友情
「星、サボらないでぇー!」
外掃除の当番の私と恋と花は、恋の指導のもと、少し肌寒い中、掃除をしていた。『今日は、冬の訪れを感じさせる気温です。』と朝、お天気お姉さんが話していた通り、いつもより寒かった。ジャージのチャックを上まであげて、ほうきで、枯葉を集める。
「あの〜」
私が集中していると、男の人の声が聞こえた。見上げると、大輝先輩だった。
「ちょっと話があるんだけど」
私に話しかけてきた大輝先輩は、真剣な顔をしていた。花と恋は、大輝先輩の整った顔立ちに動きが止まっている。
「ちょっと、この子、借りていってもいい?」
先輩が2人に言うと、
「もちろん!どうぞ!」
と声を揃えて言った。私は、進んでいく大輝先輩に着いて行った。私が2人の横を通った時、小声で
「話聞かせてよね!」
「イケメンとは、聞いていないから!」
とニタニタ笑って手を振ってきた。うん、誤解しかしていないな、あの二人。そんなことよりも、何について、話されるか分からなくて、怖かった。多分、大輝先輩は、私のことをよく思っていない。初めて会ったあの日も明らかに私のことを嫌っていた。連れていかれたのは、空先輩と会っていた旧部室だった。1ヶ月ぶりのこの部屋は、落ち着かなかった。空先輩がいなかったからかもしれない。大輝先輩は、私の方を振り返って、話し始めた。
「空になんかしたか?」
怒り混じりのような、そんな声だった。
「私がですか?」
「うん。あいつ、元気なくて。元気ない時は、いつも大丈夫って無理してでも笑ってたんだけど、ここ1ヶ月ぐらい何事も上の空って感じなんだよな。だから、昼休み一緒にいたんだろ。なんか知ってるかなって」
大輝先輩は、本当に空先輩のこと大好きなんだなぁって思う。大輝先輩の言葉から、そう感じる。
「最近、私、空先輩と会ってなくて...。すみません。参考にならなくて」
「どうして?」
大輝先輩の真っ直ぐな目で、ストレートに聞いてきた質問に私は、ただ答えるしか無かった。
「私、空先輩といると楽しくて、落ち着くんです。でも、空先輩は、自分のことあんまり話してくれなくて。私、先輩と二人の時間が本当に好きで、私だけ勝手にあの時間が好きなだけなのかなって思っちゃって。いろいろ考えてたら、空先輩とどういう顔で合えばいいのかなって思っちゃったんですよね」
私は、自分の気持ちを吐き出した。自分の心の中を言葉にした。いつも私は、心の中の気持ちを頭で考えて話しているから、こういう心の中の気持ちを直接言葉に出している自分にちょっと驚いている。
「そういうことか」
大輝先輩は、旧部室に転がっていたバスケットボールを右手でつきながら、呟いた。
「あのさ、俺、空のこと大好きなんだよね。だから、いつも心配になってしまって。嫉妬深い彼女みたいだよね笑。あいつ、すごいデリケートだし、何考えてるかわかんない時があるんだよ、俺でも。だけどさ、」
大輝先輩は、ついていたボールを両手でキャッチして、私の方に向き直した。
「君と出会ってから、あいつちょっと笑顔が増えたんだよね。なんていうか、毎日が楽しそうでさ」
私は、大輝先輩の真っ直ぐな瞳を見ていられなかった。嬉しい感情もあるのかもしれないが、寂しい感情の方が強い瞳のように感じた。
「でも、私、空先輩となにを話したら…」
空先輩が私と出会ってから笑顔が増えたって聞けて、嬉しかった。でも、それはきっとただ彼の話し相手が増えたからだけ、たったそれだけの事だと思う。空先輩にとって、私は、昼休みの間だけの話し相手。ただそれだけ。
「俺さ、空が困ってることあったら、絶対に助けたいんだよね。空は、昔から人の感情を感じやすくて、悩みやすいタイプだから、君の気持ちにも気づいてたと思うよ」
そう言って空先輩は、ドアの方に向かった。ドアノブに手をかけ、私の方を向いた。
「ただ言いたいことは、君は空から逃げないでほしいってこと」
大輝先輩は、じゃあねと言って、帰っていった。
空から逃げないで...避けるとかではなくて逃げるという言葉が気になった。私は、空先輩から逃げていたつもりはなかった。でも、現実からにげていたのかもしれない。明日、空先輩に会おう。絶対に。
私は、2人のところに戻った。戻って、早々、花がにやにやしながら近づいてきた。
「ねぇ、さっきの人がもしや...!」
「違うから〜!大輝先輩は、空先輩の小学校からの友達〜!」
私は、壁にかけて置いたほうきをもって、掃除を始めた。花も掃除を再開したが、恋が何かを考えていた。
「どうしたの?恋?」
「あの人どっかで見たことあるなぁって思ってたら、中学の先輩だ〜!スッキリしたー!」
「そうなんだぁ。じゃあその空先輩って人のことも知ってるんじゃない?」
また、お喋りが始まった3人で集まると、まともに掃除が出来ない。テスト勉強も3人でやることがあるが、100%集中して勉強したことない。毎回、もう3人で勉強するのはやめようと思うのだが、またやってしまう。これは、高校生あるあるだと思うのだが、いや私たちだけなのか!?
「なんて言う苗字なの?」
「みちはし。道橋空だったと思う」
「聞いたことあるー!でも思い出せない!でもなんで聞いたことあるんだろ〜?」
空先輩の昔のことを知れるチャンスだ。思い出してくれ、恋!
「なんかスポーツやってたとか?」
「いやぁ、そんな風には、見えないけどね」
花も興味津々だ。私もすっごく気になる。
「じゃあ、超絶イケメンとか?」
「大輝先輩は、モテてたね。バレンタインは、チョコいっぱい貰ってたけど、告白は全部お断りだったわ〜笑。懐かしー!」
「大輝先輩は、彼女いたの?」
花は、花で大輝先輩のことが気になっているのかもしれない。
「そりゃあ、あのルックスだもん。いない方が不思議でしょ」
少し落ち込んでいる花と、昔のことを思い出して懐かしむ恋、私は空先輩のことが気になる。
「思い出したら、また言うわ!」
その日は、3人で帰った。昔の中学の話をした。花が言った『中学校もバラバラな3人が出会えたのって奇跡だよね!』と小学校向けの漫画のようなセリフを最後に解散した。
高校2年生 星空 @ohd_co
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