第二十二回 ビッグな注射器。


 ――それは、右の下腕部に装着されているもの。


 ガトリング砲のような趣だけど、鋭い針が……なら、予防接種のような注射器?



「そっ、注射器。これが対シャガイに開発されたワクチンだから」


 と、可奈かなは言うのだけど……


「ワクチン?」


 僕は耳を疑う。聴き間違いとも思える程に。


「シャガイはね、環境汚染で毒されてて、感染を伴う病気になってるの。巨人になったのも白銀の身体になったのも……かつては、海の生物を感染から守るため、シャガイを殺略していたそうなの。それも大量に……絶滅したと思われたのだけど、温暖化のために蘇って増殖を繰り返しているの。でも、シャガイに罪はないの……」


「……可奈?」


 泣き声に変わっていた。


「私たち人間が原因なのに、本当に勝手だよね? だから元に戻してあげたいの。せめて病気になる前の姿に。……その新薬がね、この注射器なの。摂取してあげることが、私たちの必殺技となるの。だから梨花りか……私と一緒に、救ってほしいのシャガイを」


 ――そして、人類を。


 示してほしいの、解り合えるということを。



 心震える瞬間だった。可奈の思いは、僕なんかよりも明確で、ビッグなものだった。それは戦慄を覚えるもの? 或いはそれは、広大な優しさなのだろうか?


 例えば葛城かつらぎさんを、納得させられる程の光景を……

 見せてあげられることができるの? 僕は信じたい。――ううん、信じる!


「可奈、教えて。摂取させてあげるには?」


「まず超電子スパーク。私と一緒にペタルを。……ありがと、梨花」



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