第17話 文化祭は恋の予感?!
文化祭当日。
朝からみんな浮き足立っていた。
校門から風船だらけの装飾だし、グラウンドには所狭しと屋台が出ていた。
「祭りだなあ」
気づけば明智君が隣に立っている。
「さ、事件を探しに行こうか」
そう言った明智君は、にっこりと笑った。
私は文化祭のプログラムを見る。
「へえ。午前十時から演劇部の『不思議の国のアリストテレス』十二時から吹奏楽部の演奏、午後一時から体育館で大告白大会だって」
私の言葉に明智君は慌てた様子で、私の見ていたプログラムの紙を奪い取る。
「ちょ、なにするの?!」
「いや、紙に大きなハチがいたもんで」
「いねえよ!」
「僕というハチだよ」
「どういう意味なの……」
「ま、何はともあれ、屋台へ行こう」
明智君はさっさとグラウンドへ。
私は少し悩んでからその背中を追いかける。
「わー! 先輩、イケメンですねっ! これおまけですっ」
そう言って明智君は一年女子から、クレープのアイスをおまけしてもらう。
「へえ。二年にこんなイケメンな子いるんだー。じゃあ、こっちはサービスしちゃう」
焼きそばの屋台で三年生のお姉さまたちに、焼きそば一パックを無料で提供される。
そんな状態だったので、明智君はたちまち大量の食べ物を抱えるはめになった。
忘れていたけど、明智君ってイケメンだったね。
そんなに目立つんだ、ふーん。
べっつにどうでもいいけどね!
なんだか心がモヤモヤとしたまま、私と明智君はグラウンドを離れた。
昇降口の前の階段の前で大量の食べ物を広げる。
明智君は割り箸を手にこう言う。
「さあ、食べてしまおうか」
「部室に持って行けば倉田君と雲母さんがいるんじゃないの?」
「二人には新聞部の出し物をしてもらっている」
「え、何もしないんじゃなかったの?」
「倉田君がビーズアクセサリーを大量に作っていただろう? どうせならあれを売ろうという話になったらしい」
「ああ、なるほど」
私はたこ焼きを口に入れた。
「雲母さんが作ったという体にするらしい。まあ、言わなくても雲母さんが作ったと思われるだろうね」
「別に倉田君が作っていても、お客が減るわけじゃないと思うんだけどな」
「それはそうだけどな。でも、倉田君自身が恥ずかしいのだろう。まだ世間では偏見みたいなものはあるし」
明智君はそう言うと、クレープを大口で食べてこちらを見る。
「ふぃんふぁふぃふぃふぃ」
「飲み込んでからしゃべってよ……」
「みんな、君みたいに心がきれいだったらいいのにな」
「ああ、まあ……。えっ? は?」
「みんな君みたいに心がきれいだったらいいのにな、と言ったんだよ」
「な、なにを言ってるの?! 私の心なんか汚れ切ってるよ! どぶ川だよ!」
「そこまで謙遜しなくても……」
明智君はフライドポテトを口に放り込み、それからもぐもぐやってから続ける。
「僕は、君に命を助けられたことがあるんだ」
「えっ。そんなことしてないけど」
「あれは、去年の秋のこと。ちょうど一年くらい前だった。土曜日に本屋まで歩いてたんだ」
「いきなり思い出話が始まった」
「僕はその日、発売される新しい本のことで頭がいっぱいだった。楽しみにしていたからね」
「もしや、週刊コロンダ刑事?」
「なぜ知ってるんだ」
「そういえば、去年、発売してたなーって。CMで見ただけだけど」
「まあ、僕はその本で頭がいっぱいで、横断歩道を渡ろうとした」
「それで?」
「『待って』という大きな声が後ろで聞こえて、僕は思わず立ち止まったんだ」
明智君は、私を見て続ける。
「その直後、信号無視の車がものすごいスピードで走って行った」
「じゃあ、そのまま横断歩道を渡っていたら……」
「確実に轢かれていたね」
「それ、私関係なくない?」
「『待って』と言ったのが、奈前さんだ」
「えっ? 私、そんなことした覚えは」
そこでハッとする。
一年前と言えば、能力が開花したばかりでおもしろくて色々なものに名前をつけていた。
事故が多いといえば、あの狸の置物のあるコスモス畑の手前の横断歩道だ。
「君は、道端のコスモスと会話をしていたんだ」
「すごくきれいに解釈してくれているけど、私は狸の置物と話していただけだよ」
「まあ、どっちでもいい。同じことだよ」
「まさか同じ学校の女子だとは思わなかった」
「それから、私を監視して、能力があるってわかったんだね」
「ああ、まあそんなところだよ」
明智君はうなずいて、それから私から視線をそらす。
今日の明智君はなんだかおかしい。
いや、いつもおかしいんだけど。
今日はおかしいのベクトルが違うというか。
まあ、明智君も文化祭で浮かれているだけかな。
そんなことを考えつつ、ぼんやりと屋台のほうを見ていると。
「多すぎた。クレープ食べる?」
「あ、ちょうど甘い物食べたかったんだ」
私は差し出されたクレープにかぶりつく。
そしてフリーズ。
ちょっとまて。
これ、食べかけ……。
「ああ、ごめん。僕の食べかけだと言い忘れた」
まさか口に入れたものを吐き出すわけにはいかず。
私はもぐもぐごっくん。
食べた途端に、関節キスという言葉が頭に浮かぶ。
うつむいて落ち着こうとする。
どんどん心拍数が上がっていく。
顔が熱い。
こんな顔、明智君に見られたくない。
口の中は、チョコレートとバナナとバニラアイスの味でやたらと甘かった。
そのあとはお腹がパンパンになったので、食べ物の屋台は避けた。
射撃だのヨーヨー釣りだのスタンプラリーだの謎解きだの、気になるところには全部入ってみる。
去年の文化祭は、一人ぼっちだった。
今年もそうだと思っていたけど、まさか今年はこんなに楽しいなんて。
「さて、そろそろ新聞部を見てみるか」
明智君の言葉に、私はスマホで時刻を確認。
十二時ちょうど。
もうこんな時間か。
「部長」「部長きたっすね」
明智君の前には、ニコニコしている雲母さんと倉田君。
長机は部室の前の廊下に出され、その上に並んだリングケースや陶器のトレイはほぼ空だった。
「おお、あんなにあったのに全部、売れたのか!」
明智君の言葉に、二人はうんうんとうなずく。
「ここじゃあ目立たないかなあと思ったんっすけどね」
「歩くスピーカーの女子を誘導した」
雲母さんはそう言ってこう続ける。
「そしたら、クオリティが高いって宣伝してくれていっぱい売れた」
ふと見れば、リングケースの隅に指輪が一つだけ残っている。
白い花が連なっているようなデザインのビーズの指輪。
「わー。かわいい」
「ああ、それ残ってたんっすね。先輩はめてみてください」
倉田君に言われるがままに指輪をはめる。
中指ではぶかぶか。
右手の薬指は少し大きい。
まさか左手の薬指。
「ぴったりすね」
「じゃあ、買ってもいい?」
「先輩なら無料で――」
「ダメだ。僕が取っておいてもらった物なんだから」
明智君がそう言うと、雲母さんがハッとしたように口を開く。
「そう、これはだめ」
「なーにそれ。明智君がはめるの?」
「そうだ。いいだろう」
明智君は指輪をポケットにしまい、それからこう言う。
「奈前さん。今から君にすることは、君を嫌いだとか恨んでいるというわけじゃないからな」
「は? なんの話?」
私が首をかしげると、明智君は私の肩に手を置く。
そして顔を近づけてきた。
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