第4話 無詠唱魔法


 夜。家族全員でディナーをしていた時のことだ。

 いつ見ても美人な母、ミリエットが俺にある質問をしてきた。


「ディザー君は、将来何になりたい?」

「んー、やっぱ、魔物とかと戦う人とか見ると、かっこいいなーって」


 グレイスは嬉しそうだった。


「じゃあ、剣と魔法、どっちのほうがカッコイイ?」


 剣か魔法、か。

 小説の主人公は剣士だったが……。


「魔法の方が好きだよ」

「まあ、魔法が好きなの! 可愛い!!」


 え、ん?

 可愛い??


 ちなみに、この世界で実際に魔法を見たのは、【ヒール】だけだ。

 魔物との戦いでケガした男達が、いつも魔法を使える女に治療してもらっている。


「うーん、魔法か……」


 喜ぶミリエットに対して、グレイスは何かを考え込んでいた。

 



 俺は魔法を練習するために、何をすればいいのか考えた。

 おそらく、家には魔法について書いてある本は無い。


 グレイスは一応剣士だし、ミリエットはどちらでもないからだ。


 だとすれば、学校に通うという選択肢もある。だが、それは二人に申し訳ない。

 俺は二人の実の子では無いからだ。これ以上、良くしてもらうことは出来ない。



 ――しかし、問題無い。

 俺はアンブルストーリーの設定を、全て覚えている。

 つまり、小説に登場した魔法の詠唱も、全て覚えているのだ。

 あとは、自分で感覚をつかむしかないだろう。


 12年後に襲ってくる魔物はまだしも、無論、魔王軍は簡単には倒せない。

 時間は無い。そうと決まれば実践だ。


「母さん、ちょっと外に遊びに行ってくる!」

「私もついて行ったほうがいい?」

「僕だけで大丈夫! 遠くには行かないから安心して」

「わかった。楽しんできてね」


 ミリエットはニコッと笑った。


 そういうわけで、森林の中でも猫族があまり近寄らない場所を探すことにした。

 ただでさえ猫族に嫌われている俺が、怪しい行動をしていていたら、この森林を追い出されるだろうからな。


「よし、ここにしよう」


 歩いていると、森林に囲まれた小さな草原の中心に、一番立派な木がなっているところを発見した。

 周囲を見渡すが、昔の人間が作った家などは、ここらにはあまりないようだ。

 草が風よくなびいている。


 俺はここで魔法の練習をすることにした――




 まずは確認だ。

 この世界では、魔法を使用する際、詠唱と魔法陣、それと結界の3つのうちどれかを使う必要がある。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 「詠唱」:魔法名を述べ、魔法を発動。


 「魔法陣」:地面に任意の図を描き、魔力を注ぎ込むことにより、連続で魔法を発動させる。


 「結界」:大量の魔力を空間に放ち、広範囲に魔法を放つ。(詠唱は必要無し)


――――――――――――――――――――――――――――――――


 詠唱は簡単だが、自分の周囲で発動するため、魔力を込めすぎることは自殺行為。

 結界はとてつもない魔力を使うが、簡単な魔法でも破壊力があるなど、

 それぞれメリット、デメリットが存在する。


 俺は詠唱を使うことにした。

 では、まずは簡単な【ファイア】から。


(よっしゃ行くぜ!!!)


「ファイア!!」


 そういって、いずれ仲間になるであろう、魔法使い少女の振り付けをする。

 しかし、何も起きなかった。


「うーん、おかしいなぁ……」


 というか、火の魔法とか使うの危なくね?

 風にしとこう……。


「ウィンド!」


 風が吹くどころか、自然の風が吹くのをやめてしまった。


(もしかして、俺って魔力無い?)


 ――いやいやいや、そんなはずは無い。


 きっと、感覚を掴めていないだけだ。

 そんなこと言ってたら魔力と詠唱が分かればどんな魔法でも使えてしまうからな。


(よし、もういっちょ!)


「ウィンド!」




 これを、俺は約半年続けた。

 気づけば今日で、もう5歳の誕生日か。

 いや、正確には、あの二人と出会った記念日だが……。


 毎日毎日、魔法の練習を朝から晩までした。

 しかし、一向に仕えなかった。


「はぁ。やっぱ俺、魔法の才能無いんじゃね?」


『大人しく剣を振っていろ』

 神様はそう言いたいのだろうか?


 夕日を見ながら、俺は草の上に横たわっていた。


「魔法を使うのって、こんなに難しいんだな……」


 ぼーっとしていた。

 俺は自分に魔力があると仮定し、上に魔力を集める。


 何も起きないと思っていた。

 だが、急に「メキメキメキ」といった不思議な音が鳴り始める。

 すると丸い半透明の小さい何かが作られていく。


「え……」


 気づけば、水玉が上に浮いていた。

 動揺してそれを眺めていると、その水玉は俺の美しい顔面目掛けて落ちてきやがった。


 季節は夏だが、水はものすごく冷たかった。


「今のって!!」


 俺は立ち上がり、今とまったく同じ感覚を再現する。

 すると、水が向こうに吹っ飛んで行った。


 ヒューーーーーン。


「うぉおおお!!」


 俺は何が起こったのか、分析を始める。


 これはどう見ても、普通の魔法の使い方では無い。

 詠唱、魔法陣、結界のどれでもない。


(……いや、違う!!)


 そこで俺は気が付いた。

 俺、そしてこの世界の人々は肝心なことに気が付いていなかったのだ。



 単刀直入に言えば、

 俺の魔法は結界によって発生しているのだろう。 


 結界は、超強力な魔法を広範囲に使用する際に使用されるものだと思っていた。

 だがそれは間違い。


 自分の魔力さえ多ければ、狭い範囲にでも結界を張ることは出来るのだ。

 あとは、その結界に魔法を発動させればいい。



「半年間、魔法を使えずに悩んでよかったーーーー!」


 ……にしても、何故詠唱魔法が使えないんだろうか。

 ま、無詠唱で魔法を使えるんだからいいか。

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