第六十四回 イベントも近く。


 ――なら、ついて来いよ。


 その一言のみを、しょうさんは声にした。二人で繰り出すの、街へ……



 二人とも私服……僕と翔さん、並んで歩く。その近くには銀杏並木。街並みも賑わいを取り戻しつつあった。向かう場所は、翔さんだけが知っている。靡くベージュのコートが物語っている、ここから先に見えるハードボイルドな世界観を。


 僕は豹マークの黒いジャンバーに、深紅のスカート。ならば、靡くベージュのコートは翔さんの方だ。近くにはショッピングモール。……って、いつの日か、翔さんが行った場所らしい。僕の知らない所で千佳ちかと交流があったそうだ。それを思い出したのか……


「あいつら、俺を着せ替え人形みたいにしやがって」


 と、心に収まらない声が聞こえてくる。想像すると、クスッと笑えた。


「なあ、梨花りか……」


 急に声を掛けてくるので、ギクッとなりながらも「な、なあに?」と、繋げる会話。


「もうすぐXマスだな……

 なあ、これから俺は、ある人に会うのだけど、そこで話すことは……頼む、皆には内緒にしてくれないか? 一人の娘のお願いとして……今は、それだけしか言えないけど」


 その時の翔さんの表情を見るに……


 溢れる切なる願いと、そのようにしか思えないから、


「信じる。翔さんが僕に打ち明けてくれたから。そして、僕と翔さんの二人の秘密だ」


 と、僕は言う。翔さんが、僕を頼ってくれた。


「ありがとな。会う人は、ランバルさ……いや、お父さんだ」


 そしてショッピングモール。――その陰となる場所にいた。


「おお、翔、こっちだ」と、僕らを見付けたランバルさんが、手を振った刹那……その瞬間だった。響く銃声と共に、血が飛び散った。白昼堂々……


「お父さん!」と、翔さんの叫び声の中、野次馬の悲鳴も一緒になって、こだました。



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