第二十八回 涙は触れる想い。


 ――パン!


 その響く音は、この室内を始め、空気までもを静寂にさせた。



 シャルロットさんが、しょうさんを叩いた……

 手の平で、頬っぺたを。涙が浮かんでいた。シャルロットさんの瞳に……


「何するんだよ、てめえ」と、怒鳴る翔さんを目の当たりにするも、


「……あなたのことは、わかってあげられないけど。命を粗末にしちゃダメ。死んでいい命なんてないの。――あなたのお母さんは、絶対にそんなの望んでない!」



 泣きながらも、シャルロットさんは毅然と言った。


 発音もままならない言葉だけど、涙が溢れてきた。……そして、翔さんの目にも、涙がキラリと光っていた。「お母さん……」と、声を漏らしながら、泣いたの。


 可奈かなからのアイコンタクトで、僕らは出る。そっと廊下へと。


 室内には翔さんが一人、ベッドの上で……鬼の目にも涙。「ウ、ウウ……」と、声を殺して泣いているようだ。廊下からでも、その模様は想像できるだけに胸が痛く……


 シャルロットさんは、泣き崩れたの。

「わかってあげられなくて、ごめんなさい……」と、そう声にしながら。


 僕も堪え切れなくて、可奈も同じなの。廊下では、皆が泣き崩れたの。



 ――さあ、涙を希望に変える!

 ほら立って、グズグズするんじゃないの!


 と、廊下に響き渡る声。こんな時に? と、思うかもしれないけど、その毅然とした声は、どれほど頼もしかったことか。僕らは立ち上がれた、皆、全員が。せつがその場に姿を現したのだ。その場の空気は一変した。「救護するのはシャガイだけではないの。目の前の翔さんの心を救ってあげる。それも重要な使命なの」と、

その言葉を刻ませながら。



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