第8話
「良いですよ。最後の私の作品です。大切にしてくださいね。」
嬉しく思っていた俺にはミリーの言葉が引っかかった。
「最後?」
「私は死にます。」
「!?」
「ああ、落ち着いてください。死ぬって言っても貴族ミリー・クローゼを殺すのです。私は知らぬ地名も分からない工房で徒弟となり画家になります。」
「俺のそばにいてくれないのか?」
俺は言った後に告白ではないかと思って一人で自分勝手に頭真っ白になって言い訳を考えようとしていた。
「あんまり、変な言い方するものじゃありませんよ。貴方は影響力のある方だ。言葉には気をつけた方がいい。私はこの本達が自分の頭の知識が絵が全てなんです。このままここに居ては私は全てを捨てなくてはいけません。そんなのごめんなのです。」
「そうか……言葉ね。直球で言おう。俺の妻になってくれないか」
俺はここで言わないと悔いてしまう気がした。そう思うと羞恥心とか関係なかった。自分の心の気持ちを彼女に話す。
「そのお誘いは嬉しいですが。お断りさせていただきます。確かに貴方は私に好意を向けているんだろうと思いましたし私自身とても嬉しいですが。私は自分の決めた道を諦めたくないのです。どうか我儘を許して頂けませんか?」
俺はふられることを自分でどこか分かっていたのかもしれない。とても悲しいのに頭はスっとしていて涙どころか感情なんて出てこなかった。二人で無言でいるとノック音がする。その日はそこで終わった。
次の日俺は彼女から完成させた絵を貰った。俺はありがとうと伝える。俺は女々しいと思いつつも名残惜しくてミリーに出ていく前日に会いたいと言った。彼女は快く了承してくれた。
そして、その日待ち合わせ場所に彼女は来てくれなかった。その代わりエルマが来た。
「申し訳ない。説明は馬車でします。なのでとりあえず着いてきてください。」
至って冷静にエルマはそう言うが息が上がっていて冬なのに汗をかいていた。話を聞くとミリーはどうやら親に失踪しようとしてたことがバレたようだ。殺されかけているところを丁度アイルが見つけて助けたと言う。ミリーとアイルは共に負傷していて今二人とも病院にいるのだという。ミリーは衰弱しながらもエルマとクロエに俺と約束していることを伝えたと言う。病院にはクロエが俺の元にはエルマが向かったというわけらしい。病院に着き彼女の病室に行くとミリーは目の周りと足を包帯で覆われていた。横にいるアイルは頬にガーゼが貼ってあった。見えないので確認が出来ないけど脇腹を刺されていたとエルマが教えてくれる。俺は手前にいるアイルに頭を下げ小さく挨拶をしてミリーの元に近づいた。
「ミリー来たよ。」
「その声は皇太子様でしょうか。約束を守れなくてすみません。」
「良いんだよ。それより、大丈夫だったかい?」
「大丈夫……といえば大丈夫ですが、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃありません。医者によると足は骨折らしいです。軽いものなので一、二ヶ月で治るそうです。ただ、目は一生見えないと言われました。」
目は画家の命。それは、知識のない俺にだってわかる。彼女は自分の夢に進めないことに絶望しているのだ。
「変なところだけ父様は頭がまるんですよね。目を潰せば夢を諦めなくてはいけないってね。人間の情報の大半を視力が占めているのに生活も難しいのに。どうせ売り飛ばされるのがオチです。まぁ、お姉様達と違って自由奔放に生きてきた末路がこれなんで自業自得といえばそれまでです。でも良かった。目が消える前にあなたの絵を完成できて」
「……」
俺は自室に飾った彼女の絵を思い出す。今日の彼女はやけに喋る。悲しさを紛らわすためだろうか。まだ喋っている。
「なぁ、ミリーもう一度聞いてもいいか。」
「良いですよ。何度だって教えますよ。」
「俺と結婚を前提に付き合って頂けませんか?」
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