第3話 猫族の視線


 予想通り、グレイスのスキルが発動した。


 恐らく、【ファンドスラッシュ】というスキルだ。

 前方に自分自身が瞬間移動することにより、ダメージを大幅に上げることが出来るスキルだ。


(かっこええ!!)

「キャー! かっこいいです!!」


 グレイスは頭をかきながら照れていた。


「ハハ、そうだろそうだろ」


 一瞬で倒してしまった。

 心配だったが、このグレイスという男。小説で書かれていた通りに強い。


 やはり、ここが異世界で小説の中の世界だということは確定だろう。


 俺も今後、剣とか振り回せるかと思うと楽しみで仕方がない。


「何事だ!!」


 その時、どこからか大きな声が鳴り響いた。

 グレイスはその誰を嫌そうな顔で見る。


「よ、よう。ラミオス」


 俺はグレイスの視線の先を見た。

 すると鋭い目つきの猫族の男がこちらへやって来た。


「魔物が出たから倒したんだ」

「この村で魔物を倒すんじゃねぇよ! 血の匂いがついちまうだろ?」


 うっわ、めんどくさ。

 そんなこと、いちいち気にしてられっかよ。

 と思ったのも束の間。

 ラミオスが堂々と歩いてきて俺の顔を覗いてきた。


「あ? コイツが、例の人間か……!!」


 ものすごい殺気だった。

 まるで、自分の家族を殺した奴を見るような顔だ。


 俺じゃなかったら、ちびってるね。多分。


「この村に魔物がやって来たのも、どうせその人間のせいやろ?」


(は、何言ってんだ? この人……)


 その瞬間、俺の肩に手を置いてきやがった。

 めちゃくちゃ痛い。


「やめてあげてください。怖がってるじゃないですか」


 そうだそうだ。お前は猫らしく、にゃーにゃー言ってろ。

 よし。グレイスと、ミリエットがラミオスに視線が向いている間に、少しからかってやるとしよう。


 ぐへへへへ


「べー」

「おい! コイツ今俺を馬鹿にしてきやがった!」

「はい? この子はまだ一歳ですよ。確かに頭がいいと思いますが、そんなことをするような歳じゃないです」


 頭がいいだって! ぐふふ。

 嬉しいなぁ!

 ちなみに、精神年齢は君たちより上なんだ!


「チッ。人間の子供なのに、何故そいつを庇うんだ」


 グレイスは、俺を守るようにして立った。

 筋肉は無いが、その背中は頼もしい。惚れてしまいそうだ。


「この子は俺たちの子どもだ。何回お前に言われようと、変わらない」

「ハッ、長がなんで人間の子どもを受け入れたのか不思議でしょうがねぇよ」


 ここまでの話を聞いて分かった。

 ラミオスは明らかに俺を嫌っている。その理由は、俺が人間だから。

 そして小説の主人公が猫族なのに対し、俺は人間。

 故に、ラミオスは小説のストーリーと異なるキャラクターになっているのだろう。


 それに、どうやら俺の存在は猫族の間で既に知られているらしい。


 俺は不安になり、ミリエットの顔を見る。


「大丈夫だよ、ディザー君」


 そういって、ミリエットが俺の頭を撫でた瞬間のことだった。


「何を騒いでいるんだ」

「お、村長」


 階段から、数人の猫族が歩いてきた。

 恐らく、一番前の人が長だろう。


 明らかに頭が良さそうな顔面をしている。


「グレイス、説明を」


 村長が言うと、視線がグレイスに集まる。


「はい。魔物を倒した後、少々世間話をしておりました」


 今ここで猫族と人間の話にならないようにしようとしているのだろうか。


 しかし、ラミオスは真実を告げる。


「違う! このガキの話をしてたんだ。きっと最近魔物が多いのもこのガキのせいですよ!」


 長の後ろにいる猫族がざわつき始める。

 しかし、丸聞こえだ。

 俺がこの村にいることに対しての愚痴を言っている。


 どうやら、俺はこの村にはいてはいけない存在らしい。


「ちょっと、そんな言い方は無いのでは――」


 ミリエットが我慢できなくて発言をした瞬間、長が片手を上げた。

 すると全員が黙り、自然の美しい音が耳に入る――


 やがて、村長は話始めた。


「……人間を嫌う気持ちは良く分かる。しかし、この子に罪は無い」

「村長!」


 ラミオスは激怒し、思わず村長の名前を呼ぶ。

 村長はため息をついた。


「はぁ。今日の夜、男はいつもの場所にくるんだ。女は家のドアをしっかり閉めろ。いいな」

「「「はい」」」


 そして、解散をした。



 猫族は人間を嫌いだなんて知らなかった。

 小説では一切そのような描写は無い。


 グレイスとミリエット。

 二人も、人間が嫌いなのだろうか?





 ――――それから3年が経過し、俺は四歳。めでたく妹が生まれた。


 あいつら、いつの間にか「にゃんにゃん」してたんだな……。


 名前は小説通り、ミアと名付けられた。

 不思議なもので、もう猫耳もサラサラした髪も生えている。

 どうやら、猫族はすぐに毛が伸びるようだ。


 もちろん、いつも率先してお世話をしている。

 何故かというと、ミアは俺の大好きなキャラの一人だからだ。


 ふっふっふ、成長が楽しみで仕方が無い。




 さて、この時の俺は自分の好きな小説の世界を楽しみつつ、同時にある大きな問題について考えていた。

 今もっとも問題視すべきなのは二つだ。


 1、俺が16歳の頃、この可愛い妹が魔物に殺される。

 2、その数日後、両親が殺される。


 つまり、俺がやるべきこと。

 ――それは強くなることだ。

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