第二十四章 ――螺旋。

第一一六回 奥に見えるもの。


 ――頭部だけとなった白雪の、オープンしたフェイスの奥に見えたもの。



 それは、信じがたい光景だった。エンペラーの左腕が脱落したことも、忘却させられるほど。……見えたものは、とても綺麗な、赤いドミノマスクをした女性。彼女がパイロットらしい、白雪と呼ばれる機体の……そして、僕が見えたということは、しょうさんもまた見えているということ。驚愕な表情……その表現しかできないほど、僕らにもわかるほど。


「う、嘘だろ?」と、翔さんの声が漏れる。心から溢れ出る声……


 只事でないことは明白。翔さんにとって、或いは僕らにとっても、重大なことを意味しているように、そうとしか取れない言動、その言動……


「アンさん……まさかあなたが」と呟くの、次に出た翔さんからの言葉……

 ドミノマスクで顔を覆っていたけど、金色の髪や……刺すような目、シャルロットさんに見る面影。つまりシャルロットさんのお母さんということ。そして、いつか聞いた翔さんのお母さんの、お姉さんなの。そんな中を頭部だけとなった白雪が攻撃してくるのかと思いきや、そのまま去って行った。……白雪の腹部に穴の開いた胴体を、白銀の世界に置き去りにしたまま。そしてそして、あまりにも大きな衝撃を、翔さんに残したまま……



 大きすぎたのだ。


 十メートル級のロボットが対戦していた世界から、今はもう、身長五十七メートルのエンペラーよりも巨大なロボットと対戦している、当時からすれば有り得ないような出来事というより他はなし。それ以前に、ついこの間までは普通の十五歳だった僕ら。太郎たろう君については、まだ誕生日が一か月先の十四歳。戦争なんて有り得ないと思っていたの。


 ……思うの。


 僕ら、この先どうなるの? って。今はまだ、皆がいる。もしかしたら運が良かっただけかもしれないと、背筋が凍るような思い。このうちの誰かがもし……


 翔さんの驚愕な表情から、僕はいつの間にか便乗して、ネガティブな発想が溢れるの。

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