第六十二回 やはり油断大敵。


 ――心地の悪い汗が流れた。それはきっと、翔さんだけではなく三人とも。



 そしてこの緑の風景。まるでプラモデルのジオラマを連想させた。


 それは時間が止まっているようにも、そう思わせるような静かでゆっくりとした風の流れ……ある意味、戦いの一コマが終わったような情景。夕映えに変化する直前のよう。


 片腕を失ったランバル機と、もう一機は撤退したが、


 上半身だけとなっている黒き立党精神の童夢の頭部には、矢が刺さったまま……


 モノアイから後頭部にかけて貫通している。その向こう側には、片膝ついてボウガンを構えているピンクの機体『モー・ニカ』がいた。……ウェザリングでもしたような感じの汚れは、戦いの激しさを静かに、細やかに物語っているようだった。


 モー・ニカの頭部は、まるで丸いヘルメット。


 サングラスのように、濃いブルーのアイマスク……お空を映し出しながらも、その奥のカメラが赤く点滅を繰り返しながら、不気味に動いている。機械音を奏でながらも。


 そしてモニターに映る、キッカー君の顔……


『君達、大丈夫かい?』


「え、ええ……」「ま、まあな……」と、僕としょうさん。でも本当は、大丈夫じゃなかったの。可奈かなは沈黙を繰り返している。グスッ……と、泣き声まで聞こえてきた。泣きたいのは僕も同じで、それほど怖かった。そう思うとね、可奈はよく我慢したのだと思う。


 そのことを踏まえ……


「ありがと、助けてくれて」と一言、精一杯の一言を声にした。


 すると、安心が脳内に広がったのか……僕まで涙を誘われた。見せたくなかった涙……特にキッカー君の前では。恥ずかしい以上に、何だか変な敗北感があって。そこで翔さんは「俺からも、今度ばかりは助かったよ。特に梨花りかが不安がっててな、それでも懸命に頑張ったからな、あとで励ましてやってくれ」と、言ったの。


 ――ちょ、ちょっと、余計なことはいいから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る