第八十回 ニュータイプなの。


 ――覚醒された五感は、敵の動きを確実に捉えている。



 目で追うよりも遥かに、その……迅速に。この戦いは、何のためなの? って、思える程、僕らはぶつかり合う、目前の敵に。とにかく今はそれで精一杯。伝わってくるの、翔さんの息遣いが、僕と……そう。まるで僕と同じことを思っていることを。


 時として肉弾戦。相手の機体、その名は『ミラクルな薔薇』


 ショルダーアーマーからの体当たり、そして腹部に蹴りが入って、大いなる衝撃の上に機体は、エンペラーは巨体にも拘らず、吹き飛んで地面に倒れたの。


 危うく舌を噛みそうになる。


 喩えるなら校舎の三階から、地面に叩きつけられたような衝撃だ。


「我慢しろよ、梨花りか……

 どうやらエンペラーは、新たなる覚醒を迎えそうだから。そして俺の身に、何が起きても狼狽えるなよ。何だか、俺の野生が食み出しそうなんだ。俺自身が抑えられそうにないんだ。……俺がどうにかなったら、お前が止めろ。お前しか、できないんだ、梨花」


「それを言うなら、可奈かなだよ、しょうさん。

 僕は翔さんの脳と共感してるんだから、僕だって抑えられなくなるよ。……我が心、ここにあり。可奈、これは命に係わることだから、中々構ってあげられないのは、ごめんだけれどね、翔さんとばかりになっちゃうけれど、エンペラーの脳と身体だから、だからだよ、可奈だけなんだ。不完全な僕らを制御できるのは。とっても頼りにしてるから」


 胸の内、やっと言葉になった。


 もっと前から言っておきたかったこと。でも、今だから言えたことだったの……


 待たせて、ごめんね。やっと言葉になったの。


「……わかってるわよ、そんなこと。

 いつからの付き合いだと思ってるのよ。梨花との付き合いは、私の方が長いんだから」


 と、可奈は言ったの。……少しばかり、涙声になっているようにも聞こえた……

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