全員キャスティングがおかしいシンデレラ 4

 その後も私は話題を変え、騎士様とおしゃべりをした。


 城での話や城下町での話。

 最近の流行りや面白かったことなど。



 楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方ごろになってやっと王子様が屋敷から出てきた。



 ……なんだか来た時と違って、服が乱れていたような?

 侯爵令嬢とナニかやっていたのかしら。



 ともかく私は何にも気付かないフリをして、お見送りの挨拶をする。

 やっぱり王子様は私になんて目もくれず、さっさと馬車へと戻っていった。



「ふぅ、まぁいいわ。今日はこれで仕事は終わりね……なにかしら? 騎士様まで、わざわざお別れの挨拶?」



 帰りに街で夕飯でも食べていこうかしら、なんて考えていたら、さっきまで一緒に居た騎士様が私のもとへとやってきた。


 別に忘れ物とかじゃないと思うけれど、なんだろう?



 彼は頬をきながら少し何を言おうか言いよどんだ後、意を決して口を開いた。



「今日もありがとう。いつもは退屈なんだが、キミが居てくれると楽しい時間を過ごせる」

「えぇ、こちらこそ。次に此方こちらへいらっしゃる時には、私特製のクッキーでも用意してお待ちしておりますわ」



 お礼なんて珍しいわね。っていうか、そんなこと言われたの初めてだわ。


 私は私で、歓迎の意味を込めて返答する。

 どうせまた彼は暇だと言って、屋敷の外でサボるでしょうから。


 そんな私の言葉に、彼はキョトンとした後「手作りか、それは嬉しいな」と微笑んだ。



「なぁ……今更なんだが、キミの名前を教えてもらってもいいか?」

「あらあら。今まで名乗りもせず、大変失礼いたしましたわ。私の名はサラ。皆さんを気持ち良く迎え、お見送りをするステップガールですわ」



 本当に今日はどうしたのかしら?

 なんだかナンパみたいで恥ずかしいじゃないの。



 照れ隠しに、ちょっとだけ芝居臭いカーテシーで礼をとってみる。

 それがまた彼のツボにまったのか、笑いをこらえるのに必死の様子だ。



「クッ、ククク……。で、ではサラ。話し相手のお礼と、親愛の印にコレを受け取って欲しい」

「え? お礼、ですか?? これは……ピアス?」



 騎士様が私の手を取ると、その中に金色の小さなピアスを置いた。

 それはクローバーの形をしていて、中心には何か紅く綺麗な石が嵌まっている。



「いや、こんな高価そうなものは……」

「……頼むよ。なんなら今度会った時まで、預かってくれるだけでもいいんだ」



 うーん、じゃあそういうことなら?

 彼としてもまた会って話し相手になって欲しいから、その口実にするってだけなのかもしれないし。



 ……なにより、私も楽しかったからね。

 彼となら、いつでも気軽にお話したい。


 そんなこと、恥ずかしくて面と向かっては言えないけれど。



「分かりましたわ。ではその時まで、大事に取っておきます」

「そうか、良かった……」



 騎士様はホッとした表情になると、握っていた私の手に唇を落とした。



「えっ……? あ、あの??」

「では、また近いうちに会おう!! 楽しみにしているぞ!!」




 アワアワと戸惑う私を置いて、今度こそ彼は馬車に乗って去っていってしまった。


 どうしよう、まさかあんなキスをするなんて……!?


 あまりに唐突過ぎて、何も出来なかった……。



「……嫌じゃなかったっていうのが、なんだか悔しい。っていうか私、騎士様の名前聞いてなくない!?」



 ま、いいか。

 どうせまた直ぐに会える気がするしね。


 私はそう思い直し、手をさする。


 不思議と柔らかいあの唇の感触は、いつまでも消えることは無かった。





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