第8話 俺たちはもう、仲間じゃない

 ズクシは倒した馬車から奪った食料を食べながら待っていた。


「いつになったら来てくれるんだ、ベック」


 あれから1日経ってしまった。馬車は昨日の昼から全く通らなくなってしまい、時間を持て余していた。


 仲間達は馬車から奪った食料を奪い合っている。


 敵も来なくなり、すっかり自由を満喫している様だった。


「•••お前達が楽しそうで、オレも嬉しいよ」


 ぼんやりと眺めながら、ズクシは呟く。


 連絡係のウルフが走ってきたのはその時だった。


「へぇ、馬車が来たの。一台だけだった?そっか。まぁ冒険者だろうから頑張ってね」


 特にやらなければならない事の無いズクシは馬車が来ても退屈な事に変わりはなかった。


「頼むからいてくれよ。ベック」


 そして、ズクシの願いは叶う事になった。


 ウルフに追われる馬車が見え始めた時、ズクシは歓喜の声を上げた。


 ウルフに追われている馬車を操舵しているのは他の誰でも無いベックだった。 


「御者が嫌がったのか?それにしても馬車の運転なんていつの間に覚えたんだ?」 


 ズクシの記憶の中ではベックが馬車の操舵などしているところを見た事は無い。


 不慣れな割にはベックは頑張った。ウルフが焦れて馬の首に噛み付くまで、しっかりと操舵仕切ったのだ。


 馬車が倒れ、ベックは素早く受け身を取り、側にいたウルフを斬り伏せた。


「流石だな、ベック。でもまだまだ敵はいるぞ」


 森の至る所から待ち伏せして現れた様々な魔物を相手に慌てる事もなく戦いを続ける。


「流石に情報は仕入れてるよなぁ」


 しかし、今ベックが戦っている魔物は囮に過ぎない。


 狙いは馬車の中に居る、キュリーとサラだった。


「早く出て来いよ、クソ女どもが」


 馬車からは死角になる岩陰には弓を構えたゴブリンを待機させている。


 2人が出てくれば一瞬の内にハリネズミになる。それだけの量を集めたのだ。


 しかし、いくら待っても2人は出てこない。


「まさか馬車の中で気絶でもしてるのか?」


 いや、それは有り得ない。あの2人もそこまで愚鈍では無かった。


 ベックの足手まといにはならない。


 いずれ来る魔王との戦いにおいて、悪くない戦力だと思った。


 そう判断したからこそ、仲間になる事を反対しなかった。


 だとしたら。


 ズクシの中に、1つの答えが導き出された。


「1人で来たのか。流石ベックだな」


 ズクシの考えていた計画は崩れ去った。しかし、ズクシは悔しいとは思っていなかった。


 ただ心の底から、ベックの事を見直していた。


「あの女2人のせいで腑抜けになったかと心配したぞ、ベック」


 最後の魔物が倒したベックは声を張り上げた。


「いるんだろう!ズクシ!出て来いよ!どうしてこんな事をしたんだ!」


 どうすれば良い?


 どうすれば、オレの想いは伝わるのだろうか。


 ズクシが考えている時だった。


 岩陰に潜むゴブリンが弓をベックに向けた。


 ベックはオレを探す為に後ろを向いていた。


 咄嗟にオレの身体は動いていた。


 素早くゴブリンの後ろまで飛び、そのままの勢いで斬り●す。


「久しぶりだな。ベック」


 流石のベックもオレの登場に驚きを隠せない様だった。


「キミは、どうして•••何がしたいんだ?」


「やっぱり、分かってなかったみたいだな。ベック、オレはいつだってお前の為に行動していたんだ」


「そんな事言われても、信用出来る訳ないだろ」


「•••だから、そこの茂みにサラを潜ませているのか?」


「•••そこまで分かっていてなぜ出てきた?」


「お前を傷つける気はなかった。信じてもらえないんだろうけどな」


「•••本当に、もう、キミの事がわからないんだ。キミは、ボクをどうしたいんだ?」


「一緒に居られれば、それだけで良かったんだ」


「その為なら交渉人のスキルで人を操る事に躊躇いは無いのか?」


「ベックに言われてからは使ってない!使うなと言われた相手にもだ」


「使っただろう!キュリーを騙し、サラから勾玉を盗んだ事は事実だろ!」


「キュリーと交渉したのは、仲間になる前だし、オレにスキルを使うなと言ったのはサラの勾玉が無くなった後だろ」


「屁理屈を•••だったら!俺を騙していた事はどうだ!何十年も俺を騙し続けて、さぞ楽しかっただろうなぁ!」


「それは•••すまない。でも、信じてくれ!オレは本当に、お前を傷つける気はなかった!」


 ズクシが言い終わると同時に、ベックは剣を振った。辛うじてかわしたズクシにはベックと戦うつもりなど無かった。


 しかし、ベックもサラも、ズクシを逃すつもりはない様だった。


 走るズクシの右脚が突然動かなくなり、バランスを崩して倒れた。


 ズクシの足は氷漬けになっていた。サラの魔法だ、と理解した時には、ズクシの首は刎ねられていた。


「終わったのか•••」


 ズクシの死体を見つめながら、ベックは呟いた。その声には悲しみは無かった。


「この死体はどうするの?」


「ギルドオーナーに回収してもらう。一度村に戻ろう」


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