第四十五回 大河のような壁。


 ――その姿を喩えるなら、タイガー。とある野球チームの趣なカラーリング。



 そして相手は名乗る、今まさに僕らの前に立ちはだかる相手は紳士的に、自らの機体の名を。ジプシーの異名とは違うその名を……『大河のような壁』と。タイガーなだけに。


 ……プッと、堪え切れず笑う僕。


「おい、これは真剣勝負なんだぞ」と、しょうさんは言うが、「あっ、ごめん、冗談みたいなお名前でつい……でも、翔さんだって、口元が笑ってるんだけど」と、僕も言い返すの。


「お前と一緒にすな。喜んでるんだよ、ランバルさんと戦えるの。

 何の術も持たない俺に、唯一……戦う術を教えてくれた恩人なんだ。お父さんのような人なんだ、俺には。梨花りか、それに可奈かなも、今回は俺に、呼吸を合わしてくれないか?」


「わかったよ、翔さん。可奈も同意だね?」


「うん、任せましたよ、翔さん」……と、モニターに繋がれた僕ら。でも、それだけじゃないの。「ありがとな、二人とも」と感極まる翔さんの声のトーンが、そう物語るの。



「ほお、三位一体の機体か。益々面白い。

 翔よ、いい仲間を持ったな。こんな時、私が君のお父さんだったら、大いに祝福もできるのだが、……悲しいかな、今は敵。戦うしかないようだ。まだ戦えるんだろう、翔」


「ああ、もちろんさ。俺らの力はこんなもんじゃない。

 ……確かに俺は、無知な半人前で戦うことしかできないけど、そんな俺なんかを補ってくれる優秀で最高の二人がいてくれるから、どこまでも強くなれる。心は負けないよ」


 ――翔さんが初めて、僕を、


 僕らを褒めてくれた。いつも怒られてばっかりだけど、優秀と言ってくれた。


「なっ、そうだろ、梨花。

 上手く言えないけどよ、お前らは俺の、俺とともに行動できる誇りなんだぞ」


 戦いの続く最中、戦いの中の会話とは思えないような言葉が、まだ飛び交うのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る