第六十五回 そして父と娘は。


 ――一発の銃弾は、すべてを変えてしまった。


 賑わう街の光景も、イベントを楽しみに待つ、父と娘の細やかな一時でさえ。



 それはしょうさんの初めての、Xマスのイベント。お父さんと細やかなXマスパーティ。そのためのショッピングだったの。……そこに向かう翔さんの顔は、お父さんと一緒に過ごせることを楽しみにしている普通の女の子の顔。童心に帰る純粋な顔だったの。


 なのに、

 ……一発の銃弾が貫通し、血が飛び散った。


 ランバルさんが背後から、狙撃された。それも翔さんの目の前で、そしてその少し後ろにいた僕の目の前で……ランバルさんは、翔さんを庇うようにして倒れたのだ。


「翔、怪我はなかったか?」


「馬鹿野郎、何で俺を庇ったんだ?」


 その銃弾は、翔さんを狙っていた。ランバルさんがそれに気付き、飛び出したのだ。僕は脚が竦むだけでは済まず、金縛りにあったように動けなくなって、涙も溢れ……


「何してんだ梨花りか、救急車だろ!」


 と、翔さんから怒鳴り声が飛んできて、僕は真っ白になりながらも、泣きながらも救急車を呼ぶつもりが、組織に……シャルロットさんに連絡を取っていた。起きた出来事もその後の処置も、僕は何もできなかった。狼狽えているだけだった。狙撃した相手も、まったく見えていなかった。そして泣き崩れる翔さんを、目の当たりにしていても……



 搬送先は研究所。病院ではなく研究所だった。


 最先端医療を誇る治癒用のカプセル。その中にランバルさんは眠っている。止まらなかった血も……止まり、傷口も治療が施されている途中だ。呼吸も鼓動もしている。


 翔さんは、その傍にいる。血に染まったコートのまま、ランバルさんの返り血を浴びたままの姿で。時が止まったように、そこから動かない翔さん。……涙も、そのまま。

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