第六十回 想定外と真っ二つ。


 ――それは飛ぶ凶器。四季折々の持つ……空気圧により脱着したアーマー。



 その一部、脚部アーマーの鋭利な部分が、迎える三体の内一体の胴体を切り裂いてしまった。ドスンッと落ちる上半身。中の人は? その安否は? ランバルさんが声を掛けると……『機動力は失いましたが、まあ、下半身は飾りみたいなものですから、バズーカーでなら狙えますので』って、まだ戦う気なの? フム、流石のプロ意識。


「何を言う? 下半身は機体にとっては重要なんだぞ。我ら戦士は、脚の力があってこそ幾つもの修羅場を越えてきたのだ。開発部門の奴らと実戦経験が違うのだぞ」


『は、すみません……しかし、援護ならできますので』


「ウム、頼んだぞ。

 ……聞いたかしょう、これがプロなんだ。勇み足は結構、不可抗力で狼狽えるようじゃ、その隙を突かれ、やられるぞ。常に戦場では、狼狽えることは命取りだ。戦場に入ったならば、お前は戦いのプロとしてみなされるんだ。そのことを肝に銘じるんだな」


 戦慄は走る。冷静でありながらも、ランバルさんの声や口調に。


 恐ろしい人。……嫌な汗が流れるのも、妙に乾きを覚えるのも。


「ああ、そうだった。

 敵は、アドバイスなんかしてくれないもんな。……梨花りか、勝負をかけるからな」


 翔さんは、敢えて僕に声を掛けた? 乱れる呼吸を感じ取ったの? すると、翔さんは察してくれたようなの。「梨花、可奈かなを見ろよ。常に冷静……いや、表に出さないだけと思わないか? あいつはな、いつも戦ってるんだ。己と、自分の弱さと。プロの戦いはそこにあるんだ。相手が誰であろうと、もはや関係などない。自分との闘いなんだ」


 ……僕は、自分のことしか考えてなかった。


 ハッとする瞬間、可奈とは僕の方が付き合いが長いのに、翔さんは可奈のことを察していた。僕には見えなかった可奈の孤独な戦いを、ちゃんと見ていた。怖くないはずなんてない。どの戦いも、必死だった。――翔さんは、僕に教えてくれた。

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