第一一三回 距離と間合いと。


 ――地に足を着ける。つまりは着陸し、対峙する大寒波の白銀の大地。



 相手は七十二メートルの美しき機体。白に光る赤の勇敢なる乙女の騎士。その趣で、長い槍を持つ。まるで薙刀のように立ち回り、優雅で研ぎ澄まされた舞を披露してくる。


 それこそが、相手の攻撃だ。


 突きと払い、その二種の技を巧みに操る。その様は『白雪しらゆき』と、名付けさせられる。


 この機体も、そしてそのパイロットも強敵……翻弄し、追い詰めてゆくの。とはいっても未だかつて、順風満帆な戦いなんて存在しなかった。毎回が毎回ピンチの連続。油断を許さない常々。今回も戦う。力の限り闘わなければ負けるから……


 かわすかわす長い槍の攻撃。槍の先は鋭い刃先が三本。フォークのようなその刃先が悪魔と思わせる象徴ともいえる。美しい容姿をした悪魔ともいえよう。


 しかしながらその先が見えず、かわし続ける。


 エンペラーの武器は超電磁を駆使したもので、ロケットのようなパンチ、嵐のようなタイフーン。まだ九十九の必殺技の内、二つしか解明できていない。……が、この二つも今は使えない。しょうさんも思っているの、間合いを詰める方法を。遠距離からの攻撃は不利なのだ。かわされるイメージしかない。……接近戦、それしかないの。


 ――肉を切らせて骨を断つ。


 翔さんはそう思っているようだ。しかし太郎たろう君の命令が下りない。「おい、どうするんだ?」と、翔さんから声が漏れる。すると閉じていた目を、二つの眼を開いた太郎君は声にするの。「翔さん、梨花りかお姉と一緒にしたことを思い出してみるんだ」と。


 驚きに包まれる。僕も千佳ちかも、もちろん翔さんも皆が皆……


「おい、そんな悠長なことしてる場合じゃないだろ?」と、翔さんが言うけど、


「闇雲にアタックしても、相手の骨を断つ前に、こちらが骨を断たれるぞ。よく考えるんだ。方法はあるはずなんだ。翔さんなら見付けられるはずだと、俺は信じてる」


 そう、激しくも静かに太郎君は言った。重厚感あふれる空気の中、兆しを探している。



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