第2話 好事魔多し


「はーい、ケンくん、もう少し左向いてくださーい。そうそう。もっとうっとりした表情で。あ、そうそう、そこで左手を唇に寄せて。いいですよー、その恍惚感がいいですねー」


パシャパシャ


「あのー、すみません、ユミ子さん、何枚撮るんですか? 本人確認なんでしょ? 一枚撮りゃ十分なんじゃないんですか?」

「ユミ子特製ワクチンの接種は適合性を調べるために少なくとも二十カットは写真が必要なんです」

「二十カットもですかー」

「なんだか嫌そうですね。打てなくてもいいんですか、ワクチン」

「いや、ワクチン打ちに来たんだから打ってもらわないと困ります。予約取るのも一苦労だったのに」

「じゃあ、つべこべ言わないで、まずは写真です。はい、じゃあ次はそこのベッドで四つん這いになってください」

「え、ちょ、ケツ丸出しのままですか? そんなことしなきゃならないんですか?」

「はい。必要ですよ。ワクチン打ちたいなら我慢してください。大丈夫です。ワセリンもありますから」

「いや、その状況でワセリン関係ないですよ。何に使うんですか。いや、ホント勘弁してほしいです」

「はいはい。ぐずぐず言ってないでベッドに行ってください」

「まじでー? こうですか?」

「もっと両手を前に伸ばして、胸をベッドに付けてお尻ケツを突き出す感じで」

「まるでヨガじゃないですか」

「そうそう。ゆっくり息を吐いてくださいね。できれば苦悶の表情とかしてもらえると。あー、そうじゃないです。そうだ! ちょっとチクっとするけどガマンしてくださいねー。行きますよ」


バシッ!


「いてえ! チクっとどころじゃないですよ! それただのスパンキングです!」

「ガマンガマン。いい表情ですね。もう一枚いっときましょう」


バシッ! バシッ!


「いてえー!! 絶対ケツに手形ついてますって、これ。冗談抜きで帰りたくなってきた。もうワクチン、いいです。俺もう帰ります。俺のパンツ返してください!」

「ダメです! なんてこというんですか。今、県内で感染者がどれだけ増えていると思っているのですか? 医療従事者としてそんな勝手なことは許せません。そんなヌルいこと言い出すなんてケンらしくありません! これはお仕置きが必要ですね」

「だったら、早くワクチン打ってくださいよ! ワクチン打ってほしいだけなのになんでケツ丸出しで平手打ち食らわなきゃならないんですか」

「……そうですか。つまり、なにがしかの対価がほしい、とケンは言ってるわけですね」

「た、対価? いや、俺はワクチン打ってくれりゃそれでいいんですけど」

「分かりました。六百万人の市民の安全のために私が犠牲になります。ケンに身体を捧げます」

「ちょ、ちょ、ちょ、なに脱ぎ出してるんですか。ユミ子さん、やめてくださいよ」

「……ケン」

「はい?」

「やさしくしてね♡」

「はあ? わけわからないです。やさしくしてほしいのは俺ですよ。立場が逆じゃないですか! とにかく白衣を着てください。なんなんですか、いきなり」

「私、脱いでもすごいんです♡」

「いや、看護師のセリフじゃないですよ、それ。しかも微妙に昭和!」



「じゃあ、打ちますね。シャツの袖を肩までまくってくださいね」

「さっさとそうしてくれればよかったんです。まだ尻が痛いですよ、まったく」

「ところで、ケン、一つ聞いてもいいですか?」

「はい? なんですか?」

「ケンはカノジョいますか?」

「……それワクチンに関係あるんですか?」

「問診で聞かなければいけないことになってるんです。答えてください。カノジョはいますか?」

「……それっぽいのは、いなくはないです」

「カノジョいるんですね?」

「……うーん、あくまでそれっぽい、ってだけなんですけど」

「ひどい! 私というものがありながら!」

「ちょちょちょちょ、ユ、ユミ子さん、注射器から液が漏れてる! 注射器ふりまわさないでください!」

「遊びだったのね!」

「いやいやいや、マジですって。マジでワクチン打ちに来たんです。俺は」

「というのは冗談です」

「いや、当たり前です。でも注射器逆手に持つのやめてください。殺意しか感じられませんから! ユミ子さん、なに探してるんですか?」

「カノジョがいる人にはこっちの注射器で打つことになってるんです。お尻ケツを出してベッドに寝ころんでください」

「ユミ子さん、それ注射器じゃない! 浣腸! そんなのでワクチン打たれたら、腹の中ワクチンだらけになっちゃう!」

「じゃあ、こっちで打ちますか?」

「そうそう、その普通の注射器でお願いしますよ。振り回さないでくださいね」

「じゃあ、これは尿道に打ちますから、パンツ脱いでください」

「ムリ!! 尿道に注射器なんて、ハードすぎー!! やめてー!!」

「大丈夫大丈夫。ちゃんとワセリン塗りますから」

「大丈夫じゃないー!!」

「うふふふふふ♡」


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

執拗にケツを狙う巨乳美人のケツ注射! 恐怖のワクチン「お注射ガマンできるかな~?」 ゆうすけ @Hasahina214

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ