第6話

「……単刀直入で言います。貴方をモデルに絵を描かせてください。」

「俺を?」

「そうです。申し訳ないですけど今まで全く興味がなかったのですが、初め会った時に思いました。貴方のような美しい方を絵にしたいと。ただ、私はこのような性格ですからなかなか言い出せませんでした。」

「良いですよ。どうすればいいですか?」

俺は彼女に近付けたことが嬉しくて頼みを了承した。

「そんなに固くなくて良いですよ。そこに座っていただければ。そ、そうだ。話をしましょう。」

家でも有名な画家に書いてもらったが喋るな動くなと地獄だった記憶がある。少年に無理な話をすると今にして思う。

「い、良いのか。動いてしまうよ。」

「口が動いてるくらいだったら大丈夫です。仮に動いても元の位置に戻ることを意識してくれれば良いです。」

「わかった。」

俺は言われた通りにする。

「そうですね。皇太子様は音楽が好きらしいですが、どう言った曲が好きですか?」

「どう言ったって言うのは?」

「そうですね。例えば異国の民謡が好きだとかオーケストラでやるような音楽が好きだとか言い様は色々ありますけど」

「だったら、そのどれもが好きだよ。人によっては異国の音楽を馬鹿にするものがいるけど私は独特でとても素敵だと思う。つまらないラブロマンスの劇を見に行くくらい色んな楽器を使った演奏も好きだし。」

ほかにも、自国の民謡も好きだし、出せばキリがなかった。

「やっぱり、劇つまらなかったんですね。」

と、ボソリとミリーは言う。

「ま、まぁ。面白いのかもしれないけど俺は趣味じゃなかったな。」

「そうですか。基本的に男性は恋愛ものを好みませんよね。まぁ、好きな人は好きでしょうけど。私自身好きですし。まぁ、演劇自体が好きなんですけどね。でも、初めて皇太子様とお会いした時のあの劇は身分の差があるが故の苦悩を乗り越えるというものでしたが原作のお話では身分ではなく一方的にヒロインの父親がヒーローを嫌ってるものです。あまりにも露骨なので他の設定を追加して生々しくて演じられないシーンをカットもしくはアレンジしたのでしょうね。」

そう言うとあの題名も思い出せないその劇を彼女は動物でも愛でるように話す。

「ミリーさんは物知りだね。」

「呼び捨てで良いですよ。国の一番上に立つ人がこんな貴族一人に謙らないでください。そうですね。事前にそれに関する文献を読んだりはしますね。劇の理解を深めたいので。役者のその役への理解度を見たりするのにも使いますし。」

「お話じゃなくて役者を見てるのか。」

「皇太子様は知ってますか?本当にすごい役者さんてお話の面白い面白くないなんて関係なしに人を喜ばせて最後には拍手喝采を貰うんです。すごい昔に私は家族旅行で隣国に行った時にそういった人を見たんです。そういう人に今度会えたらお話を聞きたいなと思って。それにお話は基本的には覚えているので。」

隣国は海が近く色々異国からの物が入ってくるせいか昔から文化が発展していた。音楽も例外はなくとても素晴らしかった。俺の昔ピアノを教えてくれた人もそこ出身だった。劇もさぞ楽しいのだろうな。

「それは、見てみたいな。」

「ちなみに、その人は死にました。」

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