佳の後ろに潜んでいる、大いなる見知らぬことを、感じるのだ。



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