第二十七回 涙は心を開く時。


 ――目を覚ました。そこはもう病室の中。それでも研究所の内部だ。


 そのことに気付く僕ら。皆が葛城かつらぎさんの、目覚めを待っていた。そしてある意味、固唾を呑む場面でもある。その緊張感とは裏腹に靡く……純白のカーテン。


 その向こうにあるものは青色。快晴なる空と広大なるマリンブルー。水平線の遥か向こうにまで広く……だからこそ、この研究所は海の上に位置しているの。


 僕らが広い心を忘れないように、


 ……恥ずかしながら、つい最近なの。自粛続きの学園生活の、その果てに訪れた場所だから。エスケープした夏の日、聞いたお話。かつてここで戦ったクルーのお名前と、その人に纏わる伝説。その伝説は、まるで歴史が繰り返されるように現在、ここに蘇っているから。葛城しょうの……お母さんのお話。その壮絶なる戦いの日々を。


 そのことをも踏まえ、僕らは葛城さんの……


 いいえ、翔さんの。翔さんのお母さんの願いを叶えるためにも。


「……お、おい、ここは?」


 目覚めて、その第一声を発した翔さん。僕の中では、もう下のお名前になっている。


「僕らの研究所の中、意識不明だったのよ、三日三晩……生命維持装置のカプセル内まで入ってね……何かしら重い病気をしてるようね。暫くは此処にいてもらうからね」


「って、勝手に決めるなよ。お前は『四季折々』とかいうけったいな機体の、甘ちゃんの方だな? 余計なことしやがって、俺の機体はどうしたんだ?」


「……処分するしかなかった。それくらい大破してたんだ。それに君は……もう戦える体じゃないよ。治療に専念して。今なら普通の女の子に戻れて、普通に暮らせるんだから」


「ふざけんじゃないぞ、てめえ……」と、胸倉を、胸倉を掴まれた翔さんに僕の。


「お前に何がわかる? どうせ先のない命……シャガイを道連れに自爆するつもりだったんだぞ。温室育ちの甘ちゃんなんかとはわけが違うんだ。死ぬ覚悟ぐらい、いつも……」


 叩かれた。頬を……


 翔さんが、溢れる涙で瞳が潤んでいるシャルロットさんに。



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