第5話

「ああ、君はクローゼ家の令嬢じゃないか。久しぶりだな。」

我ながらナチュラルさにかけている気がする。

「え、ああ。これは、皇太子様お久しぶりです。」

俺とは対比的に本当に偶然あったかのようにクロエは俺に挨拶をする。それにつられて後ろにいる女性も俺にお辞儀をする。

「今日はお忍びで?」

「ああ、そうだ。演劇は好きでね。特に音楽が。」

そう言うと女性はビクッとする。

「そうなんですね。」

「そちらのレディーはどなたですか?」

話も程々に俺は彼女に聞く。

「ああ、妹のミリーですわ。ほら、挨拶しなさい。」

すると、クロエの後ろにいながらもミリーは俺に挨拶する。

「初めまして皇太子様。ミリーと申します。」

簡潔な挨拶を彼女は済ませると、俺と目が合わないようにする。初めて声を聞いた。小鳥のようにか細く高い声だった。

「あはは、申し訳ありません人見知りなもので。」

「ああ、大丈夫だ。今日は失礼させて頂くよ。 」

多分いきなりお茶とかは無理だろう。ミリーはとても震えていたから。

「分かりました。では失礼します。」

そして、別れる。そして、クロエの家から手紙が届いたのは次の日だった。速達だった。内容はミリーが私に劇の感想を聞きたそうにしていたという内容だった。どうやら初対面にしてこちらに好意を向けさせることが出来たようだ。俺は手紙を出すことにした。私的で手紙を出すのはいつぶりだろうか。なんて、考えながら書く。

「こんなもんだろう。」

俺は召使いに郵便するように頼んだ。頼んでから内容は変ではないだろうかと考え始めてしまう。しかし、その考えは俺の杞憂で終わった。1週間後に手紙の返事が返ってきた。中には粗雑な時で……殴り書きに近いな。多分これはミリーだろう。あの家のどの人と文字が似てない。宛名を見たら案の定だった。内容は私の話に共感していたり、違う解釈だと言ったり音楽の私でも知らないような用語を使ったりしていた。俺は筆をまた取った。そうして、文通をし始めた。そして、そんなある日彼女に家への招待を受けた。俺は承諾した。家には、双子の姉妹が出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。皇太子様」

「ああ、ありがとう。君たちの両親はどうしたんだ?」

「ああ、父と母は兄にお願いして出かけさせました。そうしないと多分ミリーとの面会は叶わないので。」

「そうなのか。苦労をかけてしまったな。」

「いえ、可愛い妹のためですので。」

「そうか。では、案内を頼む。」

すると、双子は頷きこちらへと俺を案内をする。通されたのは埃っぽい屋根裏への階段だった。

「後でお茶を持ってきます。ごゆっくり」

とクロエとエルマは下がる。屋根裏へ続くドアをノックするとどうぞと声が聞こえる。俺が入るとそこには窓に向かって絵を描く少女がいた。

「お姉様何の用ですか?……」

姉と勘違いしたようで俺を見るなりミリーは木炭を床に落とす。落下の衝撃で木炭は真っ二つに割れた。

「こ、皇太子様。嘘、本当に来たんですか!?えっと、ようこそ。」

ミリーは知らなかったのか。知っていても出迎えてくれるようには見えないけど。

「君が呼んだんだろ。」

「呼びましたけどまさか本当に来るとは思いませんでした。しかも、こんな埃っぽいところ嫌でしょうに。」

確かに階段を上る時少し汚れはしたが、他に比べたら気にするようなことでもなかった。

「大丈夫だよ。」

「そうですか。」

「今日俺を呼んだ理由はなんですか?」

「……単刀直入で言います。貴方をモデルに絵を描かせてください。」

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