第十四章 ――愛情。

第六十六回 その物語は、今。


 ――静寂な時間。これまでには有り得ない、戦慄を覚える程の静寂な時間。



 そして、これまでに見たこともない……


 しょうさんの、これ程までの涙。深い悲しみも……そんな最中だ。荒い息遣いをしたキッカー君がここ、医務室の中でも、集中治療室にあたるこの場所を訪ねてきた。


葛城かつらぎさん、ランバル大佐を狙撃した相手だけど……」と、そこでキッカー君の言葉が詰まった。今の翔さんに声を掛けるのを躊躇ったようなの……それもまた意外だった。


 彼もKYの部類なのだけど、


 それ程、見ていられない光景……ランバルさんが中で眠っている治癒用のカプセル。その前で返り血を浴びたままの翔さんが、ジッと座ったままで、涙を零したまま……


「ご苦労様……

 良かったら僕に話して。代わりに聞いてあげるから」


 キッカー君は一瞬、驚いたような顔をしていたけど、すぐに真顔に戻って、


「申し訳ない、自分が近くにいたのに……

 相手は追い詰めたんだけど、自爆した。精密にできた人型ロボットだった。それで今は残された破片から、割り出してる、証拠になるものを。……だから、もう少し待って」


 それだけの言葉を残し、

 彼は背を向け去って行った。ありがとうとも……言えないままで、見送るだけだった。


「……梨花りか


 その時だ。翔さんが、声を掛けてきた。聞こえるか聞こえないくらいの声だったけど、


「ごめんな、酷いこと言ったよな? ありがとな、手配してくれて。梨花のお陰でランバルさん、一命を取り留めたんだ。命の恩人だよな、本当にありがとな……」


 と、言ったの。涙も拭かないままの濡れた顔で、……そう言ったの。


「嫌だな、そんなの。翔さんらしくないよ……

 ランバルさんも翔さんも、もう僕ら、家族みたいなもんじゃないか」



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